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期間限定バティ(3)

 廃墟から西へさらに10キロほどサンドバギーを飛ばした。地図と方角、記録した砂丘の形状と太陽の位置を確認しつつ、新たな探索地点を絞り込んでいった。

 

「この辺りでいいか。シュイ、掘るぞ」

「えっ? 掘るって、ここを?」

 

 サンドバギーから降り、発掘作業用の荷物を準備しはじめた俺を見ながらきょろきょろと辺りを見回した。ザムザがいた廃墟同様に、俺が足を止めたのは何もない砂漠のど真ん中。遮るものが何一つなく、あるのは灼熱の陽射しに熱せられた砂ばかりだ。

 戸惑うシュイに構うことなく採掘用の組み立て式シャベルを渡し、俺は黙々と掘り続ける。何を考えているのか読めないといった様子で俺の横顔をしきりに確認しながら、シュイも訝し気な顔をして掘っていく。

 サナは少しでもシュイを助けようと、頭上から声をかけながら回復魔術で援護する。

 会話すら交わさず、ただ黙々と砂を掘り続けること数十分。俺とシュイが頭からすっぽりと埋まってしまうほどの深さになった。じりじりと照り付けていた灼熱の陽射しも砂山で遮られ、眉間に寄せていた眉と細めていた目からようやく力が抜けた。

 

「ねぇ、フィーさん。この下に廃墟があるから掘っているんだよね?」

「俺の予想では、そういうことになるな」

「……本当に、ここで間違いない?」

「今のところ、多分としか言えないな。まぁ、あと少しってところかな」

「あと少しって、どのくらい――っ!」

 

 シュイが溜息混じりにシャベルを砂に突き刺した瞬間、手にしていたシャベルがするりと吸い込まれ、ザザザッと音を立てながら砂の中に消えてしまった。見れば、30センチほどの穴が開き、そこに向かってサラサラと砂が落ちていくのが見えた。

 俺とシュイ、サナはそれぞれ顔を見かわして耳を澄ませる。ぽっかりと開いたその小さな穴の向こうで、砂の落ちる音が何度も反響しているのが聞こえた。確信に変わったシュイは好奇心いっぱいの目を俺に向け、犬みたいにザクザクと砂をかき分けた。辿り着いたのは石の外壁。持っていたナイフで崩しながら、顔が入るくらいの大きさまで穴を広げた。

 

「真っ暗で何にも見えないな」

「サナ君、中に行って照らせる?」

「お安い御用です」

 

 崩した穴からするりと中へ滑り込んだ。俺とシュイがそっと覗いた直後、煌々と放つサナの光に照らされ、暗闇は一瞬にして消え去った。飄々としているサナが「これはっ!」と興奮した様子で声を上げた。

 地下およそ70メートル。洞窟のようにぽっかり空いた空間に、30棟ほどの廃墟群が出現した。上から見ただけだが、砂はもちろん乾いた灼熱の日差しからも守られていたおかげで、廃墟は崩れることなく状態を保っているのがわかった。

 

「おぉ。思ってた以上に状態がいいな。しかもこの広さ」

「フィーさん! すごい、すごい! こんな綺麗な廃墟、私初めて見たよ。どうしてここにあるってわかったの?」

「勘だよ、勘」

「そんなわけがないでしょう」

 

 穴の下に行っていたサナが戻ってくるなりそう言い放った。

 降りた時に砂をかぶったらしく、地上へ飛び出すと同時に身震いするようにクルクル回って、ページの間に挟まった砂を振り飛ばした。

 

「これだけの廃墟を単なる勘だけで見つけられるほど、トレジャーハントは甘くありませんよ。ここにあることは知っていたのですよね?」

「知っていたというより、目星がついていたってだけだ」

「なるほど。先ほどのザムザという男にあの場所をあっさり譲ったのは、何もないと知っていたわけですか」

「だから何か企んでる顔してたんだね」

「企んでるって、そんな顔した覚えはないけどな」

 

 確かに、普段から嫌味を散々言われてきたこともあって、ちょっとはめてやろうと思ったのは事実だ。きっとそれも企みのうちに入るのだろう。

 その企みの答え合わせをするべく、地図を開いて今立っている場所をトンと指さした。そこから数センチ上に横線を描くように指を滑らせて見せた。

 

「今は何もないが、この辺りには川が流れていたらしい。街が発展するのは、今も昔も変わらず水のあるところが多い」

「そっか、そっか。ここに川があったことを知って、近くに街があったんじゃないかって気づいたんだね」

「1年くらい前に、この辺り一帯の地図を発掘したんだ。状態が悪くて街の位置まではわからなかったが、その当時の地形だけは読み取れたからな。あとはこの辺りの風土や歴史を調べれば、どこに街が発展していたのかなんて容易にわかる」

「やはり勘ではなかったわけですね」

 

 勘だと言っておいたほうが説明しなくて済むのだが、こういうサナのようなタイプはそれこそ勘が鋭いから誤魔化しがきかない。ある意味面倒で厄介だ。

 

「それじゃ、さっきフィーさんが譲ったあの場所って何だったの?」

「あぁ、あそこか? あれは宿屋だ」

 

