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存在しない魂

 

 アーデルは騎士達の鎧が集まってできた巨人と対峙する。


 すでに攻撃用の魔法陣は配置済みであり、いつでも集中砲火を浴びせることはできるが、まずは状況を確認する。


 クリムドアの意識がないため、確実な答え合わせはできないが、登場の仕方といい、話の内容といい、相手は間違いなく時の守護者。しかも、歴史は戻らない、滅亡に向かうことが正しい歴史だ、などと言い出した。


 アーデルとしてはたとえ相手が神だろうとぶっ潰したい衝動に駆られている。


 正直、世界が滅亡しようと関係はないが、それを先代のアーデルがやったとなるなら話は別だ。


(世界が滅亡するほど魔道具を使ったのは、ばあさんじゃない。それを勝手にばあさんのせいにされちゃたまらないよ)


 未来から来たクリムドアの話では、世界が滅亡する原因となったのは魔道具を作ったアーデルの方だった。たしかに作った方にも問題はあるだろうが、世界が滅亡するほどの魔道具を使ったのはアーデル以外の誰かだ。


 クリムドアに会った頃はどう思われたとしてもばあさんなら気にしないだろうと思っていたが、最近は考えが変わった。それは未来でアーデルが英雄と呼ばれていない話を聞いたからだろう。


 名誉を受けるべき人物が不当に評価されているのは、本人以上にアーデルが許せない。そのためにも魔道具を回収して、世界の滅亡を回避する必要がある。


 まずはこの時の守護者を倒し、残りの魔道具も回収していく。それが結果的にアーデルの汚名をそそぐことになり、滅亡も回避されることになる。これが今のアーデルの目的だ。


 とはいえ、時の守護者は先ほどの魔族や獣人とは比べ物にならない程の強さを持つ。一対一なら負けないと思っているが、知り合い達を守れなかった時点でたとえ勝ったとしても負けだ。


 アーデルはこの場にいる人間で守るべき相手とどうでもいい相手に分けた。


 クリムドアとオフィーリア。この二人は間違いなく助けなくてはならない。コンスタンツとアルバッハは本人達も魔法が使えるのでアーデル自身が守る必要はないと考えた。


 そして魔族と獣人、そして倒れている騎士達はどうでもいい。問題はすぐそばに倒れている王らしき人物だ。


 見た限りアーデルよりも少しだけ歳が上くらいでかなりの若さといえるだろう。どう考えても先代のアーデルを追放した王ではなく、その息子としても若すぎる。おそらくアーデルを追放した王の孫といったところだ。


