四章 復讐と正義-3
後宮の天候は、鏃の驟雨でなければ投石の雹だ。
圃は踏み荒らされ、太医院は常に負傷者で超満員。焼け出された住人たちはうっそりと路傍に横たわる。
また夜が来る。
夜は魔魅の刻限だ。貘と契約し暗黒の力を得た水廌家が、刑部の武装官を率い、今宵も衡交家の游仙宮へ攻めはたる。
紫霞を羽衣に飛来した水廌家に、今夜は白額の豹が飛びかかった。
群衆は、ぬかりない衡交家の操獣術に狂い沸く。
豹と魔魅の二者は上になり下になりしながら、圃に穴を開けた。
「おのれ飼い豹ぶぜいが、正義の征路を阻むとは!」
肥料くさい土をかぶった水廌家は、怒気とともに紫霞を噴き出す。
今だ。と李翰は思った。
声帯のみを人に戻し、強く水廌家を引き寄せ、水廌家にだけ聞こえる声で、ささやいた。
「姐姐。もう、ゆっくり休んでください」
「雌豹め、この鏖殺公主に、戦う前から勝利宣言ですって⁉」
「気づくのがこんなに遅れてしまい、お許しください。姐姐は、後宮と後宮人を守ろうとしてくれていたんですね。もう一人で背負い込まないでください」
水廌家は挑むように口元をゆがめた。
「誰かこの、正義を惑わす豹に矢を射かけよ!」
李翰は水廌家を押さえ込み、夜目にも燃えるその碧眼を正視した。
「姐姐、あなたの擁した浩蕩王は偽物ですね。真王は王城を長期不在にしている。それを隠蔽するために、権力闘争ごっこをしていたんだ」
水廌家は答えなかった。
憤怒の化粧が消えると、隠されていたものが現れる。水廌家の素顔は夜目にも荒れて、疲労が沈着していた。
その頬を銀滴が伝い落ちた。
◇◇◇
「王が偽物? そんなの、王と脩身家の密会を目撃した時に既に気づいてたわよ」
いったん分かれて、刑宮で密かに落ち合った水廌家は、月も眠る頃というのに隙のない容しらいで、方才までの気弱さを覆い隠していた。肥料をかぶっちゃったというのもあるだろうけど。
おそらくこれからなされる話は、明るいそれではない。しかし、それに立ち向かわんとする気概が、巻きに巻いた高髻から伝わってくる。
「これは麟王家と、王家の姻戚たる水廌家一門だけの極秘事項なのだけれど。妾が今、刑宮に擁している王は、替身(影武者)よ」
「上流階級の生活って、小説じみてるなあ……」
「王業は多忙なの。浩蕩王は事と次第で替身と生身を使い分ける。顔かたちはもちろん、挙措や嗜好まで似せているから、判別できる公主は、王の親戚筋であり后候補だった妾しかいないでしょうね。それゆえ、脩身家との密会を目撃した時は、さほど不審に思わなかったわ。まああの場は、立場上嫉妬に狂ってみたけど」
演技であれなら、この人の本気の嫉妬ってどれほど激しいの?
「ことの深刻さに気づいたのは、〈王〉が莫恋しさに、後宮で刃傷沙汰を起こした時よ」
ぞっとしたわ。と、水廌家は自らの腕をかき抱いた。
「あの替身、妾と顔を会わさぬようにして、随分前から真王と入れ替わっていたのよ。莫に溺れていたのは、浩蕩王ではなくて、替身自身だった」
「真王はいずこに?」
水廌家をはじめ、後宮の公主たちは、莫が寵愛を受け始めた二年前から、ろくに王へ接見できない状態だった。真王は一体どこをうろついているのか?
