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国境付近の町

 

 アーデル達はアルデガロー王国とジーベイン王国との国境に近い町へやってきた。


 本来ならばアーデル村から十日はかかる場所を経った三日で移動できたのは、パペットが作った新しい馬車のおかげだと言える。


 ドワーフのグラスドも手伝ったようで、パペット曰く「バリバリチューンアップしました」とのことだった。移動中、馬車の中でパペットはその素晴らしさを語っていたが、ほぼ誰も分からない状況で、全員が聞き流していたと言ってもいい。


 手伝ったグラスドはアーデル達が村を出発する際にドワーフの国へと帰った。何人か一緒に来たドワーフは村に住むなり、別の町へ移住するなりでそれぞれだったが、全員がアーデル達に感謝していた。


 グラスドも定期的に墓参りに来ることを約束し、たまにはドワーフの国へ来てくれと言いつつ、大量の酒を買い込んで帰っていった。


 連れてきた獣人たちも最初のころは戸惑いがあったようだが、コンスタンツが獣人の中で最も強い人物を直属の家臣として雇うということになったことで落ち着いた。


 獣人たちは魔の森の探索隊のような位置づけではあるが、領地の戦力でもあり、その取りまとめをリーダーに任せた形だ。


 獣人がかなりの役職を任されたということもあり、獣人たちはかなりやる気になっている。さらには他の場所にいる獣人たちを雇い入れてもいいとコンスタンツが約束したので、さらにやる気になっていた。


 村の住人から獣人たちにそんな戦力を持たせていいのかという懸念も少しだけあったが、村の最大戦力でもある水の精霊たちとパペットのゴーレム軍団がいるので何の問題もないということになった。


 獣人たちは力関係を大事にする種族なので、最初に水の精霊とゴーレム達にボコボコにされたのか効いているようだった。


 それ以前にアーデルとコンスタンツ、さらにはメイディーという単体で最強とも言うべき人間達がいて謀反的なことを起こすわけがないと獣人たちは慌てて否定している。


 メイディーと戦ったわけではなさそうだが、獣の本能的な部分で敵わないと分かっているらしく、サリファ教ではないものの教会では敬礼していくほどだ。


 これなら安心とアーデル達はさっそくエルフの国へ出発し、隣国の近くまでやってきた。


 ただ、あまりにも早く着きすぎてサリファ教がアーデルに対して安全を保障する証明書の発行が間に合っていない。しばらくはこの町――ギムアックに滞在することになった。


 この辺りはもともとアルデガロー王国の領地ということもあって戦争には巻き込まれていない。ジーベイン王国はあくまでも領地奪還のために戦争を仕掛けていたのでそれ以外の場所への戦闘は極力避けていたということだった。


 とはいえ、何の被害もなかったかと言えばそうではなく、兵士として住人を出す必要もあれば、戦争で使用する物資を提供していたこともあってずいぶんと疲弊しているとのことだ。


 この辺りの話をアーデル達は宿で聞いた。


 それを聞いて黙っていないのがコンスタンツだ。


 コンスタンツは扇子を広げて口元を隠す。そして流し目。


「何とかするべきですわ!」


「また無茶ぶりがでたよ」


 コンスタンツは貴族として正義に近い行動をとるのだが、そのやり方に振り回されるのがアーデル達だ。アーデル村にいる時も何かと村を良くする意見を募集していた。


 それだけならまだ良いのだが、よく分からないのでまずはやってみるという考えが根底にあるため、たまに尋常ではない被害も出る。


「なにか案があるんだろうね?」


「それを今から考えるのではありませんか。家臣として意見をお願いいたしますわ」


「家臣じゃないんだけどね」


 アーデルはそう言いつつも何かあるのかと考える。だが、情報が足りないので何をしていいのかも分からない。


「この町の売りって言うか、何で稼いでいる場所なんだい?」


 アーデル村は魔の森にいる魔物の素材を売ることで生計を立てている。最近はそれだけではなく、村長たちがアーデルから教わった薬の作成も上手くいっているようで、そこそこな売上になっているらしい。


 パペットのゴーレム達も畑を耕したり、貴重な薬草の栽培をしたりと色々やっており、数年後には大きな事業になるかもしれないと言っていた。何より薬師ギルドが村に支店を出すという話もあるそうで村長たちはやる気になっている。


