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第4話 後宮での試練


 春鈴は泰然に連れられて、玄武宮の一室に来ていた。


 そこで春鈴が聞かされたのは、今の後宮と春鈴の置かれている状況だった。


 まず初めに現皇帝。この国の皇帝はかなり用心深いようで、その素顔を知るものはほんの一握りらしい。


 相当用心深いせいか、また後宮が作られて半年が過ぎるというのにまだ一番の寵愛の相手を決めていない。


 噂によれば、伽に呼ばれても床を共にした女がまだいないとか。


 どうやら、一番の相手を決めてしまってはその女の命が危なくなるかららしいが、真相は分からない。


 ……美女を近くに置いていながら伽を求めないと言うのも、怪しいから噂程度の話だろう。


 春鈴は泰然の話を聞く中でそんなふうに思っていた。


現皇帝には正妃はおらず、四夫人と九嬪が皇帝からの寵愛を奪い合っている状態になっている。


 四夫人である貴妃、淑妃、徳妃、賢妃にはそれぞれ四神である青龍、朱雀、白虎、玄武の名がついた宮が与えられている。


 そして、春鈴は九嬪の充媛の称号を貰い、賢妃のいる玄宮に住むことになったのだった。


実家の自室の数倍はあるんじゃないかという広い部屋に通された春鈴は、その部屋の広さ驚きながら泰然から語られる後宮の現状に耳を傾けていた。


春鈴が聞きなじみの内容で首を傾げていると、泰然は春鈴にも分かりやすいように説明の仕方を変えてくれた。


その気遣いによってか、春鈴の頭にも何となくの相関関係を掴むことができたのだった。


 それでも、その説明を聞いても春鈴はまだ分からないことがあった。


「説明は大体こんな所ですね。何か質問は?」


 春鈴は呂修をちらりと見た後、ずっと気になっていることについて聞いてみることにした。


「あの、なぜ今の時期に私が後宮に呼ばれたのでしょうか? すでに一人私のような方がいらっしゃるのでは?」


 以前に呂修に質問をした時は詳しくは後宮で話すとかわされてしまった。


その回答を求めるとしたら、おそらく今のタイミングだろう。


 そう思って少しだけ意気込んで聞いてみると、泰然は春鈴から視線を外してから言葉を続けた。


「ええ、いましたね。色々あって、実家に送り返しましたけど」


「実家に、ですか」


 春鈴は泰然の言葉に引っ掛かりを覚えた。


 基本的に後宮入りした女はその後宮の中で一生を終える。


 少し陰った表情をした泰然の様子から、春鈴は前任者がただの里帰りで実家に戻ったわけではないことを察した。


 ……これって、何か隠してるよね?


 泰然は春鈴が何かを察した様子を確認して、複雑な表情をしていた。


これからの春鈴のことを考えると、察しが良い方が助かるのだが、察しが良すぎるのも面倒かもしれない。


それでも、この話をここで終わらせるのはあまりにも不自然だと思い、泰然は諦めるように小さな溜息を吐いてから口を開いた。


「後宮では表沙汰にできない事件が数多く起きています。寵愛を受けるために自身を磨くのではなく、互いの足の引っ張り合いが行われるためですね」


 一見、煌びやかな存在にも思われる後宮であるが、その実態は女たちの家柄をかけた代理戦争と言っても過言ではない。


 子を授かった妃には毒牙盛られ、別の所では女官が謎の死を遂げる。


 そんなことが日常的に起こりうる後宮は、見た目では想像もつかないほどの深い闇を持つ場所でもあった。


 泰然は今まで起きた事件を脳裏に浮かべてから、そっと言葉を続けた。


「預かっている大事な娘を死なせてしまえば、それは後宮の管理不足。そこで、この国では九嬪の中に特別な力を持つ者を紛れさせて、後宮の治安を守っていたらしいです」


「らしいというのは?」


「いつの時代もその方法が上手くいったわけではないということです」


 泰然の言葉を聞いた春鈴は、意味ありげなその一言の意味を察してしまった。


 もしかして、前任者がいない理由ってその方法が上手くいかなかったからなんじゃ……。


 具体的には何かを盛られていたりして。


 確証もない考えではあるが可能性が低いとは思えないその考えを前に、春鈴は冷や汗を垂らしていた。


「春鈴様。皇帝から課題を預かっています」


「課題ですか?」


 もしかしたら、危険な仕事に巻き込まれているんじゃないかと不安になっていた所に、泰然は優しい笑みと共に言葉を続けた。


「まずは手始めに、この後宮で生き残ってみよ、とのことです」


「え? 生き残る、ですか?」


「安心してください。何もいきなり殺されるようなことは多分ないですから」


 いやいやいやいや、そこ多分じゃ困るんですけど!


 もっと詳しい事情を聞かせてもらおうと思ったのだが、泰然は現時点で言えることはここまでだと言い残して、呂修を連れて部屋を出ていってしまった。


一人部屋に残された春鈴は、ただ虚しく二人が出ていった戸に手を伸ばしていた。


「なに、その物騒なお題は」


 春鈴の独り言は誰にも届くことなく、泡のように消えていったのだった。


 こうして、春鈴の後宮での試練がいきなり幕を開けた。



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