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ドワーフ国の港町

 

 王都の港を出て七日目の昼、アーデル達はドワーフの国へ到着した。


 港町の名前は「グラニアード」。


 港にはドワーフ用のやや小さめな船がいくつか停泊しているのだが、人間用、それもかなり大きめな船がやってきたことでかなりざわついていた。


 今はブラッドが船を停泊させる許可を貰っている最中で上陸はできていない。桟橋に集まってきたドワーフたちは珍しいものが好きなのか、港から少し離れているアーデルの船を分析し始めた。


 そのドワーフたちをアーデルとオフィーリアが船の甲板から眺めている。


「すごく目立ってるじゃないか」


「先触れは出したって言ってましたけど、こんな大きな船だとは思ってなかったのかもしれませんね」


「見たいだけ見ればいいけど、早く揺れない地面で眠りたいよ。あと、魚以外も食べたいね」


「ドワーフの料理は大雑把で味が濃いって言われてますけど美味しいらしいですよ」


「そりゃ夜が楽しみだ。料理はいいとして、人間用の宿はあるのかい?」


 アーデルは港ではなく、町の方へ視線を向ける。


 明らかに家のサイズが小さい。


 ドワーフは成人しても一メートル程度の身長にしかならないので、当然、建物もそのサイズに合わせたものになる。アーデルは背が高い方なので屈んでも狭いだろうと少し心配になった。


「ドワーフの国は人間の国と友好的な関係なので人間サイズの宿もあるらしいですよ」


 オフィーリアはそう言って一冊の本を取り出す。タイトルは「ドワーフ国観光案内」だ。


 それによると人間をもてなすための建物もちゃんとあった。ただ、数が少なく、地方の町、村にはない記されている。


「ドワーフ国の王都とか、観光名所と名高い採掘の町『ビッグロック』なら大丈夫だと書いてあります」


「ビッグロックね。たぶん、グラスドはそこにいるはずなんだけど」


「え? 王都じゃないんですか?」


「そっちにはいないと思うよ。世捨て人ってわけじゃないけど、あまり群れるような人物じゃないって話だ。ただ、採掘と加工だけはかなり好きらしくてね、話し出すと止まらないってウォルスが言ってたよ」


「……ウォルスさんがそんなことを言ってたんですか」


「ばあさんのことだけじゃなく、色々聞いたからね。グラスドに会えるように紹介状や手紙も書いてもらったよ――お、ブラッドが戻ってきたね」


 小舟で戻ってくるブラッドをアーデルが見つける。


 ブラッドは停泊許可をもらったジェスチャーを行うと、船員たちは声を張り上げながら船を動かすのだった。




 アーデル達はやっとの思いで宿に到着した。


 ほんの数百メートルの距離ではあるが、その間、ドワーフたちの質問攻めにあったのだ。


 主に船の造船技術のことを聞かれたのだが、アーデルたちにもそれは分からないのでブラッドにすべて任せた。


 当然ブラッドもそこまで詳しくないので、話題を変えるために食料を持ってきたから交換してほしいと伝えると、今度はドワーフたちが自前の鉱石を持ってくることになった。


 人間の国なら商人ギルドなどを通すようなことでも、ドワーフの国では関係ない。その場で物々交換が始まりそうな勢いだったのだが、さすがに邪魔なのでブラッドはパペットと船員たちを連れて船に戻り、そこで交換することになった。


 アーデル達だけは別行動で宿に向かうことになったのだが、好奇心旺盛なドワーフたちは特に遠慮することもなくアーデル達にも質問攻めをして、それを振り切ってようやく宿に着いたところだった。


 さすがに宿の中にまで入ってくることはなかったが、夜は食堂としても使っている宿らしく、多くのドワーフが来るだろうなと少しげんなりしていた。


「いらっしゃい、人間さん。ドワーフの国へようこそ!」


 恰幅のいい女性ドワーフが笑顔でアーデル達を迎える。


 年齢は分からないが、宿の主人のようなのでそれなりの年齢なのだろうとアーデル達は勝手に想像する。


 そのドワーフの女将は眉をひそめた。


「聞いていた話だともっといるんじゃなかったのかい? それに女性ばっかりじゃないか?」


「いったん船に戻って交換会を開いているよ。私達だけ先に来たんだけど泊まれるのかい?」


「ああ、そういうことか。もちろんさ。あのブラッドという人にはずいぶんと食料を分けてもらったからね、最高級のもてなしをさせてもらうよ! まずは一休みかい? 部屋の準備はできてるからすぐに案内できるよ」


「なら、そうさせて――」


「それとも酒かい!?」


 その言葉に絶句するアーデルであったが、オフィーリアが航海中に言っていたことを思い出す。


 ドワーフは無類の酒好きで人が飲む水と同じくらい飲むとのこと。勧められた酒を断っても無礼にはならないが、ちょっと寂しそうにするのが心にくるとのことだった。


「酒はいいよ。まずはひと眠りしたいんだけどね」


「そいつは残念だね。飲みたくなったらいつでも言っておくれよ!」


 本当に残念そうな顔をするドワーフの女将だったが、すぐに笑顔になってアーデルたちを部屋に案内した。


 この宿にとった部屋は二つ、アーデル、オフィーリア、パペット、コンスタンツが一緒の大部屋と、クリムドアとブラッドが一緒の部屋だ。


 この港町でも最高級の宿ということらしく、さらには宿で一番の部屋ということで内装は豪華で掃除も行き届いていた。


 それだけでもかなりの食材を渡したようだが、ブラッドはさらにそれなりの「心づけ」を渡しているようで、宿の従業員はかなりやる気になっているらしい。


 なお、船員たちも同じ宿だが、グレードを下げた部屋になっている。さすがに依頼主と同じランクでは示しがつかないので、そういった配慮もしていた。


 獣人たちは船に乗るのがいきなりだったことや人数も多いため、今日は船での待機となる。明日以降は獣人でも泊まれる宿をブラッドが見つけてくるとのことだった。


 コンスタンツは部屋の中を一通り確認してから扇子で口元を隠し、うんうんと頷く。


「ブラッドさんは優秀ですわね! それに商人がケチってはいけないということをよくわかっております。さすがわたくし御用達の商人ですわ!」


「コニーの御用達なのかい?」


「うちの領地に店を構える商人なのですから当然ですわ。それに冒険者だったころの知識や経験が豊富なので細かいところに気付いてくれるのも憎いですわね!」


 アーデルとしてはそういうものかとしか言えないが、今のところ何の問題もないどころか快適なのはブラッドのおかげなのだろうと感謝している。アーデルは野宿でも問題ないが、長い航海の後でふかふかのベッドで寝れるのはありがたい話だからだ。


「それじゃブラッドに感謝しながら少し休もうか。クリムドアはすぐに部屋に行って横になってるみたいだし」


「クリムさんはいつでも食っちゃ寝ですわね」


「魔力が戻れば強いんだろうけど今は仕方ないさ。ほらほら、そんなことよりも私たちも少し休むよ」


 アーデルの提案にオフィーリアもコンスタンツも頷いて、それぞれのベッドに大の字になって寝ころんだのだった


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