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見たことがある建造物

 

「土砂崩れ?」


「ああ、どうやらビッグロックへ行くまでの道が土砂崩れで通行止めらしい」


 アーデル達がドワーフの国に付いた翌日、宿の食堂で食事をとっているとブラッドがそんな話を持ってきた。


 原因は数日前の台風。アーデル達の船もかなりの嵐にまきこまれたが、そこはアーデルの結界で事なきを得た。ただ、ドワーフの国はその台風でそこそこ被害が出ている。


 ドワーフの国はそれなりに広いが大きさでいえばアルデガロー王国くらいの大きさしかない。人間が住む大陸で比較すれば、十分の一ほど。そしてほとんどが山岳地帯である。


 ビックロックへの道は渓谷を通る形で、それ以外の道がない。現在復旧作業をしているようだが、しばらくかかりそうとのことだった。


「それじゃ私だけ飛んで行ってくるよ」


 アーデルやコンスタンツは飛行の魔法が使えるので、道がふさがっていても特に問題はない。魔道具を返してくれと言いに行くだけなので問題はないとの発言だ。


 だが、それは却下される。


「皆で行きましょうよ!」


 オフィーリアの発言にアーデル以外が頷く。


「でも、復旧を待ってたら時間がかかるじゃないか」


「まあ、待ってくれ。実は復旧作業を依頼されているだ」


 ブラッドはそう言いながら一枚の紙を取り出す。


 それは何らかの依頼書のようで「復旧を手伝ってくれたら金の鉱石を貢献度に応じて支払う」という内容だった。ご丁寧にドワーフ国を示す印が使われており、国からの依頼書であることが分かる。


 ブラッドの話ではドワーフの国は魔法使いが少ない。いたとしても魔力が少なく魔法の出力が弱いとのこと。人間の国では魔法使い数人でやるような作業もドワーフの国では数十人規模になる。


「私なら一人でも大丈夫ってことかい?」


「確認する前に依頼を受けたのは悪いと思ったが、割のいい仕事だと思ってな。どうだろう?」


「別にいいよ。どれほどの規模なのかは知らないけどそんなに時間がかかるわけでもないだろう?」


「助かる。コンスタンツも構わないか?」


「たとえ領民でなくとも困っている人がいるなら助けるのが貴族ですわ! それにドワーフさんをスカウトするときに有利になるかもしれませんし!」


「そこは思っても言わない方がいいと思うぞ?」


 そんなこんなでアーデル達は土砂崩れの現場へ向かうことになった。




 朝食を食べ終わったアーデル達はパペットが用意した馬車で道を進む。


 その馬車を亜空間から取り出したときもドワーフたちに囲まれたが、土砂崩れをどうにかするために急いでいるというと、すぐに道を開けた。


 しばらく進んでからアーデルが口を開く。


「何かするたびに集まってくるのはちょっと面倒だね」


「それだけ目立っているってことじゃないか? それは俺にもいえることなんだが……そうそう、ここではトカゲじゃなくてドラゴンと言われたぞ」


 少しだけ嬉しそうなクリムドアが満足げにそう言った。


 クリムドアは行く先々で空飛ぶトカゲと言われているので、ドラゴンと言われたのが嬉しかったのだろうとアーデルは分析する。


「そいつはよかったね……よく見たら少し太ったかい?」


「そうだな。フィーの食事が美味しいからついつい食べ過ぎ……違う違う。太ったんじゃなくて徐々に体が戻りつつあるんだよ。でも、この状況なら思っていたよりも早く元に戻れそうだ」


