第2話 神獣討伐と素材の売買 -2
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3. 腹黒コンビの密談
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フィーネは、アリスとイリスを連れて、冒険者ギルドの受付カウンターへと向かった。受付嬢エルザ・グラハムは、いつもと変わらぬ完璧な笑顔で冒険者たちに対応している。しかし、その笑顔の裏には、鋭いビジネスの匂いが漂っていた。
「エルザさん、アリスさんの件、聞いてくださいました?
あの莫大な借金…このままじゃギルドの信用にも関わります!
なんとか一発逆転の大儲けに繋げられないでしょうか!」
フィーネは身をかがめ、小声でエルザに話しかけた。その声には、焦りと、かすかな期待が入り混じっている。
「あら、フィーネ。ちょうどいい話がありますわよ。
高額依頼でね、他のパーティは怖気づいて手を出さない、とっておきの依頼が」
エルザは書類をめくりながら、涼しい顔でフィーネの言葉を聞いている。彼女の指先で優雅に回るペンが、どこか不気味に見えた。
「ほう! それは一体…!?
どんな依頼です!?」
フィーネは、前のめりになる。
「神獣討伐。ただし、条件付きよ。
報酬は金貨1000枚。素材の売却益を考慮すれば…ふふふ」
(口元に手を当て、含みのある笑みを浮かべるエルザ)
「金貨1000枚! それに素材…なるほど、これはデカい!
私の計算では、少なく見積もっても金貨3000枚は硬いですね!
これならアリスさんの借金もチャラにできます!」
フィーネは興奮気味に、空中で電卓を叩くように指を動かす。脳内では、すでに莫大な利益が弾き出されていた。
「ええ。ただし、討伐の際に素材を損傷させては駄目よ。
そこはあなたの手腕にかかっているわ。
まあ、あなたたちのことだから、どうせ計画通りにはいかないでしょうけどね」
エルザは、挑戦的な視線をフィーネに送る。
「ご心配なく!
今回は完璧な計画です!
絶対に損はさせません!」
フィーネは、自信満々に胸を張った。
「ご冗談を。ええ。でも、楽しみにしていますわ、あなたの『完璧な計画』が、どこまで無事に進むのか」
(紅茶を一口飲む)
エルザはそう言って、フィーネに挑戦的な視線を送った。フィーネは、エルザの言葉に反論しようとするが、口を開くことはできなかった。
なぜなら、これまでの冒険が、常にエルザの予言通りになってきたことを、誰よりもよく知っているからだ。
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4. 作戦会議、しかし…
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ギルドの会議室に、七人のヒロインが集まっていた。フィーネはホワイトボードに神獣の図と、素材回収のルートを書きながら、熱心に作戦を説明している。その顔は真剣そのものだ。
「というわけで、今回の神獣討伐は、素材の完璧な回収が最重要目標です!」
フィーネは、全員の顔を見回す。
「イリス様、ルナさんから得た情報によると、神獣の弱点は心臓部の魔力核。
そこを狙い撃ちにしつつ、他の部位を傷つけないように…
皆さん、くれぐれも無傷でお願いしますよ!」
イリスは手に持った古文書に目を落としたまま、神獣の図をちらりと見て、ブツブツと独り言を始めた。
「ふむ…神獣の魔力核か。
古代の記述と照らし合わせると、その構造は…魔力循環の不均衡が…」
一応エルフの聖女のセラが、新しい魔装具をいじりながら、目を輝かせている。
「これを使えば、神獣を捕獲して分解できるでしょうか?
実験台に最適です!
ふっふっふ……きっと新しい暗黒の魔装具が生まれます!」
「(食い気味に)セラちゃん!
分解はダメです!
無傷で!無傷でお願いします!
分解したら価値がゼロになっちゃうんですから!」
フィーネは、セラに詰め寄る。
「ちぇっ、つまんないの~」
勇者アキナは剣を構えて素振りしながら、目を輝かせている。
「弱点は突けばいいんだな!
任せろ、正義の剣で真っ二つにしてやる!
…あ、でも、無傷か…?うーん、難しいな!」
破壊魔法の使い手エルミナは無表情で、神獣の図を見つめ、微かに口角を上げる。
「破壊…ですか。とりあえず、やってみます。
どの部分を破壊すれば、最も効率的か…」
「(汗だくで)アキナちゃん、エルミナちゃん!
破壊は最小限で!最小限でお願いします!
絶対に、素材を傷つけないでください!」
フィーネは、もはや悲鳴に近い声で叫んだ。
ルナは隅で小さくなりながら、全身を震わせている。
彼女は、触れたものから情報を吸い上げてしまうという特異的な能力を持った異世界転移者、とのことだった。普段は、エルミナと一緒に一応大賢者のイリスの弟子として生活している。
「その、データでは…神獣は…ものすごく…大きいので…き、危険…です…情報が…多すぎます…」
(情報過多でフリーズ寸前になっている)
ルナの横で、リリア・アークライトが腕を組み、不機嫌そうに言った。
リリアは、フィーネにとっては本家のお嬢様にあたる。
だが、幼いころからの付き合いで、お互い遠慮はまったくない。
「フン、また面倒なことになったわね。どうせあなたの計画通りになんていかないんだから。
…まあ、道に迷わないように私が先導してあげるわ」
「あ、ありがとう…でも、リリア、方向音痴なのでは…?」
フィーネは、思わず本音を漏らす。
リリアはムッとして、顔を赤らめた。
「な、なによ!
たまには間違えることもあるでしょう!?
今回は完璧よ!」
フィーネは、いつもながらのリリアのツンデレぶりに安心をしつつ、すでにこの作戦が、自分の思い通りには進まないことを確信していた。
いや、思い通りにいくことのほうが奇跡中の奇跡なのだ。
メンバー自体はS級に匹敵するレベルの実力者ぞろい。
だがしかし、すでにお分かりだろう。
彼女たちはとんでもなくポンコツなのだった。
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