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相談

 

 先々代の王であるディグレスから「頼み」を聞いた日の夜、アーデル達は王城にある部屋に泊まることになった。


 要人などが泊まるための部屋で本来であればアーデル達が使えるような部屋ではないのだが、現状使われることもないので好きに使ってくれとディグレスが言ったからだ。


 ディグレスは身の回りの世話をするメイド達を何人か付けるとも言ったのだが、それはオフィーリアが断った。


「こういう時のメイドさんはスパイなんですよ!」


 と鼻息を荒くして言ったからだ。


 ディグレスの頼みに関して受ける受けないは保留にしてある。スパイ的なことをされて困るわけではないが、一晩考えて明日の朝に伝える予定なので、何を相談したか聞かれないようにする対処をした形だ。


 食事に関しても王族と食べるようなことはなく、使用人の食堂での食事になった。


 戦時中という事もあって料理はそこまで豪勢ではなかったが、魔族の陰謀を暴き、王を救ったという事もあって、庶民が食べられるような物ではなく、高級食材が使われていたので、全員が満足できた。


 食後は今後のことを相談することになり、全員がアーデルの泊まる部屋に集まっていた。


「なんでコンスタンツさんがいるんですか?」


 オフィーリアがうろんげな目でそう尋ねる。


 それは全員が思っていたことのようで、アーデル達もうんうんと頷いていた。


 コンスタンツは扇子を取り出して口元を隠す。そしてキッと睨むような目になった。


「いては悪いんですの!?」


「良いか悪いかで言えば悪いです」


 敵か味方かで言えば味方なのかもしれないが、この国の貴族ということで完全には信用できないし、どちらかといえば王族派だ。メイドよりも分かりやすいスパイと言えるだろう。


「私は貴方達のお目付け役に任命されたのです。とはいえ、別にディグレス様の頼みごとに関してどういう結果になっても文句は言いませんから安心なさいな。アドバイザー的な立場の者だと思ってくだされば構いませんわ」


「いえ、別にアドバイスはいらないんですけど。大体、そのアドバイスってこの国に有利になる様にするんですよね?」


「当然ですわ! これを機に役立つことを見せつけて私自らが爵位を頂きますわ!」


「貴族なんですからもうちょっと隠しましょうよ……」


 やや納得がいかないものの、とりあえずは了承した。


 この場にいるメンバーはアーデル、クリムドア、オフィーリア、ブラッド、パペット、コンスタンツの四人と一匹と一体。椅子に座ったりベッドに座ったり、皆が楽な恰好をしている。


 オフィーリアが全員に紅茶を用意してようやく準備が整う。


 アーデルが大きく息を吐いてから皆の顔を見た。


「戦場の最前線までいって戦争を止めて欲しいって言われたけど、無茶ぶりにもほどがあるだろう? 断ったって問題ないと思うんだけど、一応皆の意見も聞かせておくれよ」


 ディグレスの頼みとは戦争を止めて欲しいとの内容だ。止めるとはいっても休戦状態にして、この国は相手に賠償をするつもりであるとのことだった。


 過去に奪った土地も返す、これまでの横柄な態度も謝罪する、賠償金を相場の二倍出す等、全面的にこの国が悪いことにする。魔族が色々やっていたことも情報として相手に渡し、獣人も魔族と一緒に行動しているらしいとも伝えるらしい。


 魔族がやっていたことだけど全面的に謝るからこれ以上の戦いは止めようという話だ。


 本来であれば全面的にこちらに非があると頭を下げるつもりはないが、クリムドアからもたらされた「国が滅びる」という情報があるため、半信半疑ではあるものの、それに比べたらマシとの考えに至ったらしい。


 当然ディグレスの独断ではなく、その孫である現在の王、マーカスも同意している。


 魔族が化けていた宰相が戦力として雇った獣人は戦場で裏切る予定だったらしく、大打撃を受ける可能性があったという。それが判明したということもあり、あのままであれば前線が崩壊していた。


 とはいえ、戦力がなければ前線が崩壊するのも時間の問題。相手側からすればこのまま戦えば勝てる状況で戦いを止める理由がない。


 そこで魔女の弟子であるアーデルが力を見せつけて欲しいとのことだった。


 砦を数時間で更地にできるほどの力があるなら、戦力としては十分。それにアーデルの弟子という肩書は相当な抑止力になる。


 これ以上戦うことはお互い取って損でしかない。そう相手に思わせた上で全面的な謝罪による終戦という形にする。


 当然、これ以外にも色々と根回しをすることになるが、まずはアーデルの力を見せつけて欲しい、というのがディグレスの依頼となる。


 話を整理するために、そのあたりをアーデルが語った。


 話が終わるとパペットが右手を上げる。


「ついでに私のゴーレム部隊を投入して、強さを見せつけると言うのはどうでしょう? すごく頑張ります」


「あのね、そういう相談をしているわけじゃないんだよ。やるか、やらないかの相談なんだ」


「なら私はやる方に一票で。相手を無力化させるゴーレムを開発中ですので実験したいです」


「……パペットは最近ちょっと過激だね」


「えっへん」


「褒めちゃいないけど、まあいいよ。多数決というわけじゃないが、意見があれば聞かせてくれないか」


 アーデルはそう言ってまた皆の顔を見た。


 ブラッドが手を軽く手を上げると、全員の視線が集まった。


「戦場には知り合いの冒険者達も行ってるんだ。命を懸けて金を稼いでいるわけだから死ぬのも覚悟の上だろうが、助けられるなら助けてやりたい。できればアーデルに戦争を止めてもらいたいと思ってる」


