表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第9話 協力者


「毒が入っている?」


 春鈴の言葉を受けた永蘭は、声を微かに震わせていた。


 特に臆することなく、毒の存在を知っていたかのような春鈴の反応を前にして、永蘭は動揺を隠せなくなっていた。


「ええ。あっ、正確には表現が違いましたね。正確にはーー」


「待ちなさいよ!」


 さも当然のことを指摘するかのような春鈴を前に、朱蓮は大きな声を上げてしまっていた。その声でハッとさせられた永蘭は、急いで動揺していた表情を隠した。


 しかし、今さらその表情を隠したところで遅い。


 春鈴がじっと永蘭を見ていたことに気づいた朱蓮は、自分に気を引こうとしてもう一段声のボリュームを上げた。


「今の言葉は聞き捨てなりません! せっかく永蘭様がお茶会にあなたのような人を呼んであげたというのに、そんな言いがかりをかけるなんて!」


 ヒートアップしたような物言いは打ち合わせ済みなのか、それとも動揺を隠すためにあえて大きな声を出しているのか。


 春鈴にはその真相は分からないが、この先の展開だけは分かっていた。


 だって、何度も夢で見てきた光景だから。


 しかし、そんなことを知らない永蘭と朱蓮はここから挽回させようと必死になっていたるようだった。

 

朱蓮が時間を稼いだおかげで心を落ち着けた永蘭は少し調子を取り戻したようで、春鈴を軽く睨みながら不満そうに口を開いた。


「せっかく用意したお茶なので、春鈴様にも飲んで欲しいものですね。私を疑った謝罪の意味も含めて」


「ほら、私たちが初めに飲んでも問題ないのですから、あなたも飲むべきです」


 永蘭と朱蓮は二人で圧をかけるような言い方で春鈴を追い込んでいた。二人の嬪に合わせるように、周囲にいた侍女たちも春鈴を睨んでいるようだった。


 一人だけ、ずっと顔が青いままの子がいるみたいだけど。


 しかし、当の春鈴は追い込まれたにしては緊張感がなく、視線すら別の所に向けていた。


 ……そろそろかな。


 春鈴が視線を向けているのは部屋の戸。


 春鈴はこの後宮において春鈴の唯一の協力者がやってくるのを待っていたのだ。


 そんな春鈴の考え通り、春鈴が見つめている戸を叩く音が聞こえてきた。


「随分と騒がしいですが何かあったのですか?」


 数度戸を叩いてから現れたのは、呂修を連れてやって来た泰然の姿だった。


 泰然は朱蓮の声を聞いて今駆け付けたかのような顔をしていた。


今起こっていることもこれから起こることも知っているはずなのに、よくそんな顔ができるものだ。


 泰然様って、結構な役者なんじゃないの?


 少しだけ細めた目で泰然を見る春鈴に対して、他の面々は突然の泰然の登場を心なしか喜んでいるようだった。


 侍女に至っては、泰然に熱のある視線を向けているものまでいる。


 ただの宦官にしては、やけに人気があるみたいだ。


 中世的な甘い顔立ちは人気が出るのも納得だが、私を置き去りにしてまで盛りあがるのはどうなのだろうか。


これから私に毒を盛ろうって段階だろうに。


 もしかして、泰然様ってただの宦官ではないのだろうか?


 そんなことを考えていると、朱蓮は妙案を思いついたかのように口角を上げると、少しの猫なで声で言葉を続けた。


「お聞きください、泰然様。新しい充媛様が永蘭様が用意してくださったお茶に毒が入っていると言うんです」


「ほう、あまり穏やかではないですね」


 朱蓮の言葉を聞いた泰然は表情を引き締めると、ちらりと春鈴の方にその顔を向けた。


 演技だと分かっていても疑うような目を向けられるのは、あまり好ましいことではないな。


 そう思った春鈴はそっとその目から視線を逸らした。


 その春鈴の態度を見た朱蓮は春鈴が後ろめたさを感じたと思ったのか、春鈴を非難するような口調で言葉を続けた。


「皇帝様にも進言するべきです。人を疑うことしかできない充媛は、九嬪にふさわしくないと」


 春鈴を指さしながらの朱蓮の言葉は、まるで春鈴が何かの犯人かのような言い方だった。


 泰然と呂修も自分達の味方だと思っているのだろう。朱蓮はすでに勝ちを確信しているかのような笑みを浮かべていた。


 泰然は朱蓮の言葉を受けて深く考えるそぶりを見せた後、言葉を続けた。


「ふむ。好意を無下にするなんて感心しませんね、春鈴様」


「え?」


 あれ? 約束と違くない?


 泰然から提示された条件を守ることを約束した代わりに、泰然は春鈴の味方をしてくれると言っていた。


 それなのに、なぜ朱蓮の言葉に乗せられているのか。


 春鈴は想像と違っていた泰然の言葉を目に、小さな声を漏らしてしまっていた。


 しかし、少し不安になった春鈴だったが、その不安は泰然の続く言葉によって一蹴されるのだった。


「毒が入っていないことを証明するには、どうすればいいですかね……あ、春鈴様の湯呑に入ったお茶を永蘭様が飲めば良いのではないですか?」


「「「え?」」」


 その泰然の言葉を受けて、春鈴だけでなく永蘭と朱蓮までもが間の抜けたような声を漏らした。


 私のお茶には毒が仕込まれている。それを知っているはずなのに、なんでそれを他の人に飲ませようとしているの、この人。


 確か、泰然は春鈴が毒の指摘をした後は自分が上手く処理をすると言っていたはず。


……こんな話の流れになるなんて、聞いてないんだけど。


 想定と違う展開に驚く春鈴を見た泰然は、その反応を見て誰にも気づかれないようにそっと口元を緩めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