2
そんなある日のことだ。
その日、朝部屋を出ると、旦那がいた。
それは偶然と言う感じではなく、まるで俺が出てくるのを待っているかのように思えた。
――なんだ?
戸惑っていると旦那が俺の前に来て、にまあ、と笑ったのだ。
――えっ?
驚き固まる俺のそのままに、旦那は何事もなかったかのように歩き出し、視界から姿を消した。
――なんだ、今のは?
あんなにも気持ちの悪い笑いは見たことがなかった。
一応笑ってはいるが、そこから一番感じたのは強い残忍さだ。
冷たく氷のような。
人の心がないような。
その夜、夢を見た。
俺が夢を見るのは珍しい。
そして夢の中でなにかとんでもないことをしたという印象は強烈にあるのだが、そのくせ夢の内容は全く覚えていなかった。
ただ言いようのない罪悪感だけが残った。
その朝、部屋を出ると同時に隣の奥さんも部屋から出てきた。
「おはようございます」
いつもの穏やかな顔、穏やかな声。
それを見た俺は、返事も返さず素早く玄関の戸を開けると、そこにあったゴルフバックからドライバーを取り出し、奥さんの前に立った。
そして怪訝な顔で俺を見る奥さんの頭めがけて、ドライバーを思いっきり振り回した。
俺は警察に逮捕された。
罪状は殺人。
ほぼ現行犯で。
俺が奥さんを殺したことは明白なので、警察の関心はその動機に絞られたが、俺には奥さんを殺す理由がなかった。
そう言っても警察は信じなかったが、ないものはないのだ。
動機不明のまま裁判となった。
裁判が始まると、傍聴席には旦那がいた。
被害者が妻なのでそれ自体は当然のことだ。
しかし旦那は悲しむそぶりもなく、おまけに俺の顔を見ると、にまあ、と笑ったのだ。
そう、あの日と同じ顔で。
終