「なるほどね」


「それにこのまま戦争が続けば、この国は確実に負ける。昔、俺を援助してくれたロレンツォ――フロストの父親のことだが、貴族の従兄弟ということで負けたときにどうなるか分からない。せっかくアーデルのおかげでフロストが助かったんだ。負けた国ということで生活は苦しくなるだろうが、命の危険がない生活をして欲しいと思う」


「ああ、フロストか……流れで師匠になっちまったんだよね」


「私の弟子でもありますわ!」


 コンスタンツが笑顔でそう言うと、アーデルは「そうだね」といい、さらに言葉を続けた。


「コンスタンツの意見も教えてくれるかい?」


「そんなもの決まっております。私がこの国の宮廷魔術師になるためには国が存続してもらいませんと。アーデルさんにはキリキリ働いてもらいたいですわ!」


「そこはアーデルさんの気持ちを考えましょうよぉ」


 オフィーリアがそう言って少しだけ非難の目を向ける。だが、コンスタンツは扇子で口元を隠してから鼻で笑った。


「恨みがあるなら晴らせばいいのですわ。でも、アーデルさんはこの国に対して何もしない。何もせずにこの国が滅べばアーデルさんの恨みが晴れるのですか?」


「……それはなってみないと分からないね。ああそう、くらいの感想しかないかもしれない」


「でしょう? だったら四の五の言わずにまずは依頼を受けて、その後に恨みを晴らせばいいのですわ!」


「結局恨みは晴らすのかい?」


「どんな形で、という事ですわ。国が滅んだところで恨みが晴れないのなら、別の形で溜飲が下がる様にすればいいだけです。貴族はそう考えますわ。被害を被ったのなら別の形で仕返しする。いちいち相手を潰したりはしません」


 それはちょっと違うんじゃないかと思いつつも、別の形というのはいい案だとアーデルは思い始めた。


「フィーはどう思うんだい?」


「私はもちろんアーデルさんに助けて欲しいです。正直、国が滅んでも別にいいんですけど、ここでアーデルさんが活躍すれば、師匠である魔女様の評価が上がるかもしれないって思ってます。もちろんアーデルさん自身の評価も」


「そうか、ばあさんの弟子である私が上手くやれば、ばあさんの評価も変わるのか……」


「まあ他国からは嫌われるかもしれませんが、サリファ教で魔女様のことは盛り上げていきますので安心ですよ! メイディー様には鳥型ゴーレムさんを使って手紙を送りましたからササッとやってくれます!」


「仕事が早いね。なら、クリムはどうだい?」


 アーデルはクリムドアを見つめる。


「俺もアーデルにはこの国を救って欲しいと思っている」


「歴史が変わっちまうけどいいのかい?」


「たぶんだが、いい方に変わるはずだ。意識を失っていたからよく分からないが、この国の王に触ったら時の守護者が出てきたのだろう?」


「ああ、そんな感じだったね」


「なら、その王が死ぬと世界が滅ぶことになる。もしくは、この国が滅ぶと世界も滅ぶという可能性が高い。まあ、きっかけの一つになるという事だと思うが」


「クリムはそういう考えなんだね。というか、全員、頼みを聞けってことか。どうしたものかね……」


 自分一人なら絶対に話を受けることはない。


 だが、クリムドアに出会い、オフィーリアに出会い、多くの人と関わってしまってからは色々と変わってしまった。


 アーデルとしては今でもこの国がばあさんに対してやったことは許せない。自分を育ててくれたばあさんを追放した国を助ける義理などない。


 ただ、コンスタンツが言ったようにこの国が第三者の手で滅んだとしても気が晴れるとは思えない。もし気が晴れるとしたら、自分が直接この国を滅ぼしたときだけだが、今のアーデルにそんなことはできない。


 アーデルはそんな風に思い、結論を出した。


「受けるしかないね。このままこの国が滅んだとしても別に構わないが面白いとも思えない。やっぱり自分の手でやらないと。どんな復讐が良いのか考える時間を稼ぐためにも助けるしかないね」


「もー、アーデルさんはツンデレを拗らせすぎですよー」


 オフィーリアは笑顔でそう言うと、アーデルは少しだけ口を尖らせた。


「うるさいね。ツンデレとかじゃなくて本当の気持ちさ。それじゃ今度は別の相談だ。どうすれば効果的に復讐できるか意見を言っておくれよ」


 アーデルがそう言うと皆が笑った。そして夜遅くまでああでもないこうでもないと復讐の話が盛り上がるのだった。


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