06
死体を見たとき、僕は少しびっくりした。
こういうとき、普通の人は少なくとも驚いて腰を抜かすだろう。
でも、ここの人たちはそうではなかった。
なぜなら、これを見たのは実は一回目ではないからである。
僕も、最初に見たときは驚いてしまった。
悲鳴が聞こえたと思ってちょっと外を見てみると、鮮血が広がっているのである。
腐った死体が転がっている、ということはそのレベルで人殺しが起きているということである。
確かに荒れているとは少々覚悟していたものの、ここまで殺伐としたような感じだとは思わなかった。
周りの看護師たちに聞くと、2、3か月もたてばなれるという。
病院の周りではこういうことがよく起こるそうで、病院近くでの死者数があまりにも多すぎるため、おそらく狙ってやっている輩が多いのではないかといううわさもたっているそうだ。
警察は来ないのか、というとそんなもん機能していない、という。
僕自身、死体をそんなに見たことはないのでいまだに慣れていないが。
そのような死体が実はちらほら落ちている。
殺されてから一日経ってないようなものから、明らかに遠目から見てもウジ虫が立っており腐っているようなものまで。
しかし、隣にいる金藤さんも動じてない。
そう、これは本当に病院でよく起こっている現象なのだ。
そして、これが日常茶飯事ということは当然これをころしたやつもいるわけだ。
今は真昼間だし目立ってそういうことをする輩もいないが、
殺されないとは限らない(と言われた)から、用心するに越したことはない。
「えっと...今からどこに行くんですか?」
「ちっと話せるところだ。ここじゃほかの人に聞かれてしまう」
そんな感じで、金藤さんに連れられてやってきたのは、山だった。
病院の北と西に当たるところには、高い山が連なっていた。
「病院の裏って、こんな山に囲まれていたんですか...」
「山っつっても大したもんじゃねえけどもな。数百メートルしかないし」
数百メートルにしては、なんか崖みたいな勾配をしているように見える。
もしかして、ここの病院は山を削り取ってできたものなのだろうか。
しかし、それにしては草木が生い茂っているような...
「とりあえず、建物まで案内するから。ちょっと険しいが、頑張ってくれ」
それから数十分。
僕は、切り立った崖を上っていた。
いや、正確には、その坂にある細い抜け道を歩いていた。
僕が想像していた崖のぼりよりもだいぶましだったのでそれはそれでよかったのだが、
問題はどちらかというと己の肉体のほうだ。
「ハァ...ハァ...」
運動量はハイキングと同じくらいであると思うのだが、ちょっと歩いただけで早くももう息切れしてしまっている。
人間、半月寝たきりになっていただけでここまで体力が落ちるものだろうか。
運動の継続は思っているよりも重要だなぁ、と痛々しく感じていると、
「よし、あれが私の研究所だ」
そこには、木造の古びた小屋があった。
「け...研究所...?」
「おいおい、これぐらいの移動で息切れしていちゃ...患者とはいえ運動不足じゃないのか」
この人が口を開くと、少々ばかにされた感がある。
ちょっとリンドウさんの苦労がわかったような気がした。
小屋の中に入ると、研究所と言われた通り中にはある程度設備が整っていた。
棚の中には無数の瓶があり、それぞれにいろいろ文字が書かれている。おそらく薬品の種類が書かれているのだろう。
「とりあえず、座ってくれ」
掘りごたつの周りにある座布団を指さした金藤さん。
言われるままに僕が座ると、反対側に金藤さんが座った。
「さて、君がどこまで覚えているかだが...」