第13話 夢の秘密
「私が見るのはあくまで一人称視点の夢なんです」
春鈴が簡単に自分の力について説明したのだが、あまりにも端的過ぎたせいか泰然を呂修もピンと来ていない様子だった。
春鈴は二人の反応を見て、少し考え直してからかみ砕いて説明を続けた。
「私が見るのは自分の未来です。なので、私に関係のある人のことは分かっても、後宮にいる見たことのない人や場所で起こる事件を事前に把握するのは無理ということです」
もちろん、三人称視点の夢を見ることもあるけど、その場合は未来とは全く関係のない空想みたいな話になることが多い。
未来を予知する夢を見るときは、決まって一人称のときのみ。よって、自分が知らない所で何かが起きても知る術がないのだ。
「なるほど、そういうことでしたか」
泰然は春鈴の言葉に頷いてから、顎に手を当てて少しだけ考え込んでいた。
春鈴の力は一件凄いのだが、弱点はその未来予知できる範囲が狭いことだ。詳細に分かる代わりに、占い師のように知らない人の情報を聞いただけで未来を予想することはできない。
せいぜい生活圏内の人の未来が少し見えるくらい。
もしかしたら、それを知っていたら、後宮に呼ばれるようなことはなかったかもしれない。
でも、結果として充媛なってしまったわけだし、使えないから帰ってくれということにもならないだろう。
せっかく寝ているだけでお金がもらえると言われてやって来たのだから、ここで家に返されるのは困る。
春鈴がそんなことを考えていると、泰然が何かに気づいたような声を漏らした。
「……いや、それなら無理ではないですね」
「え?」
「眠り姫様が後宮を庭のように把握できれば、後宮で起こるある程度のことは予知できるのではないでしょうか?」
「後宮を庭のようにって、後宮がどれだけ広いか泰然様の方が知っていますよね?」
まだ後宮に来て間もない春鈴でも後宮が下手な街よりも広いことは知っていた。ましてや、後宮に勤めている人なんて千人は優に超えるだろう。
それらを全て把握しろと言うなんて、さすがに無理があるのではないだろうか?
「主が平穏な後宮を望むのなら、やるしかないでしょう」
「いや、物理的に無理では?」
「区画を分けて、時間かければ不可能ではないかと」
冗談であって欲しいと思いながら、泰然の目が本気であることに気づいた春鈴は言葉を失っていた。
不可能ではない。不可能ではないけれど、絶対にやりたくはない。
けれど、不可能なことではないのならば、やらなければならないのだろう。
それを皇帝が望んでいると言われれば、断ることなどできるはずがないのだから。
春鈴が何も言い返せずにいると、泰然はふと何かを思い出したように口を開いた。
「もしかして、眠り姫様との距離が近い者の夢を一番多く見るのでしょうか?」
「比較的多くはなりますかね」
「そうですか。……ふむ」
春鈴は決まってしまった途方もない作業を前に、小さくため息を漏らしていた。
……私の睡眠時間が。
軽く絶望している春鈴は、泰然が真剣な顔で何かを考えている素振りに気づくことはなかった。
代わりに気づいたことがあるとすれば、泰然が春鈴を呼ぶときの呼び名が『眠り姫』になったことくらいだった。