 その王がここで死んでしまったとしてもアーデル個人はどうでもいいと思っているが、そうなったときのリスクが高いような気がする。


 コンスタンツやアルバッハがいるので、死んだとしてもアーデルのせいではないと説明してくれそうだが、面倒なことに巻き込まれる可能性は高い。


 それに疑問がある。


 アーデルがこの王に触った瞬間に時の守護者がやって来た。以前、クリムドアは歴史が確定しそうなときに時の守護者が現れると言っていた。


 そして時の守護者は世界が滅亡する歴史を正しいとしている。


 それを考えると、この王が死ぬと世界が滅亡する未来が確定するのではないか。アーデルはそう思い始めた。


 そもそもこの国は亡ぶことが前提。おそらく宰相に化けていた魔族がそういう風に仕向けていた。


 そしてアーデルが倒れている王に触れたことで王が生き残る未来が確定しそうだった。


 だから時の守護者が出てきた。


 あくまでも憶測だが、アーデルは瞬間的にそこまで考えてから王を守ることにした。


「フィー、そこの王みたいな奴を守ってくれないかい?」


「が、頑張りますけど、私の結界はそこまで強くないですよ……?」


「あいつが持っている剣の塊には獣人が持っていた剣が含まれているから、結界なんて意味はないよ」


「……ダメじゃないですか! なら、アーデルさんが瞬殺してください! 私は逃げ回りますから!」


「任せな」


 アーデルはオフィーリア王を背負ってからさらにクリムドアを抱え込むのを確認してから、口を開く。


「コンスタンツ、アルバッハ、アンタらは自分の身は自分で守りな」


「その前に! これはなんなんですの!?」


「時の守護者って奴だが、それは私も知りたいね……話ができるなら自己紹介でもするかい?」


 アーデルは挑発的な笑みをしながら鎧の塊にそう言ったが、相手はだんまりだ。ただ、眼らしき青い炎が揺らぎ、ゆっくりと持っている巨大な剣の塊を振り上げた。


 あの中には獣人が使っていた魔法を無効化する剣も含まれている。それがどのように作用するかは不明だが、オフィーリアにも忠告した通り、結界が意味をなさない可能性がある。


 結界で守るよりも、相手に攻撃させないようにするのが最善。アーデルはそう考えて、展開していた魔法陣を発動させた。


 鎧の塊に対して何が効果的なのかはまだ不明だが、少なくとも火はあまり効果がないだろう。超高温で鎧を溶かすならできる可能性もあるが、そんな魔法陣を組む暇はない。


 仕方がないので物理的な影響が強い魔法、土属性の魔法を多用した。石つぶてやらせん状の円錐、鎧を衝撃で破壊するような魔法が鎧の塊に向かう。


 剣の塊を振り上げていた鎧は、多少へこむものの、それをものともせずにアーデルを潰すがごとく剣の塊を振り下ろした。


 アーデルは舌打ちしつつ、後方へ飛ぶ。


 玉座の間が振動するほどの衝撃があった後、地震のように部屋が揺れて床にへこみができた。


「馬鹿力だね!」


 アーデルはそう言うと、さらに魔法陣を構築した。


 複雑な魔法陣を作る時間があるなら魔族の王を殺した魔法を使うこともできるが、結界を張れないこの状況でそれは難しい。そして、いままで時の守護者を倒してきた高濃度の魔力をぶつける魔法も今回は難しい。


 鎧の塊は騎士達の鎧を全て取り込んでいる。ミスリルやオリハルコンなど魔法に対して高い耐久力を持つ金属が使われているので、魔力の塊のような純粋な魔法攻撃は効果が低い可能性が高い。


 即座に魔法陣の構築が可能、さらには物理的な衝撃を与える魔法で対応するべきだと、アーデルはいくつもの魔法陣を作り出す。


 そして鎧の塊の全体を攻撃しつつ、気づかれないように足元の攻撃だけ威力を上げていた。


 鎧の塊はその大きさから動きはやや鈍い。わざわざ人間と同じ形をしているが、それならば足や膝の負担は重さで相当なものになる。足さえ奪えば守りやすく攻めやすい。そう考えての攻撃だ。


 攻撃を躱しながら相手の足を気づかれないように攻撃する。アーデルは飛行の魔法を使い、玉座の間を飛び回りながら繰り返した。


 それが五分ほど続くとアーデルは違和感に気付く。


(おかしいね、魔法は当たっているのに動きが変わらない? むしろ速くなっているような……?)


 魔法とはいえ、土属性の物理的な攻撃を多用している。鎧がへこんでいるのでダメージはあるはずだが、それが関係ないように動いている。


(それに立ち位置を少しずつずらしている? 私に攻撃しているが、随分とフィー達の方へ移動したようだが……まさか、狙いはそっちかい?)


 アーデルは色々考えてアルバッハとコンスタンツに協力を要請することにした。


 アーデルは手を貸してもらえるかどうか微妙だと思ったが、オフィーリアが王を守っているなら助けてくれるはずだと確信している。


 戦いながらアーデルはアルバッハとコンスタンツの近くに魔法陣を構築した。とはいえ、それは魔法を発動させるためではなく、魔法の文字を見せるためだ。一筆書きのような文字の魔法陣を構築して二人が認識出るようにしたのだ。


