第26話 魔法学院での特別講義 -1
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1. 魔法学院からの特別講師依頼
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王都アルテミスにある王立魔法学院の学長室は、重厚な書物と魔道具に囲まれ、厳かな雰囲気に満ちていた。その中央で、学長が恭しく一通の招待状を差し出している。
「イリス・ヴィクトリア様。
この度、王立魔法学院より、貴女様に特別講師としてお越しいただきたく、ご依頼申し上げます」
「特別講師、ですか」
「はい。貴女様の森羅万象を識る知識、そして先日、王都料理大会で見せられた『前衛芸術料理』の概念は、我々魔法界に新たな風を吹き込むものと確信しております」
「ふむ……私の知識が、そこまで評価されるとは・・・
お主、良い目を持っていますね」
イリスは眼鏡をくいっと上げ、知的な好奇心に目を輝かせた。その隣で、フィーネが目を輝かせている。
「イリス様、これは大チャンスですよ!」
「何が、です?」
「魔法学院の生徒相手に、錬金術の材料を売りつけ……いえ、提供できますし、将来のコネも作れます!ぐふふ」
「フィーネ、また顔が怖いですよ」
ルナが小声で指摘するが、フィーネは気づかない。アリスはリュートを抱え、すでに学院でのライブを想像しているようだ。
「へへん、魔法学院でライブか!最高のステージになりそうだぜ!」
「アリスさん、歌はまだです!」
フィーネが慌てて釘を刺す。その時、学長室の扉が開き、エルザが紅茶を片手に現れた。
「イリス。今回の依頼は、わたくしが直接受注したものですわ」
「エルザさん!?」
「ええ。王立魔法学院とのコネ作りは、ギルド全体の利益に繋がりますからね。イリス様、くれぐれもギルドの顔に泥を塗らないよう、お願いいたしますわ」
「ふん、私の知識が、まさかギルドの顔に泥を塗るだなんて。姫様や貴族の方々に『先生』だの『お師匠様』だの、散々おだてられてきたわたくしが、今さら失敗などするはずがないでしょう?」
イリスは得意げに胸を張る。エルザはにこやかに釘を刺し、フィーネは内心で胃を抑える。
「いいですか、イリス様」
「はい」
「王立魔法学院との繋がりは、王家にも通じる新たな太いパイプとなるのですわ。これまではエルミナ様のお目こぼしがあって何とかこなしてきましたが、今回は、これまでの『偶然の成功』とはわけが違います」
「今回の講義も、ギルドの、いえ、わたくしの鼻にかかっていますからね!絶対に成功させなさい!」
「ひっ……!エルザさん、目がマジですって!」
フィーネはエルザの気迫に押され、思わず後ずさった。エルザの完璧な笑顔の裏に、獲物を狙う猛獣のような鋭い眼光が宿っている。
「講義か!面白そうだな!俺も手伝うぜ!」
「アキナちゃん、講義はぶった斬っちゃダメです!」
アキナが目を輝かせ、リリアは腕を組み、呆れたように呟く。
「まったく、また面倒なことに巻き込まれるわね。講義なんて、私には無縁だわ」
「リリア様、そんなこと言わないでください」
セラは、講義の内容に興味津々だ。
「この魔装具を使えば、講義の内容を視覚化できますね!実験のしがいがあります!」
「セラちゃん、暴走させないでくださいね!」
フィーネの胃は、すでにキリキリと痛み始めていた。
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2. 作戦会議とフィーネの完璧な計画
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フィーネの錬金工房は、再びホワイトボードが占拠された。今度は魔法学院の講義室の見取り図と、講義内容の予想図、そして「完璧な講義計画」と書かれた文字が乱雑に貼り付けられている。フィーネは、マーカーを手に、熱心に講義計画を説明していた。
「というわけで、今回の特別講義は、イリス様の知識を存分に披露し、王立魔法学院とのパイプをさらに太くすることが最重要目標です!」
「はいはーい!はいはーい!」
「報酬は破格ですし、これを機に王家御用達の冒険者パーティになれば、莫大な利益が……ぐふふ」
「おお、いいじゃん!あたしも乗ったぜ!ついでに生徒たちをあたしの歌で魅了して、裏口入学ならぬ裏口就職も狙っちゃうか!へへん!」
「アリスさん!?」
「フィーネ、顔が怖いですよ」
ルナが小声で指摘するが、フィーネはアリスの悪ノリに一瞬たじろぎつつも、その「可能性」に目を輝かせた。
「いいですか、イリス様。今回の講義は、ギルドの、いえ、わたくしの鼻にかかっていますからね!絶対に成功させなさい!」
「ふん、私の知識をもってすれば、当然でしょう」
イリスは得意げに胸を張る。
「講義ってことは、敵はいないのか?」
「悪い奴らがいるなら、正義の剣でぶった斬ってやるぜ!」
「今回は、ぶった斬っちゃダメです、アキナちゃん!あくまで講義が最優先!」
フィーネは慌ててアキナを止める。エルミナは無表情で講義計画図を見つめている。
「講義室の破壊は禁止ですね。残念です。しかし、効率的な実演は許可されるのでしょうか?」
「許可されません!絶対に!」
フィーネはエルミナの言葉に、思わず叫び返した。イリスは、ルナから渡された魔法学院の歴史書を読み込んでいる。
「ふむ。魔法学院の歴史は、古代の魔術的防御機構と深く関連しているわね。生徒たちの知識レベルを分析すれば、講義の手順もより効率的になるはずよ」
「ルナ、何か情報ありますか?」
「えっと……生徒たちは……とても……好奇心旺盛で……予測不能な……」
ルナは緊張しながら、断片的な情報を口にする。フィーネは、すでに頭を抱えていた。
「わ、分かってます!もう!
皆さん、お願いしますから、今回くらいは、ちゃんと計画通りに動いてくださいね!」
フィーネの叫びは、虚しく錬金工房に響き渡るだけだった。
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