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マエストロへの到達

— ねえ、話さないといけないと思うの。あなたは……本当に私の知っているエリックなの?


— もちろんだよ!エミリー、言っただろ。俺たちはつながっている。結局は同じ存在なんだ。


— ごめんなさい。ただ、あの日あなたがダマーを殺して以来、まだ慣れてなくて……。


— もうその話はやめよう。俺は本当の自分の歴史を知る必要があるんだ。


— 絶対に狂ったりはしない。サバーズを必ず倒してみせる!


— おいっ!! ドールが遠くから声を上げ、エリックの注意を引いた。


— すげえな、坊主! 一人でドラゴンを倒すとは。ハハハ! ラルナに着いたら特別な酒を奢ってやろう!


長い旅路の末、冒険者たちはようやくラルナに到着した。廃城や珍しい獣が棲む森を抜けた先にある、小さな町。そこには酒場が一軒と、教会がひとつ。そしてエミリーの師、デュークがいる場所でもあった。


町には〈マナの箱〉と呼ばれる店もある。魔法学生たちが道具を修理しに訪れる場所だが、今は閉ざされている。いつ〈ドラケン〉たちの襲撃があるか分からないからだ。


— さてと、やっと仕事にありつける! この素晴らしい酒場でな! ハハハ!


— ドール、あなた結構強いんだし、このまま冒険者を続けてもいいんじゃない?

トーマスがそう言って、彼の頭を軽く撫でる。


— いやいや! 若い頃は冒険者をしていたが、もう十分だ。ドラゴンで懲りたわい! ハハハ!


— それじゃあ、ここでお別れね。色々ありがとう。


エミリー、トーマス、エリックの三人は町の中心にあるラルナ教会へ向かった。小さいながらも温かみのある教会。その中央に立つラルナ像は荘厳な雰囲気を放っていた。


— ここに来るのは久しぶりね……。

エミリーの頬を一筋の涙が伝った。


— エミリー……エミリーなのか……?!


長身の男が近づいてきた。僧衣をまとい、顎には短い髭。疲れを滲ませる細い目。しかしその立ち振る舞いはどこか気品に満ちている。


— デューク師匠! 本当にあなたなのですね?!

エミリーはその手を掴み、喜びに顔をほころばせた。


— お会いできて光栄です、姫君。

デュークはひざまずき、頭を垂れる。


— ひ、姫!? どういうことだ……?!

トーマスとエリックは目を見開いた。


デュークの口から語られた真実――エミリーは〈カルナス家〉の第五代目の血筋だった。逆世界でもっとも裕福な一族。しかし四年前、サバーズに侵略され、すべてを失ったのだ。


当時、魔法学園の教師も上級魔導士たちも立ち向かった。だがサバーズと〈ドラケン騎士団〉の数は圧倒的で、敗北は避けられなかった。


— 望みを絶たれた我々は、姫をあなたの世界――地球へと送り出したのです。


— ただし、あなたの世界もこの逆世界も、どちらも〈地球〉なのです。違うのは、逆世界が〈魔力の結界〉に閉ざされ、時間が進まなかったということ……。それは1448年、初代上級魔導士が築いたものです。


— デューク、ご紹介します! こちらがエリック、そしてトーマス。

エミリーはエリックを前へと押し出す。


— 彼こそが師匠……再誕した〈ジェイコブ・フラモン〉なのです!


デュークはその名を聞き、深くうなずいた。エミリーが本当に彼を連れてきたのだ。最強の魔導士と謳われた男が、今この目の前に。


— 君のご両親は?


— 友人に育てられました。もう亡くなったけど……。両親のことは何も知りません。


— エミリーからサバーズと魔法については聞いているな?


— 俺はもっと強くならなければならない! 以前、魔導士の一人が地球に現れて、多くの無辜の人を殺したんだ。あのとき、俺は無力だった……。


— いや、君は強い。感じるよ。ジェイコブは危険だが、同時に唯一の希望でもある。


— 君が彼とはまるで違う心を持っていることに、感謝したい。


夜更け。教会の部屋で休むトーマスとエミリーとは対照的に、エリックは眠れずにいた。デュークの言葉が頭から離れない。自分は力を制御できるのか。自分は狂わずにいられるのか。


翌朝。デュークは三人を連れ、ダルタルピへと向かう準備を整えた。そこにある〈学園への門〉をくぐるために。


— よし! 楽しみだな!

はしゃぐトーマスに、


— 落ち着きなさい。あなた、この世界のことまだ何も知らないでしょう?

エミリーは苦笑いしながらも足を震わせていた。五年ぶりに学園へ戻るのだ。変わってしまったかもしれない現実が、彼女を不安にさせていた。


〈ロザリア魔導学院〉。唯一にして最高の学園。厳格な規律のもと、凡庸な魔女見習いから傑出した大魔導士まで、多くの者が育つ場所。入学は十一歳から十九歳まで、さまざまな国から志願者が集まる。カルナス王国によって資金が支えられる公立の学園だ。


その頃、空から黒い霧が降り注ぎ、世界を覆い始めていた。闇に潜む者たちが、音もなく彼らを見つめている。


— ニュイブト博士、新しい創造物の進捗はどうだ?


— 驚くべき進化を遂げています……! まもなく完成するでしょう! 心拍も安定しています。


— あの再生能力を持つ肌、そして紅蓮の瞳……もはや誰にも勝てぬ!


— 急げ。奴らも進化している。我らが障壁を打ち砕くとき、ロザリアの者どもは一人残らず滅びるのだ。


二人の男が立つ場所は人目の届かぬ洞窟の奥。巨大なカプセルの中で、怪物が静かに蠢いていた。


一方その頃、冒険者たちは南へ進み、湖にたどり着いていた。デュークが手配した小舟で渡り、ダルタルピを目指す。


— 着いたら、友人に会いに行こう。彼が門を開いてくれる。


— この世界に門は何個あるの?


— ふたつだけだ。〈マッタの森〉に隠された門と、ダルタルピの門。


一般の村人が使うことはできない。今のところ、上級魔導士だけの権限だ。そして幸いなことに、サバーズはまだ門を掌握してはいない。


デュークは心に誓っていた。再誕した少年を鍛え上げれば、闇を打ち払う希望は必ず実現する――と。


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