穿孔の魔法
エリックと仲間たちは、依然として連続殺人鬼の手がかりを追い求めていた。奇妙なことに、あれ以来犠牲者は出ていない。しかし、街の人々の間では黒いマントをまとった男がモッソンの最も暗い夜に姿を現す、という噂が囁かれ始めていた。――たった五ヶ月で、連続殺人鬼はすでに都市伝説となっていたのだ。
ドゥダ、トーマス、タリアは、エリックの鍛錬を手伝っていた。
「エミリーは俺が大魔導師の生まれ変わりだって言ったけど……火の玉も撃てないし、雷も出せない。ただ、身体がちょっと頑丈になっただけなんだ。」
タリアは信じられない思いでナイフや刃物を手に取って試すが、エリックには深い傷はつかない。血は少し出るものの、すぐに治ってしまう。決して不死ではないが、常人ではあり得ない回復力を見せていた。
エリックは夢の中で左腕に光を宿した記憶を思い出し、拳を握り集中する――しかし、何も起きなかった。
そこへトーマスがボクシンググローブをはめて立ち上がる。
「本気でいくぞ、エリック。先に倒れた方が負けだ。」
トーマスはかつて“モッソンの引き金”と恐れられた不良狩りであり、百人の悪童を倒した伝説の喧嘩屋だった。校内最強の座を持っていたが、エリックに敗北してからは良きライバルとなっている。
俊敏なジャブが飛ぶ。しかし、エリックは紙一重で回避した。すぐに右フック、左のボディが襲いかかる。鋼のような肉体でも痛みは伝わる。エリックはよろめきながら、再び拳を握り――
「……っ! 今だ!」
腕に痺れるような熱が走る。夢で感じたものと同じ。だが集中が一瞬乱れた隙に、トーマスの渾身のストレートが腹に突き刺さり、エリックは尻もちをついて敗北した。
「ちっ、くそっ! 今……掴みかけたのに!」
「……俺の全力の拳を食らって、それで平気だと? こいつ……」
エリックは悔しそうに笑い、汗を拭った。
その時、エミリーから電話が入る。
「エリック、殺人鬼の情報が入ったわ。奴の名は――ダマー・オリヴェイラ。禁忌の術を操るオカルティストよ。」
「目的は?」
「……おそらく、あなた。」
エリックは目を細め、低く答えた。
「構わない。強くなればいいだけだ。今度は負けない。」
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ハロウィンの夜
十月三十一日。モッソンの街では“お菓子か悪戯か”の祭りが盛大に行われていた。だが殺人鬼の噂のせいで、多くの市民は不安を隠せずにいた。
トーマスはゾンビボクサー、ドゥダは女海賊の衣装、タリアとエリックは別の地区に散開し、エミリーは骸骨の仮装で群衆に紛れ込んでいた。
「エリック、気をつけて。必ず現れるはずよ。」
「……人多すぎだろ。こいつら、本当に恐怖を感じてんのか?」
作戦はこうだ。エリックが囮となり、ドゥダが影から撮影、トーマスが奇襲する。
三日前、ダマーから血文字の手紙が届いていた――“廃遊園地で待つ”。
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対峙
21時12分。冷たい風が吹き抜ける闇の中、エリックは立っていた。
屋根の上から、仮面をつけ金色の髪をなびかせた男が姿を現す。
「……お前がダマーか。なぜ無関係な人を殺す!」
ダマーは刃を手に、薄く笑った。
「ようやく目覚めたか……我が“奴隷”よ。マッタの気配が溢れているぞ!」
次の瞬間、エリックの背後から影が伸び、ナイフが突き立てられる――しかし寸前で飛び退き、懐中ライトを突きつけた。光を嫌うダマーは影に潜り、逃げる。
「奴の魔法は……影の魔術。そして、穿孔の魔法か。」
ドゥダのカメラは黒い靄しか写さず、証拠にはならない。トーマスは息を呑む。
エリックは影を照らしながら走り、拳を叩き込む。何度か打撃を入れるが、決定打にはならない。
「答えろ! なぜ罪なき人を!」
「もっと殺すさ。お前と共にな!」
ダマーが両手を広げ、青い魔方陣が浮かび上がる。
「穿孔魔法――《瞬間穿孔》!」
青光の一撃がエリックを直撃し、彼は建物に叩きつけられて気絶した。
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絶望と再誕
気を失ったエリックの前に、再びあの赤い瞳の男が現れた。
「また来たか……弱いな、少年。」
男は黒い球をエリックの口へと押し込む。
「我が血と魂を受け入れろ。二度と敗北するな……フラモンの名に懸けて!」
――その瞬間、エリックの身体が震え、熱に包まれた。
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決着
ダマーは再び魔法を放つが、今度は――
赤い月光と共に、恐ろしい笑い声が夜を裂いた。
「……待たせたな。俺を呼んだか?」
立っていたのは、かつての大魔導師――ジェイコブ・フラモン。その姿にダマーは震える。
「あり得ない……貴様は死んだはず!」
「俺はエリックだ……だが同時に、ジェイコブでもある。」
エリック――いや、フラモンは一瞬でダマーの懐に入り、掌を胸に当てる。
「……仲間を傷つけたな。誰も……俺の友を奪わせはしない。燃え尽きろ!」
紅蓮の炎が内側からダマーを焼き尽くし、爆発と共にその存在を消し去った。
モッソンを恐怖に陥れた影は、ついに終焉を迎えたのだった。