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墓参り

 

 アーデル達は魔の森にある家にやってきた。


 ここへ来たのは、アーデル、クリムドア、オフィーリア、メイディー、そしてグラスドで、他は村に残っている。


 パペットはゴーレムの作成と改良があると言って工房にとどまっており、ブラッドは店で売り上げの確認などをしている。コンスタンツと獣人たちは魔の森へ入って魔物の狩りを行っており、フロストは留守番だ。


 歩けば三日ほどかかる距離でも馬ゴーレムの馬車なら数時間、朝早く村を出たアーデル達は午前九時前には家に着いた。


 週に一回ほどだが、メイディーがここへやってきて墓の手入れをしているようで、以前は寂し気だった場所も綺麗な花が添えられており、周囲も掃除が行き届いているようで華やかな雰囲気がある。


 以前はアーデルの墓だけであったが、今は隣にウォルスの墓もある。アーデルが一人で住んでいた頃よりも明るく見えるのは、ばあさんの気持ちが反映されているのではないか、そんな風にアーデルは思った。


(亡くなってからの方がにぎやかになっちまったね……喜んでくれてるならいいんだけど)


 アーデルはそんなことを考えながら、サリファ教で行われている死者を弔うための祈りをささげる。サリファ教でなくても大丈夫とのことだが、世間的にはこれが定着しているらしく、グラスドも同じように祈りをささげていた。


 少し長めの祈りを終えると、まずは掃除だとメイディーが張り切った。アーデルはそれに文句をつけるわけがなく、皆で墓の周辺を掃除する。


 雑草を抜き、花に水を与え、墓標となっている石の十字架を磨く。三十分ほど掃除をすると、オフィーリアが亜空間からテーブルや椅子を取り出して、外でお茶をする準備を整え始めた。


「外でお茶を飲むのかい?」


「いい天気ですからね。それにアーデル様はメイディー様が作るクッキーや紅茶が好きだったんですから、たまには一緒にお茶しませんと!」


 手際よく準備しているオフィーリアは、本当に楽しそうに準備をしており、メイディーも同じように楽しそうだ。


「うむ! アーデルは儂がよく飲む酒も好きじゃったな!」


「あらあら、そんなウソをついてはいけませんよ。あの子はお酒を一滴も飲めないじゃないですか。少しのお酒で体を揺らして倒れたんですから好きなワケありません。もちろんウォルスも」


「……いや、儂が酒を飲んでいる姿が好きじゃったはずだが……」


 語尾の声が小さい。ここでの飲酒は禁止された。


(にぎやかなら別になんでもいいとは思うけど、今日くらいは普通に墓参りをしてもらおうかね。さて、私はあっちだ)


 アーデルは家の扉を開けて中に入る。オフィーリア達は準備をしているが、クリムドアだけは付いてきた。


「なんだか懐かしいね」


 そこまで広くない木で出来た家。アーデルが建てたのだろうが、建築物として見るとそこまでいいものではない。魔法を使って無理矢理建てたような家で、なぜこれで倒れないと思えるような場所もある。


 魔物除けやら簡単な認識阻害など、家自体が魔道具と言ってもいいほどだが、完全な隠蔽状態ではない。魔女アーデルの知識や魔道具を借りにここへ来る者達へのために隠蔽を緩くしていたのだろうと考察した。


 当時は気にしていなかったが、魔女アーデルは綺麗好きであったのか、家の中は整理整頓されている。もちろんアーデルも散らかし放題なんてことはなく、整理整頓をしていた。たまに研究に没頭すると汚くなるが、終わればしっかり掃除をした。


「アーデルは意外と綺麗好きだな」


「ばあさんがそうだったからね。それにばあさんも私は薬草の調合とかもするんだ。綺麗な場所で指定通りの分量を調合しないといい薬は作れないんだよ。まあ、それはいいさ、ばあさんの研究資料を調べてみようかね」


