第9話 家出令嬢と最強の友情 -4
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9. アリスの情報収集と「弱点」の確定
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戦闘の混乱に乗じて、アリスは隠れた場所で情報収集を始めていた。彼女のギャンブラーとしての勘と、人脈、そしてどこからともなく現れる情報源が活かされる。
フィーネとイリスは、アリスの行動に呆れつつも期待していた。
「へへん、こういう時は混乱に乗じて情報集めだぜ!
特に、焦ってる奴の口は軽いからな!さあ、賭けの時間だ!」
「アリスさん!何してるんですか!?ちゃんと支援してください!」
「情報収集はいいですが、これ以上被害を増やさないでくださいよ!」
フィーネが遠くから叫ぶが、アリスはまるで聞こえていないかのようだ。
「任せとけって! あたしは今、最高の舞台で情報収集してるんだからよ!」
「ほう、どんな?」
「ほらよ!」
アリスはどこからか取り出したサイコロを弄びながら、騎士団員のヒソヒソ話を盗み聞きし、そしてどこからか取り出した古びた雑誌を広げた。
「へへん、見つけたぜ……騎士団長の弱点!」
「な、なんですって!?」
「まさか、あの堅物な団長が……限定版の秘蔵フィギュアとはね!しかも、この雑誌の懸賞品だぜ!これは賭けになるぜ〜!」
アリスの言葉に、リリアは目を見開き、顔を真っ赤にした。
「なっ……!?フィギュア……だと!?
まさか……父上が……そんなものを……!?」
「ふむ……フィギュア。人間心理における収集癖の極致ね。
これが彼の行動原理を歪ませていたとは……興味深いデータだわ。
まさか、そんな俗物が彼の弱点とは……」
イリスはアリスの情報に、眼鏡をくいっと上げ、驚きを隠せない顔で呟いた。
「フィギュア!?それが弱点!?そんなバカな!
そんなもので交渉できるわけないでしょう!?」
「いや、イリス様が言うなら……」
「へへん、世の中、金と秘密で動いてるんだぜ、フィーネちゃん!」
アリスは得意げに胸を張った。フィーネは、頭を抱えて唸るしかなかった。
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10. 親子の対峙と友情の証明
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アリスが突き止めたフィギュアの情報を手に、フィーネ、リリア、アキナはリリアの父、騎士団長と対峙した。他のヒロインたちは少し離れて見守っている。
騎士団長の顔には、動揺が隠せない。
「貴様ら!一体何を企んでいる!?これ以上、娘を惑わすな!」
「貴様らのような問題児といると、リリアまで……!」
騎士団長は怒りを露わにする。しかし、フィーネはにこやかに、しかし有無を言わせぬ態度で、アリスが持ってきた雑誌を広げた。
「アークライト騎士団長殿。
お嬢様の件は、あくまで話し合いで解決したいと思っております」
「……な、何を……」
「ですが……もし、これ以上お嬢様を強制的に連れ戻そうとなさるなら、我々もこの情報を公にせざるを得ませんねぇ?」
「この情報……?」
「特に、この『限定版・伝説の騎士フィギュア』の存在を……」
フィーネの言葉に、騎士団長は顔色を真っ青に変え、冷や汗をかいた。
「なっ……その情報はどこで……!?まさか、貴様ら……!
それを公にすれば、私の騎士団長としての威厳が……!」
アキナは腕を組み、得意げに騎士団長を見つめる。
「リリアはあんたの所有物じゃない!俺はリリアの友達だ!」
「友達……?」
「友達を守るためなら、どんな秘密だって暴いてやるぜ!
あんたの隠し事なんて、正義の剣でぶった斬ってやる!」
アキナの言葉に、リリアは驚き、父親に毅然とした表情で向き直った。
「父上! 私はもう、父上の思い通りになる私ではありません!」
「リリア……お前……」
「この方がいてくれたから、私は自分の道を見つけられたのです!
私の居場所は、ここです!」
リリアはツンデレながらも、真っ直ぐに父親を見つめる。その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。
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11. 父の譲歩と友情の確認
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フィーネの言葉とアキナの毅然とした態度、そしてリリアの成長を目の当たりにし、リリアの父は渋々ながらも譲歩した。フィギュアの雑誌をフィーネに突き返すように渡す。
「くっ……わかった。今回は貴様らの……いや、リリアの意志を尊重しよう」
「本当ですか!?」
「ただし、くれぐれもアークライト家の名に泥を塗るような真似はするなよ……!」
騎士団長はそう言うと、踵を返し、足早に去っていく。その背中は、どこか寂しそうに見えた。
「やったな、リリア!これで俺たち、これからも一緒にいられるぜ!やったー!」
アキナはリリアの肩を叩き、満面の笑顔を浮かべた。リリアはそっぽを向いて、少し照れたように、しかしはっきりと答える。
「フン、べ、別にあなたのおかげじゃないんだからね。
私が強かっただけだもの……」
「そうなのか?」
「それに、あなたのためじゃ……ないわよ……」
アキナはリリアのツンデレな言葉に、ニッと笑った。
「そうかよ!
ま、なんだかんだ、リリアと一緒なら、どこに迷い込んでも楽しいからな!」
「これからもよろしくな、相棒!」
「……ええ、そうね……」
リリアは小さく、しかしはっきりと呟いた。その声には、確かな友情と、未来への希望が込められていた。
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12. ギルドでの収支報告とエルザの腹黒い笑み
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冒険者ギルドの受付カウンター。
フィーネは、頭を抱えながら、ボロボロの収支報告書をエルザに提出していた。その報告書には、舞踏会の修繕費がとんでもない額で記載されている。
「エルザさん!信じられますか!?
父親の弱みを握るために、あのフィギュアの情報を買うのに大金がかかり……」
「ええ、ええ」
「騎士団を追い返すのに弾薬や治療薬でさらに出費が……まさかの大赤字ですよ!
私の苦労が報われません!」
フィーネは机に突っ伏し、半泣きで訴える。エルザは報告書をちらりと見て、にこやかに微笑んだ。
「ふふふ……でもリリア様は無事に戻られましたし、ご家族の関係も改善されたのでしょう?」
「それは、まあ……」
「目に見える利益だけが全てではないわ、フィーネ。
長期的な関係構築を考えれば……大成功ですわよ」
エルザの言葉に、フィーネは顔を上げて食い下がった。
「長期的な関係構築!?こんな大赤字がですかーっ!?」
「ええ。それにしても、あなたたちの『騒動』は、時に思わぬ真実を暴き出す。
これもまた、あなたの手腕、ということにしておきましょうか」
エルザはそう言って、口元だけで笑った。その瞳の奥には、すべてが計画通りに進んだことへの満足感が宿っている。
(まったく、これだから問題児は手放せないわ。
おかげで厄介な貴族の依頼が一件片付いたわ。
さて、次の依頼は……王家の隠し事を暴く高額依頼でも持ちかけてみるか……)
エルザは心の中でそう呟いているようだった。ギルドの奥からは、アリスの歌声が響いてくる。
「〜♪ツンデレ令嬢の隠された秘密〜、最強の友情が暴き出す〜、ポンコツだけど最強の絆で〜、世界を救う物語は始まったばかりさ〜♪」
アリスは、今回の騒動をすでに伝説として美化し、高らかに歌い上げていた。フィーネは、その歌声を聞きながら、再び机に突っ伏すしかなかった。
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