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滅亡の魔女と時渡りの竜  作者: ぺんぎん


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真打登場

 

 アーデルとコンスタンツは周辺の町や村へ飛び、領主が蓄えていた物資を分け与えた。


 本当に受け取って大丈夫なのかと心配していた領民も、コンスタンツがそこそこ知られている人物なので戸惑いはあったものの受け取った。


 またコンスタンツは直筆で「責任は全てコンスタンツが受け持つ」という旨の誓約書を書き、それを配ったというのもある。


 アーデルは感心していたが、コンスタンツ曰く、名前を売るための啓蒙活動とのことだった。


「戦後のどさくさに紛れて領地を奪いますわよ!」


 あらゆることが台無しになるようなセリフだが、コンスタンツらしいと思ったのはアーデルだけではなく、それを聞いた領民たちも同じだ。とはいえ、その顔には笑顔があった。


 空を飛べるとはいっても領地は広いので時間が掛かる。オフィーリア達が待っている町へ戻って来たのは日が落ちてからだった。


 アーデルとコンスタンツは空を飛んでいたので皆を驚かせないようにと泊まる宿の屋根の上に降りる。そこから宿の前で行われている光景を見ることにした。


 宿の前にはかがり火が焚かれており、多くの人が並んでいた。


 列の先頭ではオフィーリアが火がくべられている鍋から野菜と肉が入ったスープをよそい、それを配っている。


「はーい、一人一杯ですよー、不正なことをすると女神サリファ様から鉄拳制裁があるので気を付けてくださいねー。それと料理の提供は貴族のコンスタンツさんですー」


 オフィーリアはそう言いながら何度もスープをよそって渡していた。


 そしてパペットが作ったと思われるゴーレム達はいくつかの鍋で料理をしていた。食材を切って放り込み、塩を入れかき混ぜるというだけの単純動作しかしていないが、大量に作るためには必要なのだろう。


 パペット自身は宿の隣にある広場で食事が終わった人達に声をかけている。


「こちらはお風呂です。ゴーレムによる全自動身体洗いも実施しています。感想ください。あとパペットすごいと褒めるように」


 パペットは宿のすぐ横にある広場に仕切り用の壁をつくり、そこでお風呂のサービスをしているようだった。入口が二つあり、男性用、女性用と別れているようだった。


 ブラッドは露天を開いているようで、クリムドアはそれを手伝っている。


「ブラッド、薬はこの値段でいいのか? どう考えても安すぎるぞ?」


「物資が入ってこないところで高額設定できるわけがないだろ。今回は顔を売るだけだから赤字覚悟だ。それと薬はツケでもいいから身体の調子が悪い人を優先して売ってくれ」


「了解した」


 主に日用品を扱っているようだが、薬なども売っているようだった。こちらにも長蛇の列が作られているようで全員が忙しそうにしている。


 ただ、住民達は礼儀良く並んでおり、割り込みなどは発生していない。おそらく、列を整理している戦闘用ゴーレムが何かしらしたのだろうとアーデルは思った。


「フィーさん達はよくやってくれているみたいですわね」


 町に来たときは人っ子一人いなかったが、今はではどれだけこの町にいたんだというほどの人がいて、料理を食べてたり、お風呂に入ったりして笑顔になる者が多い。中には泣いている人もいる。


「さあ、アーデルさん、ここで真打登場ですわ。派手に登場して領民の心をわしづかみにしますわよ!」


「それは一人でやっておくれよ。それに見て来ただろう? 私はばあさんに似ているんだ。若い奴らはともかく、年寄りには受けが悪いんでね、先に部屋に戻ってるよ」


 コンスタンツと物資を届けにいった町や村でも起きたことだった。アーデルを見て怯えた人達もいる。最終的には感謝していたが、ここでも一悶着あるのは火を見るよりも明らかだ。