水廌家は、無言で手元の鈴を鳴らした。
両脇を屈強な侍女に押さえられた青年が入室してくる。
下瞼の黒眼圏と阿修羅の形相はずいぶん改善しているが、態度は変わらず尊大だ。
「孤を呼びつけるとは不遜な妹どもめ、王たる孤に跪拝せぬか!」
「その陳腐な役割演技、李妹の前では無用よ」
水廌家は千年も変わらない法の化身みたいな声で、替身の青年をひざまづかせると、宝玉をちりばめた長い護指で下知した。
「例の話を、妾の李妹に」
すると替身の青年は、尊大さはどこへやら、平身低頭、語りだした。
「はい、お答えいたします。浩蕩王は一代の武神。大麟の誇る偉大な光輝でございます。けれども、強い光はまた濃い影をも生むもの。大王は影に呑まれたのです」
「虚飾は不要、簡潔に仰い」
「賤臣は、王を王殿の床下にお埋めいたしました。二年あまり前のことです」
李翰は水廌家を見た。
場を和ます乱世風の諧謔かなと思ったのだ。だが、水廌家のどこまでも青く澄明な睛は、現実を突きつけてくる。
「二年前のある夜のことでございます。浩蕩王は政務を終えて王殿の臥室に移られた。賤臣は不寝番の一人でした。夜半に異様な静まりを感じ、息を確かめた時にはもう……。龍体は生時よりもなお暖かく、薄化粧さながらの血色。ただ息だけがなかった。動揺した賤臣は、己以外の替身と、その夜警護に当たっていた同僚を全て斬り伏せて、王衣に袖を通しました」
つまり、王が謎の急死を遂げ、その責任の追及を恐れたこの青年は、やむなく王になりすました。それが二年あまり前。
訓練された一流の替身も、年中、交代もなく別人でいるのは神に来るものらしい。こと、化ける対象が、傑物の覇王である場合には。
ほどなく替身は重圧から不眠となり、貘に依存した。
という流れらしい。
「浩蕩王は壮健であられた。突然死を出す血筋でもない。おそらく毒死だ。だが、周辺から毒は出なかった」
「今の告白があなたの虚言でないという証は?」
と李翰が口をはさむと、替身は驚いたように否定した。
「大王は、戦国の勢力図を一代で塗り替えた、武の寵児。王城であの方に挑みかかって生きていられた者などおりません。それは曹公主殿下もご存知です」
水廌家が面白くなさそうに頷いている。
「それに大王は、大変用心深い方で。戦場でも口にされるのは、自ら捕った獣のみ、自ら汲んだ水のみ」
「では毒死も考えにくいのでは?」
「いえ、王が唯一気を許す方々がいらっしゃいました。それは、御妹たる後宮の長公主たちで――」
「言わせておけば!」
水廌家の銀鞭がしなった。
「正体を暴かれることのみを恐れ、何年も王業を怠った背職者の分際で!」
「な、なにとぞお許しを――――」
替身は、がばと顔をあげた。あの阿修羅の目だ。
「とでも言うと思うたか! この浪費女が! 大王の前である、態度を慎め!」
「気でも触れたのこの下郎!?」
替身の変貌に水廌家は目を瞬かせた。
「口を慎め後宮女ごときが!」
替身は背筋の冷える勢いでぶちまけた。
「浩蕩王は後継を決めずに崩御された。孤が偽王と知れたら、すぐに国内有力貴族の内紛だ。国内の勢力は蓄えておいた武力で制圧できても、その疲弊に乗じて、次に、麟公主を娶っている他国が、公主が生んだ子女を担ぎ出し、正統の名の下に大麟へ進攻してくる。
軍神の浩蕩王は天に帰し、麟貴族の心は王位を巡って分裂。他国に課した麟公主は星の数、これでどうやって敵を迎え撃つ?」
目つきこそ狂乱しているが、替身の想像する末路は、あくまで現実の延長線上。たぶんこの正気さゆえに彼は病んだのだろう。
