異世界カフェでパパ活について語る若者達
私が結婚した時、友人は『あんないい人と結婚出来て本当に良かったね』と祝福してくれた。
まあ、その親友が旦那と不倫した末、私が異世界転生する原因を作ったんだけどね。
あいつ、『絶対許さない』から!
とは言え、転生先で若返った私は新しい楽しみを見つけた。
常連となっている『くつろぎカフェ やよい』でのひと時!!
私の推しであるレム一族の生態ウォッチング!!
扉をくぐると顔なじみとなった女性店員が苦笑しながら近づいてくる。
「来てますよ」
よっしゃぁぁぁぁ!!
早速近くの席へ案内してもらう。
今回ウォッチングするのは長男のアークトゥルス。通称アル君だ。
耳がべらぼうにいいらしく店員さんはウォッチに気づかれない様配慮して筆談で情報を教えてくれた。
端正な顔立ちの美少年で向かいに大きなリボンをつけた同年代と思しき少女が座っていた。
あれはもしかしたら彼女か何かだろうかと筆談で聞いてみると、よく一緒に来てはいるが少なくともレム一族ではないらしい。
なるほど、一番上のお兄ちゃんはプレイボーイなのね。
そりゃそうだよ。イケメンだもん。
ホクトお兄ちゃんもイケてるけどまたベクトルが違うのよね。
これで好いてくれているヒイナちゃんって子まで居るんでしょ?凄いわぁ。
私だって声を掛けられてお茶に誘われたらほいほいついて行っちゃいそう。
まあ、恋愛とかはもうごめんだけど目の保養としてね。
さて、プレイボーイ君はガールフレンドとどんな会話をしているのかな?
「そう言えばウチの父さんがさぁ、『パパ活』始めたんだよな」
何ですと!!?
パパ活って……パパ活、だよね?
転生前の世界でも社会問題になっていたあのパパ活………
いきなりヘヴィーな話題来ちゃった!?
もうそれ家庭崩壊のプレリュードじゃん!
親がパパ活してた事判明とか無茶苦茶恥ずかしい奴じゃん。
「えー、アルのお父さんって警備隊の偉い人だよね?凄いじゃん」
うっわ最悪すぎる!
警備隊とはこっちの世界における警察的な役割をする人達だよね。
あれだよ。警察官の不祥事だよ!家庭崩壊待ったなしだよ!!
「昔会った事あるけどあのお父さんならいつかやると思ったよ」
やりそうなお父さんなんだ!
もう色々と恥過ぎる!!
下手したらガールフレンドちゃんの友達や同級生でお父さんとパパ活してる子いたりしない?
そんなの発覚した日にゃ学校行けなくなるよ!!
いや待てよ?
この世界の『パパ活』が必ずしも地球の『パパ活』と同一とは限らない。
例えば職場の人達と休日に釣りへ行ったりゴルフをしたり。
そういったものを『パパ活』と呼んでいる可能性は無きにしも非ず。
「この前は飯に行ってたなぁ」
私の知ってる『パパ活』じゃん!!
ご飯行っちゃったよ!!
「その後買い物も行ってな。色々買ってやったってさ」
やっぱり『パパ活』だよ!!
もう最悪のパターンじゃん!!
いや待て。男友達と食事に行って買い物をした可能性だって無きにしも非ずだ。
色々買ったというのもプレゼント交換的なあれじゃないかな。
そう、パパ同士が親交を深めたんだよきっと!!
「どうだったか感想を聞いたらさ、『久々に女性をエスコートしたら緊張したなぁ』って笑ってた」
アウトォォォッッ!!
相手やっぱり女だった!!
もうまごう事無き『パパ活』じゃん!!
確かこの国って『不倫』に対して無茶苦茶厳しい文化だよね?
日本で俳優が干されるのとはレベルが違うはず。
私としてはそんなこの国の文化が大好きです。不倫はクソだ。
自分の父親が『パパ活』しているという事実を知って彼は何を考えているんだろう。
この先待っているのは家庭の崩壊。
そうなると彼の妹であるユズカちゃんやカノンちゃん達も笑顔で居られなくなっちゃうよね。
不憫!こんなにいい子達なのに父親の後先考えない行動で不幸になっちゃうなんて。
「あっ、ほら。噂をすれば父さんが丁度パパ活してるぜ」
アル君が窓の外を指さす。
こんな真昼間から!?
しかも息子にあっさり発見されるとかある意味大物じゃね?
怒りと殺意に満ちた視線を向けた。
窓の外、通りを中年の男性が若い女の子と腕を組んで歩いていた。
なのだが……
「あれ?」
お父さんと思しき男性と一緒に歩いているのは……
あれってユズカちゃんだよね。600gのステーキを食べてた……
「へへ、ユズカのやつ、楽しそうにしてやがる。あいつファザコンの癖に急に『お父様の洗濯物と一緒に洗濯は止めて』とか言ったりしだしてさ。父さん落ち込んでたんだよな。だけどその後で『あたしは何てことを……』ってあいつ自身も自己嫌悪して落ち込んじゃっててね」
あれ、もしかしてこっちの世界の『パパ活』って父親が娘をエスコートするってこと?