 この町にもそういった特産物などがあれば、それを支援すればいいのではないかとアーデルは考えた。


「昔は鉱山で栄えた町とのことですが、今ではまったく出ないそうですわ。ただ、その鉱山に魔物が住み着いて、それを倒しに来る冒険者たちを相手にする商売が主な収入源だとか。他にもジーベイン王国から来る、もしくは向かう商人を相手に商売をしているらしいですわね。宿場町と言えばいいでしょうか」


「なら戦争も終わったんだし、少しずつではあるけどまた栄えるんじゃないかい? 私達が何かする必要はないと思うんだけどね」


 そもそもここにも領主がいる。他領地を管理しているコンスタンツが余計なことをして大変なことになった方がまずい。


 黙って聞いていたオフィーリアが手を挙げた。


「何かをするってよりも、この町でお金を使えばいいんじゃないですかね? この町限定ですけど、経済を回すというか、全体的なお金が増えれば活気づくでしょうし」


「フィーさん、さすがですわ。伊達に聖女を名乗っているわけではありませんわね。そう、貴族がお金を湯水のように使うのは経済の活性化! ならこの町でお金を使って少しでも潤うようにいたしましょう!」


「でも、問題がありますよね?」


「問題とは?」


「コンスタンツさんってお金をあまり持ってないですよね?」


 普通の庶民よりは持っているだろうが、貴族としてお金が多いとは言いづらい。そもそもこの国全体が消耗しており、魔の森の素材を売りまくって他国を相手に稼いでいる状況だ。


 国全体から見るとコンスタンツの領地はかなり稼いでいるが、その分、納めている税も多く、通常なら謀反を起こしてもおかしくない状況である。そこはコンスタンツの貴族たる矜持で文句は言わないが、いつかもっと上の爵位を貰うつもりだと張り切っている最中だ。


 そんなわけでコンスタンツは確かにお金がない。


「盲点でしたわね!」


「一番見なきゃいけないところですよ……」


「稼いでいるのに、そのほとんどを国に取られているのを忘れておりましたわ。なにか物を売ってお金にするというのはアリなのですが、どちらかといえば町にお金を増やすことが必要なので売るのはダメですわね……滞在する日数もそこまでないのでお金を使うというのはいい案だったのですが」


「そもそも何かを売るのなら隣の国に売ります。ブラッドさんに言われて私が商品を見繕いましたので色々持ってきてはいますが、ここで売ってはいけません」


 パペットがそう言いだすとコンスタンツがうなる。


「そういえばそうでしたわ」


「なら、隣国の商人を見つけて売りつけたらどうだ? 宿場町というなら、そういう商人もいると思うが」


 今度はクリムドアが意見を出す。


「それはいいですわね。売りつけて手に入れたお金をこの町で使えばそう悪くない結果ですわ。ブラッドさんの商品ではありますけど、わたくし御用達の商店ですから、ちょっとくらい横領しても構いませんわよね?」


「それはどうかと思うから止めときな……仕方ないね、久々に薬でも作って売りつけようか。大した値段にはならないかもしれないが、何もしないよりはマシだろ」


「さすがはアーデルさんですわ。面倒くさそうにしていても手助けしてくれるその心。ツンデレの心ですわね!」


「なにか馬鹿にされた感じだけどなんでもいいよ。それじゃちょっと町の外で薬草でも探してくるか」


 アーデルがそう言って立ち上がると、パペットも立ち上がった。


「それじゃ私は枯渇したという鉱山へ行ってきます」


「そこに何かあるのかい?」


「魔物と戦ってきます。馬車だけでなく、私もバリバリにチューンアップしたので魔物相手に試してこようかと。控えめに言って私は危険な凶器、尖ったナイフと言っていいでしょう」


「……控えめに言わないとなんになるんだい?」


「殺戮マッスィーン」


「なんだいそりゃ? 変な言葉だけど殺戮って言葉だけで不安しかないよ」


 そんなこともあって、パペットにはオフィーリアとコンスタンツも付いていくことになった。そしてアーデルはクリムドアと一緒に町の外へ薬草を探しに行くのだった。


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