「逃げ延びられると思うな後宮女ども。血統が途切れた後宮は、無用の長物。加えて、〈毒婦の莫氏〉のおかげで長公主どもの評判は地に落ちている。外朝の百官は偽王の死に便乗して、、長公主どもの殉死を求めるだろう。せいぜい覚悟して孤の正体を明かすことだ」
心を病んだ替身の頬に、修羅の笑みが盛り上がる。
「孤とそなたらは同舟の間柄。この浩蕩王あってこその後宮だ。存分に親しみ合おうではないか妹たちよ――」
音より速く鞭の光が飛んだ。
「知りなさい下郎」
鞭の柄が、青年のおとがいを上むかせる。
「妾の後宮を蹂躙した罪深きおまえを生かして、なお王たらしめているのは、おまえのためではない、おまえごときのために妾の家族を――後宮の姉妹たちを殉死させはしない。もう一度あの方の名を覚悟もなく騙って御覧、その汚らわしい喉笛を抉り出してやる!」
睛を異様な青色に燃やして水廌家は鞭を振り乱す。
既に床は血塗れだ。それでも鞭音は止まらない。
李翰は胆が冷えた。水廌家にも貘憑きの影響が出始めている。残虐性を好むあの性状が。
「姐姐、気を確かに! いま替身に死なれてはことです!」
水廌家の正論も、罵声も、鞭の乱打も、極限の心労で理性を欠いた男にはききめがない。
それどころか、替身は制止の侍女を振り飛ばし、こちらへ掴みかかってくる。替身は謙遜していたが、一代で四国を併呑した武神の替身だけあって、腐っても身体能力が高い。
李翰はそれを豹の手で制止し、これみよがしに水廌家へ提案した。
「あーなんか急に、庸夫子とお茶したいなー。ここに呼んでもいいですか」
「なぜあんなすまし女を呼ぶのよ? ああ、偽王の情人だから? まったく、替身の分際で莫とも脩身家とも楽しんでいたと思うと今更ながら腸が煮えるわ」
不快も露わな水廌家をよそに、激しく動揺を見せたのは替身だ。
「今、何と言った?」
阿修羅の迫力はどこへやら、白昼に幽鬼に遭遇したかのよう。
李翰はそれをわざとらしく無視して、水廌家に答える。
「そうはいっても姐姐。庸夫子が五体を刻まれてなお起き上がれたのは、何といってもこの替身への愛ゆえでしょう? 会えれば庸夫子も喜ぶし、荒れてる替身の心もおさまりますって」
「――起き上った!? 脩身家が? まさか!」
もう替身の声は処女のか細さだ。
「妹妹。今それどころじゃないのわかるでしょ。お茶は今度にして!」
「えー、良案だと思ったんですけどー」
「おい、孤の話を聞いておるのか、女ども⁉」
「――刑部尚書にご報告申し上げます、目通りを願い出ている者がおります」
「侍女まで孤を抛擲にして!」
うるさいわね、と、水廌家は裂帛の気勢で言い放った。
「連れて行け!」
鬱屈した力を有り余らせていた替身の体が、急激にしぼんだ。
秘密を長年抱え続け疲労しきった心が、犯罪の失敗という最後の一押しによって砕けたように見えた。替身は譫言を繰りながら両脇を侍女に固められて下がっていった。
水廌家は、後宮の未来を考えている。後宮の姉妹たちを、殉死の未来から救うために動いている。貘を復活させたのも、偽王の理性を保たせ、王たらしめておくための必要悪だったのだ。
水廌家は、侍女に視線を寄越した。
「それで何? 誰よ面会希望者というのは」
「来客中ゆえ待つよう命じたのですが、どうしても至急に取り次げとやかましく」
「離婚訴訟なら、受付停止中よ」
「はい。それが、至急お耳に入れたい内密の案件ですとか」
「ふうん? 構わないわ、通しなさい」
◇◇◇
侍女と偽王が退出すると、水廌家は崩れるように凭几にもたれた。
刑宮は威勢を来客に見せつけるためにとてつもなく入り組んでいるので、客を呼びに行った侍女はしばらく戻らない。だからこれは、水廌家が義妹にだけ見せる顔だ。
盛り髪うずたかい頭を李翰の豹毛にうずめると、水廌家の唇から、深い吐息が漏れた。
