絶望者たちのポータル
戦争への日々が迫りつつあった。
全ての王国の魔導師たちは、闇への報復のために準備を整えていた。その中には、ロザリア魔法学園も含まれている。
「くそっ! あの仮面の忍者め、絶対に許さない!! なんだこの有様は!」
「私、片付けなんかしないからね。」
本に溢れた部屋。壊れた窓からは、仮面の男が逃げた跡がうかがえる。渋々散らかった部屋を前にする二人の少女のもとへ──ドンッ、と扉が蹴破られた。
「まだ片付けていないのか!? ……待て、お前たちは掃除係じゃないな。ここで何をしている!」
「こ、コフカ隊長!! あの……ビ、ビニェドスが本を少し……ははは。」
彼女たちは学園の一年A組の生徒。
本をこよなく愛し、丸眼鏡に短い茶髪が特徴の少女──カーラ。
そして、すぐ癇癪を起こし、授業をサボりがちな赤髪碧眼の少女──エリカ。
「ここは立ち入り禁止区域だ! もう一度だけ聞こう。」
エリカはカーラに視線を送り、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「……わかったわよ。毎週一冊だけ本を借りに来てるの。」
「この部屋は閉鎖中だ。……だが、面倒だ。今日だけは一冊だけ許可してやる。ただし気をつけろ、妙な奴らが現れるかもしれんからな。」
「は、はいっ!!」
──かくして、コフカ隊長には新たな任務が課せられた。
生徒たちを戦士へと鍛え上げ、迫りくる〈ドラーケン〉との戦に備えさせるのだ。
◆
二日後。冒険者一行はダルタルピ王国へと辿り着いた。
そこは凍てつく地でありながら、人々は薄着で日常を過ごしていた。すでに寒さに慣れ切っているのだ。
街には様々な種族が混在し、トーマスとエリックはその光景に思わず目を奪われる。
「俺とエミリーで門の商人を探す。お前たちは港で休める場所を見つけてくれ。」
二人は従うが──ほどなくして、フードを被った女に声をかけられる。
報酬は千ビル。彼女曰く、異世界換算で二百レアルに相当するらしい。
「トーマス、俺たちは宿を探さなきゃ──」
「何言ってんだ! 千ビルだぞ!? 俺たちなら誰にだって勝てるさ!」
結局、エリックは折れ、二人は怪しい地下室へと案内される。そこは闘技場──賭け試合の熱気が渦巻く場所だった。
◆
一方その頃、デュークとエミリーは転移門の管理者ダリウスと話していた。
だが、門は二ヶ月前に使用され、未だ修復中。よほどの緊急事態でなければ、再利用は不可能だという。
「……頼む、今夜だけでも通してくれ。」
切迫するデュークの願いを、ダリウスは険しい表情で受け止める。
その時だった。
ダルタルピの空を覆う氷雲が、不気味に黒ずみはじめる。
濃霧が王宮の上空に集まり、一筋の光が放たれた。
「こ、これは……災厄か!?」
「神々の怒りだというのか!」
瞬間、雷光が宮殿を直撃し、街に混乱が広がる。
「王を狙ったぞ!! 王を護れ!!」
騎士たちが盾を掲げ、必死に主君を庇う。だが──外門はすでに〈サッバーズ〉と呼ばれる闇の軍勢に包囲されていた。
◆
「……ちくしょう、あと少しで勝てたのに。」
闘技場から戻ったトーマスは顔を腫らしていた。
「避けられたはずだ。でも今はそれどころじゃない! 何かが起きてる。」
混乱の中、エミリーは必死に二人を探し──そして見つけた。
「ガ、ガイズ!!」
「エミリー!? 何が起きてるんだ!?」
「王国が攻撃されてる! 今すぐデューク様の元へ!」
霧に覆われた街を駆け抜け、若き冒険者たちは──運命に導かれるように、学園への旅路を急いだ。