借りられた力
黒い粘液から姿を現したドラケン騎士団は、容赦なくダルタルピ王国へと侵攻した。
二人の謎めいた魔導士によって召喚され、彼らの命令はただ一つ──王国の半数の民を皆殺しにせよ。
圧倒的な準備を整えたドラケンたちは、まさに勝利を約束された軍勢だった。
「奴らを入れるな!! 民を守れ!!」
しかしダルタルピの魔導士たちは、次々と《メッタ》の雷撃に撃ち抜かれ、半数が即座に命を落とした。
首が斬り飛ばされ、血飛沫が舞い散る中、ドラケンたちは容赦なく王都へと雪崩れ込む。
逃げ惑う群衆の中、デュークが若者たちの前に現れ、襲いかかろうとした兵士を二人まとめて斬り伏せた。
「王国が……攻め込まれているのか!?」
「その通りだ! 急いでポータルへ行くぞ!!」
デュークは三人を瞬間移動させ、ダリウスへと迫る。
「くそっ! デューク、私はどうすれば……!? 生まれ育った王国が滅ぼされようとしているんだ!」
「聞け、ダリウス! この少年こそが──我らの世界の希望だ! 彼を魔法学院へ送らねばならん!!」
「ま、まさか……!?」ダリウスはエリックを見て、目を見開く。
「そうだ、彼がその存在だ。頼む! すぐにポータルを開け!!」
ダリウスは古代語を唱え、魔力を集中させる。やがて空間が揺らぎ、学院へと繋がる門が開かれた。
「急げ! 三人とも行け! 私はすぐ後から行く!」
「なっ……! 師匠を置いてはいけません!」エミリーはデュークの腕を掴み、涙声で叫ぶ。
「お前はエリックを守れ。何があってもだ! 私はこの王国を捨てられん!!」
エミリーは唇を噛み、エリックとトーマスを無理やり引っ張ってダリウスのもとへ向かう。
「残念だが……学院へ直通はできん。だが近くへは飛ばせる!」
三人は光の門を駆け抜け──振り返ると、そこに残ったのはデュークただ一人。
「エミリー!! 使命を果たせ! エリック! お前を信じている!!」
ゲートは閉ざされ、背後の王国は瓦礫と化す。二人の闇の魔導士──サッバーズの幹部は、民を嘲笑いながら半数を殺し尽くした。
「デューク、どうするつもりだ?」
「決まっている……俺が奴らを止める!」
その瞬間、闇の魔導士が目の前に現れ、デュークを吹き飛ばす。ダリウスも爆裂魔法で木っ端微塵にされ、彼らは哄笑をあげる。
「これが上級魔導士か? 笑わせるな」
「遊んでる暇はない、王を攫え!」
「黙れ! 俺の楽しみを邪魔するな!」
瓦礫に埋もれたデュークは血を吐きながら立ち上がる。顎は砕け、肩も外れていたが──それでも剣を握り締めた。
◆
一方、転送された若者たちは荒れた岩場に立っていた。
「ここは……ロザリア山脈か? 急がねば」
エミリーはエリックに告げる。
「デュークが教えた転移魔法、覚えているな? メッタの力を解き放て。私と同調させるのだ!」
エリックの赤い《メッタ》と、エミリーの紫の光が絡み合い、眩い輝きが天を焦がす。
「二人の力は……別次元だ……!」トーマスは唇を噛み、拳を握りしめる。
エミリーは詠唱を終え、三人を包み込む光が放たれた──。
◆
ロザリア魔法学院。
「おかしい……奴らは来ない!? 我らを欺いたのか!」
警戒を強める騎士団。その時、突如として現れた三つの影に、教官コフカは即座に剣を抜いた。
「貴様ら、何者だ……! 答えぬなら斬る!!」
「コフカ……私が分からないの?」エミリーが一歩踏み出す。
「近寄るな、ドラケンの手先め! ……まさか、その顔は……!?」
「そうよ……私よ、コフカ。あなたの妹。」
「なっ……何だと!?」
エリックとトーマスは愕然とし、ただ立ち尽くした。
──そして、彼らはようやく辿り着いた。ロザリア魔法学院へ。