「……脩身家の妊娠が、どうやら事実でないようなのは痛いわ」
ことは、それに尽きる。
「替身の資質は王に向かない、即刻退位させなくては。ただしその前に後宮から次の王を出せなければ、後宮は、外朝からの干渉を受ける。替身の言う通り、最悪殉葬よ」
「後宮の長公主のどなたかが王位を継げば? 王家と血縁のない公主は継承権が低いにしても、特に、姐姐なんて、王家の親戚筋なんですから、可能なんでしょう?」
「妾が今それを選択しない理由は三つある。一、男子相続の慣例を破るに足る名分がない。二、現在の長公主の評判は莫のおかげで最悪。王としての求心力がない。三、何より、長公主の中に、浩蕩王を殺した犯人がいるかもしれない」
水廌家はゆっくりと顔を上げた。
「後継問題は、偽王を妾が刑宮に囲い込んでいるうちは留め置ける。まずは、真王を害した後宮の真なる敵を突き止めて、足元を固めるのが先よ。失敗すれば、後宮は崩壊、それどころかで、国まで崩れるかもしれない――」
水廌家の決然と燃ゆる碧眼が、李翰をまっすぐに訊いていた。
妾と死んでくれる、妹妹? と。
水廌家の心労はいかばかりだろう。
偽王を刑宮に収容した日、水廌家が見たこともないほど険しい睛で李翰を刑宮から追い出したのは、あれはきっと、悼んでいたのだ。茶色い王宮を煌煌に変えてくれた想い人を。二度と戻らぬその人を。それから自身の初恋を。ひっそりと。
水廌家は華奢なその背に、失恋と、世界の平和を負っている。
人の心が薄い李翰を全く共感させない事実だった。
だが、水廌家は、小説家の存在意義に触れた。武も銭も持たない小説家という最弱思想が市井に生じ、存在し続ける根源の理由に触れた。
小説家たちが記し、集めるのは、起きた事象を教訓にするためじゃない、あったことをただ残したいと、どんな形にせよ覚えておいて欲しいと、誰かに願われるからだ。
この千金は、想い人すらあっさりと奪い去る無慈悲な巫蠱の壺の中でしか生きられない。それでも。抗う自身の心の形を最後まで見ていて欲しいと、李翰へ依頼したのだ。
李翰は初めて、自身が記すべき物語を自覚した。
◇◇◇
「皆が妾の偽王隠蔽工作に気づかぬうちに、真王殺しの犯人を突き止めるわよ」
「犯人に繋がるものは見つかりました? 色々調べてらしたみたいですけど」
思えば刑部が機能停止していたように見えたのは、この件を調査していたためだろう。水廌家は首を横に振った。
「替身の証言をもとに王殿の下から掘り起こした品は、一応回収しておいたけど、これだけじゃ、ちょっとね」
回収された品が広げられると、王が丁寧に埋葬されていたことがうかがえた。骨にも衣類にも目立つ傷や変色はない。
決定的な犯人への手がかりとはなりそうにない――
そのとき室の外で、衣が翻る気配がした。
「刑部尚書に申し上げます、謁見希望者が参上いたしました」
李翰が物証を布でくるんで屏の裏に隠れたのを見届けて、水廌家が入室を許可した。
屏の影から窺うと、面会希望者は二人。女官より服の色数が多いから、下級の公主だろう。
二人はぎこちなく定型の挨拶の姿勢をとった。無理もない、刑部尚書は鏖殺公主で、刑宮の内装は威圧的に絢爛だ。
鏖殺公主は、すっかり仕事人の顔だ。
「賢妹がた、楽になさい。それで、ご用件は何かしら」
「そのう、刑部尚書、これは後宮の一大事です。お人払いを」
二人は恐縮が強いのか俯いたまま絞り出す。
水廌家が合図して侍女たちを下がらせると、
「それで?」
「お耳を拝借いたします」
片方の女が意を決したように水廌家に近づいた。
水廌家の耳がそちらへ傾いたときだった。
控えていたもう片方の女が突然、水廌家めがけて駆けた。
手中には、鋭い銀の光。
――刺客か!
