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第5話 三代目の充媛


「春鈴様にもう少し説明をしてあげてもよろしかったのでは?」


 春鈴のいる玄武宮から出てタイミングで、呂修は前を歩く泰然にそんなことを聞いていた。


 ただでさえ春鈴には与えている情報が少なく、侍女もまだつけていない。


 味方がいない今の状態から活路を見出すのはかなり骨が折れることだろう。


 何かアドバイスの一つでもあれば違うだろうと考える呂修に対して、泰然は一歩も引かないと言った強い意志のある顔をしていた。


先程まで春鈴に向けていた優しい顔をすでに顔を引っ込められていた。


「だめだ。ここで自分に起きることも分からないのなら、返してしまった方がいい」


「泰然様。明林ミンリン様のことは泰然様が責任を感じる必要はありませんよ」


「……そういう訳にもいかないだろう」


 義明林ギミンレイというのは、春鈴が後宮に来る前にいた春鈴のポジションの前任者だ。


 明林は占いの力に秀でているということで、現皇帝の後宮に呼ばれた二人目の充媛だった。


 一人目の充媛も明林と同じく、占いの力がある少女だった。


 この国の後宮に置いて充媛という称号は差別の対象になる称号となっていた。


 家柄も良くなければ、顔が良いわけでもない。それに加えて、気味の悪いほど強い特別な力を持つのだから、自然と除け者にもなる。


 不幸中の幸いか、前任者の二人ともこの後宮で命を落とすということはなかった。


 その代償として、少々心を壊してしまったようだが。


 泰然にとっては思い出したくないことであるが、忘れてはならないことでもある。


 この後宮の充媛は、自分の身の危険を察知できなければ生きていくことはできない。それならば、早々に家に帰ってもらった方があの娘にとってもいいはずだ。


 泰然はそんなことを考えながら、自然と呂修の前を歩いていた足が止まってしまっていた。


「やはり、気になるのではないですか?」


 ちらりと呂修の方に振り向いた泰然の顔は、なんとも言えない複雑な顔をしていた。


 さすがに味方がおらず、大した説明もせずに他の嬪たちを相手にするのは分が悪すぎる。


 以前のようなことを繰り返さないようにと考え過ぎて、課題が必要以上に大きくなってしまったかもしれない。


 そんなことを考えた泰然は、少しだけ考え直した後にぼそっと独り言を漏らしていた。


「……一仕事終えて時間があったら、様子くらいは見てきても問題はないだろう」


 呂修は聞こえていたその言葉に何も言わず、再び歩き出した泰然の後ろをついて歩いて行った。




 それから数時間後、夕方になった頃に春鈴の部屋を訪れた泰然は、目の前の光景を前に唖然としていた。


 あれだけ何かがありそうなことを告げたというのに、春鈴は夕方からベッドに横になって心地良さそうに寝息を立てていた。


「肝が据わっているのか、はたまた能天気なのか」


 このままでは、想像よりも早く今回の充媛は脱落しそうだ。


 少しくらい何かアドバイスでもしてあげた方がいいだろう。……起こすか。


 そう思った泰然は小さくため息を吐いた後、春鈴に声をかけようと部屋に足を踏み入れた。


 しかし、ノックしても起きなかった春鈴は、泰然が起こすよりも先にもそもそっとベッドから起き上がった。


 春鈴の顔は寝起きのせいぼうっとしていて、目が据わっているようにも見えた。


 しかし、その姿はどこか浮世絵離れしたような儚さがあり、泰然は春鈴のその表情に魅入ってしまっていた。


「……なるほど。泰然様が言っていたのは、新人いびりを回避しろってことですか」


「え?」


 誰に言うでもなく一人納得するような春鈴の言葉に、泰然は小さく声を漏らしていた。


 そして、その声に引かれるように顔を上げた春鈴の瞳にはいつものような光が目に宿っていた。


「え、泰然様?」


 我に返ったような春鈴の言葉を前に、泰然は微かに冷や汗のような物を流していた。


 以前、充媛を務めた明林もここまで明確な未来を見えてはいなかった。


 まさか、春鈴の予知能力がここまでだとは。


 もしかしたら、この力は想像以上に使えるかもしれない。


 泰然は様子を見に来ただけだったはずなのに、気がつけば真剣な瞳で春鈴を見つめていた。


「話してくれますか。あなたが見た夢の話を」


 殺伐とした後宮の雰囲気をがらりと変える力がある。


 そんなことを考えた泰然は、春鈴に夢で見た未来の話を聞くのだった。




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