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王国の事情

 

 アーデル達は王都まであと半日というところまでやってきた。


 結界があれば特に気にする必要はないが、多少は開けた場所がいいと木が数本生えたような場所で野営の準備を始めた。


 明日、早朝に出発すれば昼前には王都へ到着する。かなりの強行軍であったが、アーデルの魔法やオフィーリアの料理、パペットが用意したゴーレムのおかげで特に疲れはない。むしろ、普通の宿に泊まるよりも快適だったといえるだろう。


 貴族であるコンスタンツも特に泣き言を言うことはなくアーデル達に付いてきた。


 とはいえ、文句は言う。


「急いでくださるのはありがたいのですけど、わたくしがいることを考慮してもらいたいですわね! 魔法による浄化だけでなく、お風呂くらい入りたいですわ!」


 さすがにアーデル達でも野宿で風呂を用意することはない。やろうと思えば風呂すら作れるだろうが、普段はタオルで身体を拭くか、魔法による浄化だけだ。


 そんな文句を言うコンスタンツに対してアーデルは冷ややかな視線を送る。


「一緒に王都へ行くのはね、アンタの顔を立ててやってるんだ。別にその辺に置いて行ったっていいんだよ?」


 コンスタンツは空を飛べる。一人なら一日で王都まで行けるのだ。だが、アーデル達が王都へ来ると分かっていても、一人で戻ってしまえば何を言われるか分からない。コンスタンツはそのために一緒にいるのだとアーデル達に何度も説明していた。


 とはいえ、それはコンスタンツの事情でアーデル達には全く関係がない。いつも文句は言うが、最後にコンスタンツが「ぐぬぬ」と言って終わる。


「ぐぬぬ……まあ、いいですわ。それで今日の夕食はなんですの? 揚げ物やお肉が食べたいですわね」


「一応お客様扱いですけど、そういうことを言えちゃうのが貴族様ですよね。今日の夕食はサリファ様も大好き、カレーです。明日は王都に到着するのでトッピングは思いのままですよ!」


 オフィーリアがそう言いながら料理の準備を始める。アーデルが亜空間から取り出した野菜や肉類を鼻歌混じりで手際よく切り始めた。


 夕食がカレーだと知ったコンスタンツは笑顔で頷いた。


「わたくしも好きですわ! ……なんですの? そんなに見つめてもわたくしは料理などしたことありませんから手伝えませんわよ? 魔法で食材を粉砕するなどなら可能ですが」


「見てたのはそういう意味じゃないんですけどね」


「では、なんです?」


「コンスタンツさんは貴族っぽくないなって」


「ああ、そういう。以前にも少し言いましたが、わたくしは領地を持たない小さな貴族、しかもその娘でしかありません。一応貴族としての教育は受けていますが、ランク的には下の下。ワイルドさが売りですわ!」


 それを聞いたオフィーリアは複雑そうな顔をするが、そのまま料理を続けた。


 逆に気になり始めたのはアーデルの方だ。


 アーデル達はクリムドアから未来の話を聞いている。それはこの国が滅ぶということ。コンスタンツも貴族である以上、なんらかの影響を受ける。


 友達でもなんでもなく、知り合い以下の関係ではあるが、数日寝食を共にした上に、フロストの薬が出来るまで待つなどそこまで悪い奴には思えない。


 なのでアーデルは話を振った。


「コンスタンツはこの戦争をどう思ってるんだい?」


「なんです、いきなり?」


「詳しくは知らないが、この戦争は王族や貴族が周辺国を脅して領地を奪ったことから始まっているって聞いたんだ。領地を持っていいないアンタはそんな奴らをどう思っているのかと」