「思ったんだが……」


「ん? 何をだい?」


「魔女アーデルがどんな理由でアーデルを作ったのか知る必要があるのか? その、なんだ、嫌な理由だったら――」


「そうかもしれないけどね、ばあさんは私に良くしてくれたよ。私を作った当時がどうだったかを知りたいだけで、そのあとのことは知ってるんだ。だから別に構わないんだよ」


 色々なことを教えてくれた魔女アーデルは優しかった。そこに理由があるのか、それとも気まぐれなのかは分からないが、少なくともいい思い出しかない。


 魔女アーデルは自ら魔の森へと来た。それは人間達に不安を与えないため。もしかしたら、魔族の王を倒した時に起きた変化を抑え込むためにここまで来た可能性もある。


 魔族の王を倒してから、何があって、何を思い、何をしたのか。それは自分が知らなければいけないことだとアーデルは使命感に似た気持ちでここまで来た。


 どんなことが判明しても大丈夫。自分には仲間がいる。口に出しては言えない言葉だが、心の中でそう思うだけで不思議と勇気が湧いてくる。アーデルを深呼吸をしてから本棚にある本を取り出した。




「アーデルさん、そろそろお昼に――ずいぶんと積んでありますね。それだけで眠気が襲ってきます」


 家に入ってきたオフィーリアが家の中を見てそう言った。アーデルが使っているテーブルの上には本がいくつも積まれており、倒れるのを心配することはあっても眠くはならない。


「それは何かの呪いかい? でも、そんな時間になってたんだね。それじゃお昼にしようか」


「はい、今日は野菜たっぷりスペシャルサンドです。野菜がメインですけどそこに輝くベーコンが良い仕事をしてますよ」


「ふが……? ベーコン?」


「クリムさん……」


 本を開きながら寝ていたクリムがいきなり飛び起きた。アーデルとオフィーリアは呆れた目でクリムドアを見ていると、クリムドアが慌てた。


「実は本を読むと眠くなる呪いが……」


「その話はついさっきやったよ。ほら、いいからお昼を食べるよ」


「大丈夫ですよ、クリムさん。そういう面での評価はこれ以上は下がりませんから安心です!」


「……それはそれで悲しいのだが……」


 アーデル達が外に出ると、テーブルにはすでに準備がされていた。クッキーに飲み物に野菜たっぷりスペシャルサンド。見ただけでお腹が鳴りそうな風景だ。


 テーブルについて「いただきます」と言ってから、それぞれに食べ始めた。


 さっきまで寝ていたはずのクリムドアは、それを感じさせないほど勢いよくスペシャルサンドを食べている。


「アーデルちゃん、なにか見つかった?」


 メイディーはそう言ってから空になったアーデルのカップに紅茶を注ぐ。


「特に目新しいものはなかったね。とは言っても本や資料はまだまだあるから、午後も調べるつもりだよ」


「それなんだけど、午後で終わるものなの?」


「いや、無理だろうね。だから、午後は少し調べたら、全部亜空間に入れちまおうと思ってるよ。エルフの国へ行くまで時間がかかるみたいだから、その間は村で調べようと思ってね」


 アーデルだけなら空を飛べばすぐにここへ来ることができる。一人で毎日ここへ来てもいいのだが、村まで持ち帰り調べることにしたのだ。決して寂しいからという理由ではないと自分自身に言い訳する。


「それがいいわね、よければ私も手伝うから教会で調べてみましょう」


「助かるよ。どうも知り合いは本を見ただけで眠っちまう呪いをかけられた奴が多くてね」


「……オフィーリア?」


 何かを察したメイディーが笑顔でオフィーリアの方を見ると、オフィーリアはスペシャルサンドが喉に詰まったように、胸をどんどんと叩いている。紅茶を飲んで落ち着いたようだが、顔色が悪い。


「ち、違うんです! 大丈夫ですから! 呪いはもう解けましたから! だから腕立て伏せとか腹筋しながら本を読むという画期的な解呪方法はもういいんで! なにかあれ、王都の孤児院だとサリファ教の教えっぽく広まってるんですよ!?」


 どんな本の読み方――呪いの解呪をしたのかは想像しなくても分かるが、サリファ教って大丈夫なのかとちょっとだけアーデルは心配になった。


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