表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/160

ゴーレムの強さ

 

 蜘蛛のような恰好のパペット――時の守護者は、アーデル達を認識するとニヤリと口角を上げる。


 本物のパペットはそこまで表情豊かではない。アーデル達はアレがパペットではないとすぐさま認識した。


 悪意のある笑みが許せなかったのか、パペットは亜空間からゴーグルを取り出し装着すると高速で飛び出した。


 百キロ近い重さがありそうな巨大なハンマーを上段から一気に振り下ろす。地面が振動するほどの叩きつけだが、地面を叩いただけで時の守護者には当たらなかった。


「上です!」


 オフィーリアは自分とクリムドア、そしてグラスドを守るように結界を張りながらそう叫ぶ。


 全員が上を見ると、天井に張り付いている時の守護者がいた。八本の足が天井に突き刺さっており、逆さまでアーデル達を見ている。


 直後に六本の腕をアーデルに向かって突き出し、手のひらを開く。


「魔力弾が来ます」


 パペットがそう言うと、時の守護者の手のひらから黒い球が高速で放出された。


 アーデルはすぐさま両手をクロスさせるようにして防御の魔法陣を構築。黒い球を防いだ。


「馬鹿げた威力だね!」


 ほとんどの黒い球はアーデルの防御によって防がれているが、大量の攻撃はアーデル周辺の地面をえぐる。当たればただでは済まない威力のある攻撃が大量に降り注いでおり、アーデルは防御を解けない。


「お任せなさい!」


 コンスタンツが閉じた扇子を指揮棒のように扱うと、その先端に小さな魔法陣が浮かび上がり赤く光る。その光を時の守護者に放り投げた。


 小石程度の小さな赤い光は尾を引きながら時の守護者へ向かう。


 時の守護者はその光を一瞬見ただけで、避けようともしなかった。


 その光が当たると、そこを中心に半径一メートルほどの爆発が起きた。爆発は結界が張られているようで必要以上に爆風をまき散らさないが、普通の人間なら確実に致命傷になりそうな威力。


 だが、時の守護者には傷一つない。いまだにアーデルへ向けて黒い球を放出している。


「あのボディには魔法を完全に遮る魔法陣が使われているはずです。もっと物理的な魔法で攻撃してください」


「……それを先に言ってほしかったですわ!」


 パペットのその言葉にコンスタンツはそう言うが「物理的な魔法って何?」と少し混乱している。


「コニー! 防御に手を貸しな!」


 アーデルにそう言われたコンスタンツは魔力弾に当たらないようにアーデルに近づき、結界の魔法陣に魔力を込める。


 込める魔力に余裕ができたアーデルは両手を左右に広げる。その両手に魔法陣が浮かび上がると、周辺にあった岩や鉱石の瓦礫が大量に宙へ浮く。


 アーデルが広げた両手を時の守護者の方へ向けると、瓦礫が一斉に時の守護者に襲い掛かった。


 念動の魔法で自然に存在する物をぶつける。これが物理的な魔法。魔法で作り出したものを消すことができても、自然にあるものは消すことができない。砦で魔法が効かない鎧に硬貨をぶつけたのと同じ対処だ。


 さすがにそれは受けきれないと判断したのか、時の守護者はその場から離れる。


「……厄介だね」


 地面に降りてくると思いきや、時の守護者は背中の黒い翼をはためかせ、大空洞の中を飛んだ。しかも速い。


「あれはホーネットモードです。足が針のようになっているので刺されないように注意してください。ただ、あの足には魔法無効化の魔法陣はないはずです。頑張れば受けられます」


 パペットがハンマーを構えながら冷静に説明する。


 言われてみれば確かに蜂のような感じがする。しかも八本の足が重なり一本の巨大な針――ドリルになっていた。あの速度で攻撃を受けたら間違いなく助からない。


 アーデルがそう思った直後、時の守護者は高速でアーデルを襲う。


 アーデルは改めて結界の魔法陣を構築してから魔力を込める。コンスタンツもそれに合わせるように魔力を注いだ。


 強力な結界だったが守護者の攻撃は同程度の強度があったようで、攻撃を逸らしただけで結界にひびが入った。


(私とコニーの魔力なのに威力は同等かい……!)