「その大きさの方が色々と便利なんだけどね。でかくなったら自分で飛びなよ?」


「それはそれで少し残念だな。馬車で移動するのも結構好きなんだが。とはいっても数十年は先の話だ。まだまだ大丈夫」


「ならいつ大きくなってもいいようにもっと大きな馬車を用意しますので」


 話を聞いていたパペットがそういうと、アーデルは呆れた顔になった。


「これ以上大きな馬車を作ったら道を通れないと思うよ」


「なるほど。つまり道なき道を進める馬車を作れと言うことですね?」


「この馬車で十分って意味だよ。いざとなったらクリムは屋根でいいんじゃないかい?」


 それは目立ちすぎるとか、むしろクリムドアに馬車を運んでもらうとか色々な妄想話が飛び出す。皆が楽しそうに語っているそばでクリムだけが顔を少しひきつらせているのだった。


 そんな状況が二時間ほど続いたところで土砂崩れの現場に到着した。


 何十人ものドワーフがツルハシやスコップを持って「えっほ、えっほ」と掛け声をかけながら土砂を撤去している。ただ、相当な土砂のようで結構な時間がかかりそうであった。


 いきなりアーデルの魔法で撤去するわけにもいかないので、ブラッドがここの責任者に話をつけてくると馬車を降りた。


 馬車の窓からオフィーリアが外の様子を見ていたが、徐々に視線が上の方へ向く。


「山というか絶壁というか、なんかすごいところですね」


 渓谷の川ぞいに進むような道で、しばらく前から灰色の岩が絶壁のようにそびえたっている。その一部が崩れ落ち、道や川を完全にふさいている状況だ。土砂崩れというよりも巨大な落石が道をふさいだと言った方が正しい表現だろう。


 ドワーフたちはその巨大な岩をツルハシで砕きながら撤去している。


 ブラッドが戻ってきて「頼めるか?」と尋ねるとアーデルに何でもないように頷いた。


「どうすりゃいいんだい? 破壊するのかどかすのかの二つだと思うけど」


「この巨大な岩をどかせるのか?」


「これくらいなら念動の魔法で何とかできるよ。もちろん破壊もね。でも、それだけだと上に重なっている岩が落ちてきてもっとひどいことになりそうだ。岩をどうするかはドワーフたちのほうで決めてくれないかい?」


「分かった。それは交渉してこよう。責任者のドワーフがいるから、どこをどうすればいいか判断できると思う」


 こうしてドワーフの指示のもとアーデルが岩を少しずつ破壊することになった。


 アーデルが岩を少し破壊してドワーフたちが瓦礫を撤去する、そんな状況が順調に続いたのだが、最後に微妙に判断ができない場所を指定された。


「岩のどこだい?」


「あそこの上の方なんじゃが、目立つ印がないのう」


「なら、そこまで行くから下から指示しなよ」


「そこまで行くってなんじゃ?」


 アーデルはそれには特に答えず飛行の魔法を使って飛んだ。


 ドワーフたちが驚いている状況を無視してアーデルは責任者が指したあたりへ移動する。


「ここかい?」


「え? あ、いや、もう少し左じゃ。儂の方から見て左!」


「ならここかい?」


「おお、そうじゃ! その辺りを破壊してくれ。あー待て待て、避難するからもう少し待ってくれ!」


 アーデルはドワーフたちが避難するのを見届けてから、指定された場所を魔法で破壊する。


 直後に多くの亀裂が入る。そしてこれまで破壊してきた場所と連動するように岩が分割され崩れた。その衝撃で岩の上にあった土砂がさらに崩れたが、規模としてはかなり小さい。


(面白いね。一気に破壊してたらまた大きな土砂崩れを起こしていたけど、衝撃を減らしつつ静かにやったから大丈夫だったのか。いや、それともわざと少なめの土砂崩れを起こして大きなものを防いだ?)


 どういう状況なのか分からないが、なにかの技術だろうとアーデルは感心する。


(でも、これじゃ一時的な対処でまた起きる可能性があるかもしれないね。何とかしてやりたいけど――ん?)


 対策のために何かないかと山頂に目を向けたアーデルは目を見開いた。


「なんで、あれが……」


 以前見たことがある建造物。だが、それがここに――この時代にあるわけがない。


 それは未来でクリムドアがいた神殿と同じものだった。


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