「つまらないことを考えているのですわね?」


「空気を読んだと言ってくれないかい?」


 コンスタンツは肩をすくめる仕草をしてから首を横に振った。


「魔女アーデル様を恐れている人がいるのは正しい認識でしょう。ですが、名前は同じでも貴方の事ではありませんし、その認識を変えていけばいいじゃありませんか。こうやっていい事をしているのですし、もっと自分のやったことを誇ればいいのです。それに文句を言う奴がいるなら魔法をぶち込んでやりますわ!」


「サリファといい、アンタといい、武力に頼りすぎじゃないかい? 嫌いじゃないけどね」


「なら――」


「でも、いいよ。せっかくの楽しい雰囲気に水を差す必要もないさ」


 アーデルはそう言って窓から宿に入ろうとした。


 そこでオフィーリアの声が聞こえた。


「食材は魔女様の弟子で名前を受け継いだアーデルさんからも提供されているので覚えておいてくださいねー。あと、この戦争を止めることにも手を貸してくれるので感謝して食べてくださーい」


 その言葉に町の人達はざわつくものの、好意的な声が上がっている。


 アーデルは窓に手をかけたまま、口を半開きでオフィーリアの方を見た。


「フィーさんは分かっておりますわね。これでお膳立てが出来ましたわ。後は派手に登場するだけですわよ!」


「あんなことを言われた後に登場なんてできるわけないだろう。ばあさんの事とか関係なく嫌だよ」


「いいから! 魔法使いなんですから派手にいきますわよ!」


「その理論はおかしいだろ」


 アーデル達がいる場所は三階建ての宿の屋根。


 そんなところで騒いでいれば当然気付く人がいる。


 皆が指をさしてそちらを見ているので、オフィーリアに見つかった。


「アーデルさん、コンスタンツさん! そんなところで遊んでないで帰ってきたならこっちに来て手伝ってくださいよ!」


「ほら、行きますわよ! 子供じゃないんだから恥ずかしがらなくてもいいでしょうに!」


「子供じゃないから恥ずかしいんだよ」


 そうは言いつつもすでに姿を見られているので、渋々ではあるが、アーデルは飛行の魔法を使ってオフィーリアの近くに着地する。


 オフィーリアは笑顔でスープをすくうレードルをアーデルとコンスタンツに渡した。


「一人一杯ですよ。キリキリ配ってくださいね」


「……私もやるのかい?」


「アーデルさんは怖くないよというアピールをしていきましょう!」


 面倒ではあるが、オフィーリア一人に任せるというのも悪い気はする。自分やコンスタンツも飛び回って色々やってきたが、オフィーリアも一人一人にスープを配るということをずっとしていたのなら相当な時間こうしている。


 アーデルは溜息が出そうになるのを堪えてから、鍋のスープをボウル型の食器によそってから目の前の老人に渡した。


 老人は涙目になってから深くお辞儀をしてから離れていく。


 それを見ていたオフィーリアはうんうんと頷いた。


 コンスタンツはレードルとオフィーリアを交互に何度も見た。


「……わたくしもやるんですの?」


「当たり前です。領民とのふれあい、それこそが領主としてやるべきことの第一歩!」


「わたくしにおまかせなさいな!」


「コンスタンツさん、それは肉が多すぎです。野菜八、肉ニの比率でよそってください」


「しかし、領主になるなら多少の贔屓は必要なのでは? 私の方に並ぶと特典がつくといったことも必要かと」


「勝負じゃないのですから公正にいきましょう。特定の人に贔屓する領主って領民からすると暴動案件ですから」


「勉強になりますわね!」


「炊き出しは色々なことを教えてくれるんですよ。かくいう私もちょっと気になる男の子を贔屓した過去がありましてね……その子は別の子と付き合い始めましたけど」


「アンタらは遊んでないで早くよそってやりなよ。待ってる人がいるんだからさ」


 アーデルはそう言ってから、慣れない手つきでよそい、スープを提供するのだった。


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