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女装して悪役令嬢を助けたら、ロックオンされて逃げられなくなった件  作者: 新田青


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1話


 パーティ会場にいる姉を見つけ、「俺はここにいなかったことにしてくれ」とだけ伝えると、馬車に乗って姉より先に屋敷に帰った。


 男爵家とは言っても、両親の商売が上手くいっているおかげで我が家はかなり立派な屋敷だ。


 その門を潜ろうとしたところで、一人のメイドに呼び止められる。


「アレン様。カナリア様はご一緒ではないのですか?」


 カナリアは姉の名前だ。


 カナリアと聞けば美しい音色を奏でる小さな鳥を想像するだろうが、俺の姉は断じてそんなものではない。


 あれは、鳥類で言えば猛禽の類だ。


「姉さんなら無事に友達ができたみたいだったよ」


「アレン様は?」


「俺? 俺はいいの。友達なんかより、今は剣術にしか興味がないから。てか、この姿を見てよ? これで友達が出来ても、後で変態って罵られるだけだろ?」


「別にそういう趣味があると言えばいいのではないですか?」


「多様化!」


 女装が悪いこととは言わない。誰が誰を好きになろうが、どんな自分を愛そうがどうでもいい。


 だが、俺が憧れているのはそれではない。剣一本で道を切り拓いていきたいのだ。それが女装剣士なんて称号を与えられるなんて考えられない。


 どうして俺がここまで剣術に傾倒するかというと、その理由はとある夢のためである。


「ふふ。多様化なんて、つくづくアレン様は大人びてらっしゃいますね」


「はは。そう?」


 そりゃ前世と合わせたらもう三十路過ぎてるからな、とは言えない俺はメイドの言葉に軽く頬を掻くだけで答えた。


「お食事にされますか?」


「いや、その前にこの格好をなんとかしたい……」


 フリフリのスカートを持ち上げながら言うと、メイドは今気がついた、と言わんばかりに口元に手を当てて驚く。


「そ、そうでした。アレン様は男性でしたね」


「はは。もういいから。とりあえず着替える準備をさせてよ。一分一秒でもこの格好でいたくない」


「かしこまりました」


 メイドの一礼を見ながら、俺は頭にかぶったカツラを取る。


 ダークブラウンのカツラを外すと、自分の黒い髪が出てきて目にかかる。


 カツラの色と地毛の色は違うため、きっとセレスティーナにはバレてない筈だ。


「ああ……姉さんに念押ししておかないと」


 一つ問題があるとしたら姉のことである。まるで風船の様に軽い口から、べらべらと人のことを喋る噂好きの姉。


 あの姉と一緒にパーティ会場に行ったため、知る人が聞けば俺の正体に勘づく人間がいるかもしれない。


 もしもそれがセレスティーナの耳に入ったら──。


「くそっ。最悪だ。この世界がアニメの世界だっていうのも最悪なのに、よりによって"フラワードール"だと!?」


 屋敷へ歩きながら独り言を漏らす。


 フラワードールの設定は花の精霊が主人公に力を与えるところから始まる。孤児だった主人公はその力で瞬く間に聖女と呼ばれるほどに成長する。


 その過程で様々な男性ヒロイン達と出会い、ラブコメをしながら世界を救っちゃうというよくある話である。


 だが、このフラワードール。他の作品とは違う点が一つある。主人公である聖女含め、全員がイカれた人間なのである。

 

