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第6話  美しい三角形


 朝の六時に鳴ったアラームを寝ぼけ頭で止めて三分後、ハッと顔を上げて急ぎ洗面所へ走る。

 準備を終えたらキッチンに立ち、まずは卵焼きから取り掛かった。メインは昨日の残りの生姜焼き。副菜にアスパラガスの炒め物を詰め、出来上がった三つの弁当箱を見てひと息つく。

 最初にオミに弁当を渡した日、ひどく緊張した。料理の腕には自信があったものの、不安が拭えず前日から何時間もかけて下拵えまでした。弁当一つに毎度そこまで手間をかけるわけにもいかないのだけど、第一手では確実に胃袋を掴んでおきたかったのだ。


 ──ん。やっぱり美味い。


 そう言われたとき、安堵と歓喜で泣きそうになった。今日も美味しいと言ってもらえるだろうか。期待が膨れ上がって、昼時までいつも気が気じゃない。いったいなにをしに塾へ通っているのかわからないほどだ。

 朝は学校に行くときと同じように、階段でオミを待つ。優李がぼんやり外を眺めていると、そのうち寝癖頭のオミがやってくる。いつもならここで奏多も一緒にいるけれど、この夏の間は二人きりだ。


「今日は別か。終わったら玄関にいろよ」


 わかったと答え、休憩時間がズレるかもしれないから、と弁当を先に手渡した。


「お、ありがとな。中身なに?」

「生姜焼き」

「最高だな」


 よかった、喜んでくれた。ホッとして肩の力を抜くと、オミと目が合った。気が緩んだ瞬間を見られたようで、


「なに笑ってんだ?」


 と問われる。慌てて「笑ってない」と返すと、


「可愛いな、おまえ」


 と、唐突に爆弾を投げられた。一気に顔が火照り、思わず伏せる。オミはなんでもないように弁当袋を揺らして教室へ消えていった。


 ──な、なんだよ、今の。


 熱がまったく引かない頬を摩って、廊下の掲示板にずるずると肩を擦り付けた。男なのだから可愛いなんて褒め言葉にならないはずなのに、オミに言われるだけで蕩けそうになってしまった。呆然としたまま動けない優李を、他の生徒が訝しげに追い越していく。

 オミの何気ない言動にいちいち浮かれている自分は、周囲からどんなふうに見えているのだろう。急に怖くなって、慌てて立ち上がりリュックを背負い直した。万が一にもこの気持ちに気づかれてはいけない。知られてしまったら、なにもかもが一変してしまう。


 ──オミと、奏多と、自分。


 この美しい三角形を崩さないように、死ぬまで隠し通すのだ。誰にも悟られてはいけないのだから、もっと気をつけないと。雑念を飛ばすように頭を振り、教室へ向かった。



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