誠司と零
沖田誠司と斎藤零が対面してまず初めにした事がテレビを消す事だった。
零があの、テレビを消してくれませんか?と恥ずかしそうに小声で言い誠司はあっ、ごめんと言って慌ててテレビを消すというなんとも締まらない会話が交わされる。
誠司と零の間にしばしの沈黙の後、花園と思われる気弱そうな顔をしたメガネ男が割って入り
「お初にお目に掛かります。わたくし国家迷宮対策事務次官の花園卓志と申します。やっとお会い出来て感激です。沖田さん」
とにこやかに言いながら花園は名刺を誠司に差し出す。誠司はそんな花園を無視して零を見た。
「大したモンだな。おれの力を破るなんて、【消滅】とか言ったか?たしかにそれ程の力があればTIT規格
にも当てはまるかもな」
チートと呼ばれるにはTIT規格と呼ばれる特別な評定法をクリアしなければならない。これは国連が定めたルールだ。ちなみにチートと呼ばれる所以もこのTIT規格の別読みから来ている。国としての力を示せる為国連が定めたTIT規格を我が国でも採用しているがこの評定法をクリアする事は困難を極める。これをクリアした者は国連に加盟している全ての国々約60億人の中でも30人にも満たない。もっとも軍事的な理由から公表してない者もいるためこの数字が全てではないが。
「政府からやっと昨日TIT仮認定を受けまして、正式な認定を受ける為の試験として選んだ案件がこの【時空隔絶の部屋】です。まさかダンジョン以外で迷宮案件が存在しているとは思いもしませんでした」
誠司は零の言葉に軽い溜息を吐いた。
「この部屋を試験にするなんて政府も頭が悪い集団としか言いようがないがな。まぁ、おかげで調子に乗った奴をへこませる良い暇つぶしになっていたが。面白かったぜ、初めは自分の力に酔いしれていた奴が次第に弱って最後に発狂しながら帰って行く様は」
誠司は歪んだ笑みを零に見せそんな冷酷ともいえる笑い方に零は背筋を凍らせた。やはり、この人・・・その続きを考えようとした矢先、誠司が少し考え込みその後に発した言葉で思考が遮ぎられた。
「おいアンタ、ちょっと待て。さっき仮認定って言ってたよな?じゃぁ、チート名乗れねぇはずだろ?なんで【消滅】とか言ってんだよ。二つ名は認定した後に皇主から貰うもんだろが」
「私はこの案件をクリアしたのですから、二つ名は当然賜り(たまわ)ます。能力から言っても【消滅】が付くのはほぼ確定でしょうから気になさらなくても結構です。結果が先に付くか後に付くかの違いなだけですから」
誠司はそうかよ。と飽きれまじり言葉を漏らした。
誠司は零の真面目臭くそれでいて傲慢とも取れるその自信に満ち溢れた態度にあの個性的で面倒なチート達と同類の匂いを感じ取り、零が認定されるのは確実だと思った。チートという人種は能力も人間性も世間とかけ離れているそんな風に思わせてしまう存在なのだ。
また、変な奴がチートになるのかと心の中でそんな事を思いながら誠司は零を見ていた。
「どうかなさいましたか?」
零は誠司のそんな失礼な思いに気付く訳もなく笑顔で誠司に言葉をかける。
「いや、なんでもねぇ。それよりも用事は済んだんだろ?そろそろ帰ってくれないか?」
「お待ち下さい。まだお話しは終わっていません」
慌てた様子で花園は誠司に近づく
「俺はそっちの女の話はさっきの言葉もあるし聞いてやってるが、あんたの話を聞く義理はないね」
花園は絶句した様子で顔を青くしている。
「私の話は聞いてくれるのですか?」
「あぁ、俺の力が破られたのは事実だからな」
「では、聞いてよろしいですか?」
零は少し遠慮気味に誠司に尋ねた。
「なぜ、12年経った今でも5歳当時の姿なのですか?」
零が真剣な顔を向けた先にいたのは5歳という幼い少年の姿をした誠司だった。