李翰は屏を蹴倒し、水廌家と刺客の間に割って入った。匕首を奪い取ろうともみ合うと、刺客からは後宮の香りが散る。
「なにゆえ水廌家を狙うんですか!」
「黙れ殺人者! 王の乱心に乗じて辰氏を殺害しておいて!」
何てことだ。辰霊景派の残徒か!
辰霊景は一部の後宮人に熱狂的に支持されていた。この刺客公主も眼が据わり、鬼気迫る様子だ。
李翰は、刺客に掌底をくらわせた。
背後から悲鳴が上がる。まずい、刺客はもう一人いたんだった!
「――俊録姐姐!」
とっさに振り返ると、蒼白な顔の水廌家が、倒れた女を見下ろしていた。女は苦悶の表情で死のうめきをあげている。
気づけば、李翰が跳ね飛ばした女の顔からも生気が失せていく。
「何よ、一度の失敗くらいで服毒するなんて、後宮人の風上にも置けないわ。立て直してきなさいよ何度だって受けてあげたのに!」
水廌家は頬に流れるものを拭い、気丈に顔を上げて鈴を鳴らした。
「――誰かある、急ぎこの刺客二名の死因を調べ、身元をお洗いなさい! これは刑部に対する挑戦よ!」
◇◇◇
刑部人員は、しばらく遺体の手足を調べたり、腹部を押したりと入念に観察していたが、その表情が驚きを帯びてくる。
しばらくして、一人の刑官が報告してきた。
「こんなに珍しい死に方の者は、これまで見たことがありません」
言われてみれば、刺客の遺骸は、ずいぶん血色がいい。
「確かに、妙に暖かいし、頬も爪も薔薇色だわ」と水廌家。
時が経つごとに遺体は逆にしっとりとし、ほのかに赤みが差してきている。いかにも死美人という感じに。
「二名ほぼ同時に息絶えたの、すると何らかの毒よね?」
刑官は頷いた。
「実物は初めて見ます。これは、鴆毒ではないでしょうか」
「――鴆? あの幻の毒鳥?」と李翰は驚きの声を上げた。
その姿は誰も見たことがなく、その羽を浸した液体は猛毒を得る。そのくせ、毒は体に残らない――
鴆毒は、李翰ら小説家の間でも好んで使われる題材だ。毒だが毒死の症状を呈さない死は美しく、物語では、貴人の自決といえばこれを出さずには終わらない。
「そんな毒、誰が持ち込んだんですか」
後宮は閉じた場所だ。物資を持ち込む方法は限られる。
宮中に上がれる限られた商人から買うか、入宮時の持参品、あるいは実家からの仕送りくらいのものだ。その全てが厳しく検分され、身体検査は服も脱がせるほど。
あからさまな毒なんて、(検査を担当する刑部の水廌家一派以外は)持ち込めないはずだ。その水廌家にしたって今回は無関係だろう。王の死で最も不利益を被るのは水廌家一門なのだ。
「珍しい鳥獣と言えば、囿苑です。礼部の献上品目録あたりを探してみましょうか」
「囿苑に有毒生物なんか、殺人事件の種なんか、刑部尚書の妾の矜持にかけて、入れさせるわけないじゃない!」
つまり?
室内が静まりかえると、水廌家は血色のよい遺体から顔を上げて、どこか確信めいた表情で、李翰と視線を合わせた。おそらく水廌家と李翰は同じことを考えている。
刺客は辰霊景派の残党と名乗った。その自害用の毒は鳥由来のもの。これらが意味するところは――
「李妹、刑部の尚書印を持ってお行き。拘引状がなくとも引っぱれるわ」
水廌家へ頷き、李翰は刑部を飛び出した。