「ああ、そういう事ですか……」


 コンスタンツは腕を組んで目をつぶる。そして眉間にしわが寄ったと思ったらカッと目を見開いた。


「王族、貴族としてあるまじき行為ですわね! そういう輩は痛い目に合えばいいんですわ!」


「アンタでもそう思うのかい?」


「それはもちろん。ただ、先ほどアーデルさんが言ったことが正しければ、という条件が付きますが」


「なにか間違いがあったかい?」


「王族や貴族が周辺国を脅して領地を奪った、という部分ですわね」


「……私はそう聞いたけどね?」


「結果的にアーデル様という魔女様を後ろ盾にして周辺国へ脅しをかけたのは間違いありませんわね。領地を奪ったというのも正しいですわね」


「なら合ってるじゃないか」


 コンスタンツは首を横に振る。


「実際にそういう貴族もいたとは思いますが、大半の貴族、ましてや王族は不本意だったと思いますわ」


「ああ? 本心じゃやりたくなかったって言ってるのかい? ばあさんの名前まで出して脅したくせに何を言ってんだい」


 アーデルの言葉には怒気が含まれている。


 オフィーリアは料理をしながらアワアワしているが、クリムドアやパペットは状況が分からず不思議そうにアーデルを見ているだけだ。


 そしてコンスタンツはアーデルが怒っているのを分かっているが視線を外さない。


「これから説明いたしますから、少し心を落ち着けなさいな」


 アーデルはむすっとした顔で腕を組んでいるが、そのままで深呼吸をして少しだけ落ち着きを取り戻してた。


 コンスタンツはそれを見て、改めて口を開く。


「これはあくまでもお父様が言っていた話ですが、魔女様の名前を出してまで周辺国を脅さなければ国が危なかったという事なのです」


「国が危なかった?」


「言っておきますが、攻め込まれるとかそういう話ではありません。魔族の王を倒した後、やらなければいけないのは復興ですわ。各地で魔族達が暴れた痕がどこにもありましたから」


 そのあたりの話はある程度知っているのでアーデルは頷いた。


「ですが、どの国も物資が足りない。国の垣根を超えてお互いが協力し合うしかなかったのですが、この国だけは除外されたのですわ」


「除外? なんでだい?」


「この国にアーデル様がいるからですわね」


「ばあさんが……?」


「嫌味、嫉妬、恐怖。どんな感情だったのかは分かりませんが、簡単に言えば『魔族の王を倒した魔女がいるんだから支援なんか必要ない』という感じだったらしいですわ」


「なんだいそりゃ?」


「魔族の王を倒した魔女様は色々なところから危険視されていたそうです。そして他国からも魔族の王を倒すために何人もの英雄を送り出していた。ですが、実際に魔族の王を倒したのは四英雄である魔女様。手柄を取られた意趣返しみたいなものもあったでしょう」


「……くだらない話だね」


「まったくですわ。とはいえ、そんなことで他国からの支援を受けられないとなれば、この国の国民が苦しむことになる。今は裕福な国になりましたが、当時は全国民がその日の食事にも困るほどだったらしいので」


「だから周辺国を脅して支援を――食料を奪ったってことかい?」


「そうですわね。まあ、一部の勘違いした貴族はそれをいい事にやりたい放題だったらしいですわ。わたくしの祖父もその関係で領地が縮小し、最終的には失ったようですから」


 コンスタンツがそこまで言うと、アーデルは眉間にしわを寄せた。


 裏を取ったわけではないがあり得る話だからだ。そして大元の原因は先代のアーデルになる可能性が高い。


「言っておきますが――」


 コンスタンツがそう言ってアーデルを見つめる。


「魔女様はなんの関係もありませんわ」


「……なんだって?」


「何を落ち込んでいるのかは分かりませんが、アーデル様は魔族の王を討ちとった世界最高の魔女。どちらかといえば、王族や貴族にいいように扱われてしまった被害者なので、魔女様は、全然、まったく、これっぽっちも、悪くありませんわ!」


 コンスタンツはそう言うと、右手で勢い良く扇子を開きながら掲げ、その後ゆっくりと口元へ持っていく。そして口元を隠しながら、流し目でアーデルへ視線を送った。


「なので弟子であるあなたは胸を張っていればいいんですわ!」


 その言葉にアーデルはポカンとしていたが、数秒後には少しだけ笑った。


「別に落ち込んじゃいないさ。だけど、コンスタンツの言う通りだね」


 アーデルがそう言うと、オフィーリアもそれに追従する。


「コンスタンツさんはいい事を言いますね!」


「当然です。そして庶民を元気づけるのも貴族の役目ですわ!」


「それは初耳ですけど、感動したのでコンスタンツさんからトッピングを選んでいいですよ。早い者勝ちです」


「ならコロッケを。ハーフサイズではなく、丸ごと一個所望しますわ!」


 その言葉にクリムドアが「横暴だ!」と言ったが、コンスタンツは引かなかった。


 アーデルはそれを見ながら「なんだかねぇ」と思いつつ、自分はなんのトッピングにしようかと選び始めるのだった。


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