 シュイとサナはきょとんとして顔を見合わせた。

 あの場所は3年ほど前に見つけていた宿場街の一画だった。川底が見えるほど透き通った水質の良さと、川沿いに植えられたプラム並木が名所で、そこを中心に宿場街として栄えていた場所だったらしい。それらの歴史も現地調査も済でいたし、貴重な遺産が掘り起こされる可能性は低いと協会にも報告していた場所だった。

 

「では、なぜあの場所を隠していたのです?」

「あんなところに廃墟があったら、近くにもあるんじゃないかって気づくヤツがいるかもしれないだろ? 念には念をってやつだ」

 

 そう答えた瞬間、シュイがクスクスと含み笑った。

 

「シュイ、どうした?」

「あのザムザって人、今頃何も出ない廃墟を必死に掘ってるんだろうなって思ったら、つい。だって、ものすごーく勝ち誇った顔してたでしょ?」

 

 頷きながら、その姿を想像して思わずニヤリとしてしまった。

 俺が見つけた場所だから何か出るだろうという先入観があったんだろう。自分の目で確かめもせず確固たる証拠も探さないから騙される。楽をしようとすると痛い目に遭うというのを少し味わった方が今後の教訓になるはずだ。

 

「フィーさんも、なかなか悪いヤツだね」

「横取りされたんだから罰も当たらないだろ? ザムザのことは放っておいて、俺達も日が暮れる前に廃墟探索開始だ」

 

 掘り開けた穴が空気に触れて崩れないよう、持参していた強化剤でしっかり固めて補強した後、ロープを下ろしてサナ、シュイ、俺の順に廃墟内へと降りた。

 サナの放つ光で照らし出されたのは、直径100メートルほどの石のドームに囲まれた空間だった。おそらくシュイが掘り当て岩盤のようなものは、ドームの天井部分だったらしい。

 内側に閉じ込められた廃墟群は、家屋というよりも何かの研究施設のようだった。ドーム内には十字の通路があり、それを中心に四つの区画に廃墟が均等に並んでいた。

 

「フィーさん、あれ見て」

 

 シュイが急かすように俺の袖を引っ張った。指さすその先にあるのは、壁に描かれた巨大な光の紋様。サナの光で照らされ、ぼんやりとではあるがその全容が見えた。

 

「あれは、僕が使う防御魔術と同じものですね。ここへ来るまでに、シュイとフィーさんを包んでいた、あの術の原型です」

「このドームを造って、急激な気温上昇から守っていたんだろうな」

 

 建築様式から見て、隕石落下直後から50年前後のもの。年代からすると、人々が地上から地下への移住がすべて完了した頃だろう。地上を捨てる決意をした人々が、ギリギリまで留まろうとした痕跡が伺える。

 

「ドームを造ってまで何を守ろうとしていたのか、だな」

「それを知るにはしっかり調査だね。フィーさん、どんどん行くよ! サナ君、ちゃんと照らしてね」

「シュイ、はしゃぐとお腹が空きますよ」

 

 単独での調査にはない騒がしさが、面倒くさいようでどこか面白いような不思議な感覚だった。バディのいない生活に慣れていたせいかむず痒いような感覚ではあるが、きっとこの騒がしさに染みついてしまったら、一人でいることの寂しさを感じるようになるのだろうか。ザムザがたくさんの仲間を引き連れているのは、そんな心理からくるのかもしれない。

 無意識とはいえザムザのことを考えてしまったことに自己嫌悪に陥ってしまった。顔を思い出す時間すらもったいないと、ドーム内にある廃墟の探索を開始した。

 砂に埋もれていたとはいえ、ドームで守られていたおかげで雨風の浸食を免れ、建物の保存状態はかなり良いほうだった。ただ、地下へと生活圏を移した際に資料や魔導機械のほとんどが持ち出されていて、この場所に何があったのか記したものが見つからなかった。あるのはただただ保存状態がいいだけの、もぬけの殻の廃墟だけ。

 

「フィーさん、おかえりなさーい」

 

 二手に分かれて調査すること2時間あまり。集合地点に指定した十字路の中心に向かうと、先に調査を終えて待っていたシュイが俺を見つけるなり手を振って呼んだ。

 

「フィーさん、何か見つかった?」

「収穫なしだ。そっちは?」

「私も同じ。ただただ綺麗な廃墟って感じだったよ。でも、まだ希望は残ってるよね」

 

 そう言って目をやったのは、4つの道が重なる十字路の中心。その道路脇に地下へ続く階段がある。闇を吸い込んだように入口から見える地下空間は真っ暗で、いかにも何かあると言いたげにぽっかりと口を開けていた。

 

「何かあるよね、絶対あるよね?」

「あれは何かあるって匂いするだろ」

「では、行かないという選択はなさそうですね」

 

 行先が決まったとこでサナはススーッと滑るように階段へと向かった。足元を照らしながら先導し、俺、シュイの順に階段を下りていく。

 おそらく3階分くらい降りただろうか。その終わりが見えないほど開けた空間に出た。踏み入れた瞬間、こちらの存在を感知したのか、真っ暗だった空間に突如として明かりが灯った。

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