「ここが狭い場所でよかったです。外だったら音速まで達しますからあんなもんじゃありません」


 自慢げにそういうパペットを横目に、さてどうしたものかとアーデルは考える。


 あの速度で移動する相手に何かをぶつけるのは難しい。それに相手は人間ではないのでいつまでも動ける。時間が経てば経つほどこちらが不利になるのは間違いないだろう。


 なんとか足を止めて、最も効果的な物理攻撃。ここではパペットのハンマーを当てるしかないとアーデルは結論付ける。


「パペット。なんとか足止めをするから、必殺の攻撃を頼むよ」


「分かりました。前に時の守護者と戦った時とは違います。色々パワーアップしましたので一撃で仕留めます。私はやればできる子」


「頼んだよ」


 とはいってもどうやって足止めをするのかは決まっていない。時の守護者は助走をつけようとしているのか、大きく旋回するように飛んでいる。


 ふと、アーデルの目に時の守護者の黒い翼が目に入った。


「あの翼は魔力の塊だね? あれがないと飛べないってことでいいのかい?」


「はい。見栄えを良くするために出力ブースターの魔力を可視化しています。あれがなくなれば飛べません」


「どうすればなくなるんだい?」


「ブースターが背中にあるので、そこへ大きな衝撃を与えれば止まるはずです」


「それを物理的にやるのは難しいね……」


「魔法でも大丈夫です。背中部分は魔法無効化を施していません。そんなことをしたらそもそも飛べなくなるので」


「なるほど。それを聞いて安心したよ」


 全身に魔法無効化の魔法陣を施せば自分も魔法が使えない。攻撃を行う腕や足、そして飛ぶために必要な背中にはそれを施していないとアーデルは認識した。


「コニー、さっきの赤い球でアイツの背中を攻撃できるかい?」


「難しい要求をしますわね……ですが、やってやりますわ! 防御は頼みますわよ!」


「そっちは任せな」


 アーデルとコンスタンツは背中合わせのように立つ。アーデルは結界の魔法陣の魔力を込め、コンスタンツは扇子を広げて魔法陣を構築した。


 扇子に描かれた魔法陣が青白く光ると九つの赤い光が浮かび上がる。


 コンスタンツはすぐさま扇子でその赤い光を払った。


 先ほどよりもスピードは遅いが、その赤い光が追尾するように時の守護者へ向かった。


 体に当たっても問題はないが、腕や足、そして背中に当たるのは避けたいと思ったのか、時の守護者はその赤い光を躱し続ける。


 攻撃をしようと思っていた矢先だったのか、時の守護者はパペットの顔でイラついた表情を見せる。


「貴族ならこれくらいの嫌がらせなど日常茶飯事ですわ! まだまだ行きますわよ!」


 コンスタンツはそう言いながらさらに赤い光を作り出す。そして先ほどと同じように扇子で払った。


 大量の赤い光が時の守護者を追尾する。


 嫌がった時の守護者は一度大空洞の奥へ向かい、赤い光を誘導してから一気に躱し、すぐさま折り返してアーデルの方へ向かった。


 赤い光が追い付かないほどの高速。すべての光を置き去りにしてアーデルへ接近する。


 アーデルは防壁の魔法に魔力を込めた。


「そこまでです」


 コンスタンツがそう言うと、時の守護者の周囲で爆発が起きた。それも大量に。直後に黒い翼が消え、地面に衝突しつつ勢いよく転がり、壁にぶつかった。


 さらには赤い光が追い付き、複数の爆発が起きる。


 誰もが不思議そうな顔をするなか、コンスタンツだけが笑みを浮かべて満足そうに頷く。


「あらあら、無色透明の魔法も混ざっていたみたいですわね?」


 赤い光の攻撃は意識させるための囮。本命は周囲に配置した不可視の魔法。その作戦が見事に決まり、時の守護者の機動力を奪った。


「やるじゃないか!」


 アーデルは念動で鉱石を動かし、時の守護者の手足を拘束する。


「パペット!」


「お任せです」


 パペットが巨大なハンマーを振りかぶりながら飛び上がる。


「ジェットハンマーを食らうといいです」


 パペットの持つハンマーが少しだけ変形する。そして叩きつける面の反対側に魔法陣が出現し、そこから爆発的に炎が噴き出した。


 その反動を利用し、拘束された時の守護者にハンマーを叩きつけた。


 軽い地震が発生するほどの衝撃。時の守護者の体は鉱石とハンマーに挟まれ、原型を留めていられないほど潰れる。


 それでも辛うじて動ける時の守護者はパペットの顔で何かを言おうと口を開くが、パペットはその顔が見えなくなるようにもう一度ハンマーで叩きのめした。


「言わなくても分かります。パペット強い、でしょう?」


 パペットはそう言って両手を上げると、その指先から紙吹雪が舞った。その紙にも「パペット強い」と書かれている。


「覚えておくといいです。ゴーレムはよりロマンがある方が強い。戦闘に特化した貴方よりも、歌って踊れて子供に好かれ――そしてお友達がいる私の方が強いということです。勉強してください」


 その言葉を認識できたかは分からないが、パペットの姿をした時の守護者は体が徐々に砂と変わり、そこには最初から何もなかったように消え去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