つまりその、『親子の時間』?
「仕方ねぇからおれが父さんに『パパ活してみたら』って言ってやってさ、すったもんだでああなったんだよな」
やだ、お兄ちゃんったら凄く妹思い!!
「アルは優しいよね」
「別に。あいつがウジウジしてると家の空気が重くなるのが面倒なだけだよ」
ちょっと素直じゃない所も素敵じゃない。
ほら、ガールフレンドちゃんもうっとりした表情してるよ。
でもさ、モテるのはいいけど私を殺して異世界転生させたあの男みたいなやつにはならないで欲しいかな。
そんな事を考えていると長い髪をなびかせた女性が店に入って来てつかつかと2人に近づいていく。
あっ、これ知ってる。こういう雰囲気って間違いなくあれだ!!
「おっ、ヒイナか。どうしたんだ、そんな怖い顔をして」
どうやらこの女性が噂のヒイナちゃんらしい。
いとこのお姉ちゃんであり、アル君の事が大好き。
一方のアル君は彼女の後輩であるミズキちゃんが好き。
そしてミズキちゃんはアル君の弟であるホクト君が好き。
肝心のホクト君はヒイナちゃんが好きという四角関係。
そして今日、ここにこの関係に食い込む新たなライバル登場、そして修羅場ってわけね。
「ちょっとオージェ!あなたは何でいつもアル君にくっついているわけよ?」
なるほど、あのガールフレンドちゃんは『オージェ』ちゃんっていうのか。
「何だよヒイナ。俺らガキの頃からの親友だぜ?つるんでてなんか問題あるかよ?」
アル君、いい事を教えてあげよう。
男女の友情は成立しないよ?
どこかで恋愛感情が芽生えてカタチが変わるんだ。
私を裏切った女は旦那と昔からの友人で『男女の友情』をほざいてたんだ。
そしてそれに私も騙されたよ。私に隠れてレッツ!コンバインしてたもん。
「あのねぇ……」
「ヒイナちゃん、そうやってアルを束縛するから嫌がられるんでしょ?学習しなよ」
「くっ、そ、それは……」
そりゃ好きな男が可愛い女の子とデートしてたら気が気じゃないよね。
まあ、外野で見ている分には『ワクワクする』けどね。
「君って出会った時からそこは変わってないよね。『俺』が今まで何回アルから愚痴を聞いたと思ってるの?ホント、程々にしないと嫌われるよ?」
あれ?
今、妙な単語が聞こえたよね?
あの女の子、自分の事を『俺』って言ったよね?
でも自分の事を『俺』って呼ぶ女の子だっているわけだし。
「はぁ……俺ちょっとトイレ行ってくるね」
そういうと立ち上がり、オージェちゃんは『男子トイレ』の方へ入っていった。
え?ウソ。まさかあの子ってやっぱり……
「あのさ、いい加減に『彼』に言ってあげた方が良いんじゃないの?『男』なんだから女の子の恰好するの止めたほうがいいって」
男だったぁぁぁぁ!
可愛い女の子と思ってたらオージェちゃんならぬオージェ君だったぁぁ!?
エクスカリバー装備だったよ!!
「別にあいつの性嗜好なんだからいいじゃねぇか」
流石お兄ちゃん、コンプライアンスも抜群だわ。
「初めて会った時は小太りのお坊ちゃまだったのが次に会ったら……あれは腰抜かしかけたわ」
そりゃそうだよ。
テッポウウオがタコになるくらいの衝撃だよ。
「そりゃ俺も最初は驚いたよ。でもさ、どんな格好してたってあいつは俺の幼馴染であり親友のオージェだぜ?」
「まあ、それがあなたの良い所なのかもしれないけどさ。わかってるの?彼が何で『女の子』の格好をするようになったのか」
「本当の自分に気づいたんだろ。異世界にはそういう人達が結構いるって父さんも言ってたぞ」
「間違ってはないんだけど、その……深い意味でね?あー、気づかないかぁ。変な所で鈍いのは遺伝でしょうね……」
アル君は首をかしげていた。
あー、もしかして……お姉さんは気づいちゃったかも。
過去に何があったか知らないけどあのオージェって子、男だけどアル君に『ガチ恋』してるってこと?
そして当然の如く、アル君はその好意に気づいていない。
うわぁ、多角関係が思った以上にややこしい形になり始めたぁぁ!!
「ふーっ、大きいのでたわー」
けらけら笑いながら戻ってくるオージェ君。
うん。見た目は美少女、中身は男子高校生!!
色々な意味でギャップが凄い。
「マジかよ。ちゃんと流れたのかぁ」
そして急に同じノリになるお兄ちゃんが可愛いかも!!
「はぁ…………」
ヒイナちゃんは諦めて席に着く。
店員が注文を聞きに来ると彼女はこう言った。
「ギガグリズリーステーキ、キングサイズで!!」
ああ、やけ食いだ……