第10話 幻の魔道具とダンジョン探索 -1
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1. セラの突然の依頼
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フィーネの錬金工房は、相変わらず武器や資料、得体の知れない錬金素材で足の踏み場もないほど散らかっていた。
その奥、山と積まれた古文書の影で、フィーネは深い眠りに落ちていた。昨日の大赤字報告のせいで、胃の痛みがひどかったのだ。
そんなフィーネの枕元で、聖女セラが目を輝かせながら何かを語りかけている。
その隣では、図書館の魔女イリスが、興味深そうに古文書と照らし合わせながら耳を傾けていた。部屋の隅には、セラが持ち込んだ奇妙な魔装具のパーツが散乱している。
「フィーネちゃん!フィーネちゃん!起きてください!」
「んん……」
「すごい魔装具の情報を見つけました!これはきっと、禁忌の魔装具です!」
「禁忌の……?」
「ぜひ、私と一緒にダンジョンに行ってください!」
「んん……セラちゃん……まだ夢の中……美味しいパンの夢が……」
フィーネは寝ぼけ眼で、布団の中でゴロゴロしながら呟いた。その脳内は、まだ甘い夢の世界に囚われているようだ。
「ほう、この記述は……古代の魔道具『幻の生命の炉』に関するものね」
「イリス様!」
「完全な形で回収できれば、私の研究にとっても貴重なデータが取れそうだわ」
イリスはセラの持つ古地図を覗き込み、眼鏡をくいっと上げながら、知的な興奮を隠しきれない様子で呟いた。
「イリス様もご興味を!素晴らしいです!」
「フィーネちゃん、イリス様も一緒に行ってくださいますよ!」
「ちょっ、イリス様まで巻き込まないでください!」
「だって、ダンジョンは危険なんですから!それに、無傷で回収しないと売れませんからね!」
フィーネは飛び起き、セラに詰め寄る。まだ半分寝ぼけた頭でも、危険と「売却益」の文字はしっかりと認識しているらしい。
「ふん、危険などどうということはないわ。私の知識があれば、どんなダンジョンでも踏破できる」
「それに、この『生命の炉』の解析は、私の研究にとっても非常に重要なのよ。
もちろん、無傷でね」
イリスはセラのおだてに乗りやすい性格を発揮し、フフンと鼻を鳴らしながら、少し上から目線で言い放った。最後の「無傷でね」という言葉に、フィーネはかすかな希望を抱いた。
「はぁ……(ため息)
……イリス様までそうおっしゃるなら……売買益、きっちり計算させていただきますからね!
無傷でお願いしますよ、無傷で!」
フィーネは頭を抱えながら、渋々承諾した。彼女の胃は、すでに再び痛み始めていた。
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2. 作戦説明とヒロインたちの期待
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フィーネの錬金工房は、再びホワイトボードが占拠された。今度はダンジョンの構造図と、『幻の生命の炉』の予想図が描かれている。フィーネは、全員の顔を見回しながら、熱心に作戦を説明した。
強調するのは、あくまで「無傷での回収」である。
「というわけで、今回のダンジョン探索は、この『幻の生命の炉』を無傷で、完璧な状態で回収することが最優先です!
これを売却すれば、莫大な利益が……!」
「はいはーい!」
しかし、ヒロインたちは、それぞれの関心事に従って話を聞いている(聞いているフリをしている)。
「生命の炉!どんな魔装具なのでしょう!
早く解析して、その仕組みを研究したいです!もちろん、分解して!」
「(食い気味に、顔を青ざめながら)分!解!は!ダメですーっ!」
「そのまま持ち帰るんです!分解したら価値がゼロになっちゃう!」
フィーネは、セラに詰め寄る。その勢いに、セラは目をパチクリさせた。
「炉……ですか。破壊対象ではないようですね。残念です。
とりあえず、言われた通りに……解析してみます」
「エルミナちゃん、解析はイリス様にお願いします!」
「あなたは物理的な破壊は一切なしでお願いします!絶対に!」
フィーネは、エルミナの無表情な顔に汗だくで懇願する。彼女の言葉は、まるでエルミナの破壊衝動を刺激しているかのようだった。
「幻の魔道具か!どんな強敵がいるんだ?正々堂々、ぶった斬ってやるぜ!」
「おお!」
「……あ、でも、ぶった斬っちゃダメなのか……?」
アキナは剣を構えて素振りしながら目を輝かせたが、フィーネの言葉を思い出して首をかしげた。
「その、データでは……ダンジョンは……危険です……」
「またか、ルナ」
「記憶でも……たくさん……罠が……そして……この炉には……強い……思念が……」
ルナは隅で小さくなりながら、心配そうにダンジョンの構造図を見つめ、情報過多でフリーズ寸前になっている。
「フン、また面倒なことに巻き込まれるわね。
道に迷わないように、私が先導してあげるわ」
「あ、ありがとうございます……でも、リリア、方向音痴なのでは…?」
「な、なによ!たまには間違えることもあるでしょう!?今回は完璧よ!」
リリアは腕を組み、不機嫌そうに言い放ったが、フィーネの言葉に顔を赤らめる。フィーネは、すでにこの作戦が、自分の思い通りには進まないことを確信していた。
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