 アルバッハには、鎧が王を狙っているので強力な結界で守れ、コンスタンツには自身ができる最強の魔法を使え、とそれぞれ伝える。


 普通とは違う魔法陣の使い方に二人は驚いたが、鎧にばれないように平静を装っている。そして二人は微かに頷いた。


 アーデルはそれを確認してからさらに考える。


 問題になるのは鎧の塊が持っている巨大な剣の塊、その中でも獣人が持っている魔法を無効化する剣だ。あれがある限り結界が意味をなさない。


(足への攻撃はやめだ。あの剣の塊から魔法剣だけを引き離す。あとは二人に頼ろうかね)


 アルバッハもコンスタンツも味方というわけではない。パペットやブラッドよりも信頼度は落ちるが、国の王が人質になっているなら本気でやるだろうと期待している。


 ならば、とアーデルは少しだけ複雑な魔法陣を構築した。魔力の消費も激しくなるが、やるべきだと魔法陣を発動させる。


「行くよ!」


 アーデルが放った魔法は空間を斬る魔法。瞬時に剣の塊を真っ二つに斬ると、魔法剣が含まれている上部が音を立てて床に落ちた。


 それが合図になった。アルバッハは構築していた魔法を使う。


 アーデルとしてはオフィーリア達に強力な結界を張って欲しかったのだが、アルバッハは鎧の塊を覆うような結界を張った。


 その結界はかなり強力でアーデルでも破壊するのは時間が掛かるだろうと思えるほどだ。


 そして次にコンスタンツが魔法を発動させる。


 アーデルは構築された魔法陣を見て眉をひそめた。


 その魔法陣は鎧の塊の足元に展開されたのだが、ばれないように仕込んでいたのだろう。それはそれでアーデルが知りたい情報ではあるが、そんなことよりも問題は魔法陣の方だ。


 効果が薄いと思っていた炎の魔法陣なのだ。ただし、火力重視で術者にも制御不可能なほどの魔法。さらには魔力を詰め込みすぎで信じられない程の高熱を出すところまでは解析できた。


「馬鹿弟子よ! 後のことは考えるな! 一気にやれ!」


「当然ですわ!」


 コンスタンツがそう言うと、アルバッハが作った結界の中が赤に染まる。アルバッハの方も必死で結界を維持しているほどだ。


(あの鎧にも効きそうなほどの超高熱魔法だね。その一回でコンスタンツの魔力は空っぽになるだろうけど)


 さすがにこれでは原型ととどめておくことはできないだろうとアーデルが思ったのも束の間、結界を破壊して外に出てきたモノがいた。


 鎧の塊が二回りは小さくなったなにかだ。成人男性よりも少し小さいくらいだが、鎧はなくなりマグマでできた人間のようにも見える。


 鎧は脱ぎ捨てたのか、それとも溶けた鎧を取り込んだのか分からないが、まだ時の守護者と呼ばれる者なのだとアーデルは結論付ける。


 結界が破壊されたことで中の熱気が玉座の間の温度を上げた。さらには時の守護者自身がマグマのようでかなり熱く、近寄るのも困難になっている。


 そして時の守護者はアーデルには目もくれず、オフィーリアがいる方へと駆けだした。鎧の塊だったとは違い、今度はかなり速い。


「ぎゃー!」


 オフィーリアが叫びながら逃げようとするが、クリムドアを抱き、背中には自分よりも大きい王がいる。歩くよりも遅いのは当然だ。


「アーデルさん! 助けて!」


「当たり前のことを言うんじゃないよ」


 アーデルがそう言った瞬間、時の守護者の動きが鈍くなった。


 アーデルはコンスタンツがやったように魔法陣を床に構築していた。それは氷の魔法。時の守護者は足元から凍り付き、それが徐々に下半身から上半身へと向かう。


 鎧が無くなっている時点で通常の魔法が通る。そして熱には冷却。そう考えての魔法だ。


 徐々に凍り付く中、時の守護者は顔だけをアーデルの方へ向けた。目の部分にある青白い炎が大きく揺らぐ。


「存在しない魂よ。貴様が何者であれ、次はこうはいかんぞ……」


「なんだって?」


 アーデルは眉間にしわを寄せて時の守護者を見たが、その瞬間に全身が凍り付き、その直後に乾いた音を立てて崩れ去った。


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