02
僕が寝ている部屋に入ってきたのは、着物を着た女性だった。
深緑と灰色の織り交じった髪を持つ、翡翠のような澄んだ目を持った女性。
紺色の衣服に薄緑の袴を着ていた。
柔和な顔つきをしており、見るとなんとなく安心する。
「お目覚めになりましたかー?」
彼女は襖を開けるや否や、そう言った。
「あ、あの」
僕がしゃべる間もなく、
「あ、起きてますね、よかったよかった」
立膝をつき、僕の体へと近づいた。
「大丈夫ですか?痛くないですか?」
「いやまあ、何とか...」
「それならよかった、安静にしててくださいね」
落ち着いたしゃべり方の人だ。
見た目からして看護師の方だろうか。
「診療所の前で血まみれで倒れていたから、一時期どうなることかと」
診療所?
「あの、ここは一体...?」
「ここは夢の都市テンイキの辺境にある、カーロ診療所です。」
テン...イキ...?
そうだ、思い出した。
夢の都市テンイキ。
すべての者たちの夢がかなえられる、世界一幸福な街。
という謳い文句を聞いたことがある。
が、どう考えても胡散臭い。
すべての人の願いが叶うなんて、そんなことがあるわけがない。
どうせ、一部の人たちが富を独占する、典型的な格差があるのだろうと高をくくっていた。
そして、ここには絶対に行かないようにしておこうと思っていたのだが...
はて、なんでこんなところにいるのだろうか。
まあ、それは後から考えることにしよう。
それよりも、いつまでも寝転がったままというのも情けない。
と、動こうとしたところ、
「あ、あまり動かないでくださいね。ちょっとでも傾けると大変なことになりますから」
止められてしまった。
「この、頭が重いのは...」
「金属製のヘルメットを着けてますからね。かなり重いと思いますから、自力で立てないと思いますよ」
「え、僕ってどんな風に倒れてたんですか」
「それはもう、すごかったですよ。頭からすごい血を流して、頭が変形してましたから」
僕そんな重症だったのか...というかよく死ななかったな
「多分頭蓋骨われてると思うので、ほんとに危ない状態だったんです。ほんとに、助かってよかった」
「あの...あなたは?」
「私はここの職員、リンドウといいます」
見ず知らずの僕を、ここまで気に掛けるとは、優しい人だ。
ただし、ここにこういう人がいるのは、正直かなり珍しい。
先ほどにも言った通り、この町はどうにもきな臭い。
それで、こういうところには、たいてい精神を張り詰めて生きている人が多いものだ。
人助けなどしようものなら、一斉にたたかれてしまう。
だから、前で人が行き倒れていても、放置しておくというのが普通なのだが...
僕を何かに利用しようとしているのか、とも考えたが見た感じ本当にただ優しそうなだけの人だ。
どういうことなのだろうか。