 その中でもセレスティーナは度を越してる。


 あるエピソードの一つに、セレスティーナが聖女と男性ヒロインを奪い合い、聖女が男性ヒロインと口付けしたと知るシーンがある。


 彼女は何をしたかというと、嫉妬して逆に聖女の唇を貪るのだ。そして間接キスに恍惚の笑みを浮かべる。


 それだけでなく、そのキスによって何故か聖女の事も好きになってしまうという悪役令嬢らしからぬ純情さも見せつけてくる。まさに狂人である。


 物語の中において、セレスティーナは好き勝手にシナリオをぶち壊す存在であり、ある意味最強の悪役と言えるだろう。


「そんなセレスティーナと接触しちまうなんてっ……」


 これは姉の口封じをするのは絶対として、父親や母親にも口酸っぱく言っておかなければならないだろう。


 ただでさえセレスティーナと関わると碌な目に遭わないのは原作が証明しているし、俺自身もそんな泥沼の本編に関わりたくはない。


「大丈夫だ……。落ち着け俺。そ、そうだよ。セレスティーナはそもそも王子の婚約者だし、一度会った同性の人間なんてすぐに忘れる……よな?」


 原作で聖女のベッドに潜り込んでいたセレスティーナを思い出してゾッとする。


 いや、大丈夫だ。バレるわけがない。


 俺はその日の慢心が、すぐに間違いだっと気付かされる。



 ――――――――――――――


 パーティから一週間後。


「アレン。伯爵令嬢から手紙が届いてるんだけど、あんた何か心当たりある?」


 姉のカナリアが、ヒラヒラと指先で摘んだ手紙を見せてくる。


「て、て、て、てがみ? ち、ちなみにどんな内容で?」


「あんたどもりすぎじゃない? まさか、また私の部屋に入ったんじゃ──」


「いや、それは断じてやってない。もう懲りたから」


 手を振って否定する。


「あっそ。まあいいわ。伯爵令嬢があの日、パーティにいた人全員に手紙を出してるらしくて。茶色い髪で青色の瞳、ピンクのドレスを着たアイリスって令嬢を知らないかって」


 心臓が口から出そうになった。


 何たる執念か。


「あ、あばばば。し、知らない」


「いや、これあんたじゃないの? アレンとアイリスってなんか名前の雰囲気も似てるし」


 やはりこの姉はやけに勘が鋭い。


「お願いします姉さん! どうか!」


 俺はすぐさま土下座する。


「そもそも何があったのよ? まさか、伯爵令嬢に無礼でも働いたの?」


「ち、ち、ちゃいますがなぁ……ただ、貴族令息に殴られそうだったから助けただけですわ」


「その気持ち悪い喋り方やめて」


「はい……すいませんでした」


 カナリアは手紙をヒラヒラと弄びながら沈黙する。


 なるほど。ギロチンを待つ気分というのはこういうものか。


 一番知られたくない人物に知られてしまって、俺は土下座のまま絶望する。


「まあいいわ。あんたへの追求はとりあえずここまでにしといてあげる」


「本当ですか姉さん!?」


「あ、けど手紙の返事は出さないとね。うちに招待して、もてなして、話を聞く事にするわ。あんたと伯爵令嬢の話が裏取れなかったら──」


「と、取れなかったら?」


「そうね。せっかくだし我が家のために嫁いでもらおうかしら。金持ちの貴族に。大丈夫。可愛い男の子って意外に需要あるんだから」


 ダラダラと冷や汗が流れる。


 姉はやる。一度言葉にしたら絶対にやる。


「ご、ご勘弁を」


「あら? あんたの話が本当ならいいのよ。それと、当日はあんたも女装しておきなさい」


「な、なにゆえ?」


「私と一緒にパーティ会場に出席したのはいずれバレるわ。それなら、うちに滞在している貴族令嬢ってことにする。一族揃って伯爵令嬢を騙したなんて事になったら、お家が傾くわね」


(くそ。正論すぎて何も言い返せねえっ……)


 そもそもこんな事になったのは姉のせいなのに、と少し睨みつける。


「は?」


 すぐに目を逸らした。


(怖え! なんだあの目!? 視線で人を殺せるんじゃないか)


「あ、あの。では姉さん。俺はもう行っていいでしょうか?」


「ああいいわよ。日程は……そうねえ。この感じだとすぐにでもお茶会に招待できそうだし、3日後くらいを想定しておきなさい」


「はい……」


「じゃあハウス」


「ワンワン!」


 猫から逃げる鼠のように姉から離れていく。

 

 自分が情けないが仕方がない。俺は小さい頃から姉に何をしても勝てなかった。唯一互角、いや、喰らいつけるのが剣術だ。


 だから俺はいつか剣術を磨いて、寮のある王立学園に入るのだ。そしてこの家を出て、姉のいない場所へ行くのだ!


「だからこれは、戦略的撤退なんだ!」




 


 


 


 

 

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