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篠原渚①

 去年の夏、首を吊った。


 死ねはしなかった。輪っかにしたビニール紐に体重をかけるところまでは簡単だったのに、足元の椅子を蹴り飛ばすことがどうしてもできなかった。生存本能って本当にあるんだなと思ったし、本当に邪魔な奴だなと思った。

 それから一年近く立って、つい昨日誕生日を迎えた。篠原渚の、二十二回目の誕生日。当然のことながら喜びは無かった。自分の中身と年齢のどんどん広がる乖離に、胸がつかえるだけだった。

 喉が乾いている。高校の友達からの一日遅れのお祝いメッセージに返信をして、のそりとベッドから起き上がった。冷蔵庫から出しっぱなしでぬるくなったペットボトルの水をコップに注いで、少し飲む。ぐちゃぐちゃの机に目をやると、殆ど手をつけていない大学の教科書が山積みになっている。今学期既に休んだ授業のことを考えて、憂鬱さが更に重さを増した。逃げるようにまたベッドに横たわり、タオルケットにくるまった。

 大学二年から三年に進級するタイミングで、ある重大なミスが見つかって留年することが決まった。留年を知らせるメールを読んだ瞬間、ぷつりと何かが切れるのを感じた。それは、これまで「優等生」としての篠原渚のプライドを保っていた何かだった。それからの私は人間としての活動を殆どやめた。一日中ベッドに横たわり、碌に食事もとらず、ただ動画サイトを眺め続けた。そんな生活ともいえない日々を送るうちに、こんな思いがぽつんと浮かんだ。

 もういいや。

 そうして首を吊ってみたわけだが、失敗に終わった。それからベッドに戻って、また動画サイトを眺めているうちに、もう一年留年した。次進級できなければ、大学は除籍になる。瀬戸際のはずなのに、私の心は凪いでいた。進級しようが、除籍になろうが、本当はどうでもよかった。だいたいのことがどうでもよくなっていた。

 もういいよ。

 今度は口に出して呟いて、私は最低限の着替えをした。部屋の鍵を閉めて、エレベーターに乗って五階に上がる。非常階段から屋上に上がれることは、事前に確認していた。

 いくじなしの私のことだから、どうせ直前で怖気付くことは目に見えている。それでも、少しの可能性にかけてみたい。


私は、もう生きていたくないんだ。


初投稿です。よろしくお願いします。

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