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王都への出発と神の話

 

「それじゃお師匠様、時間が空いたらすぐ来てね」


「しばらくは忙しいんだけどね」


「分かってるから大丈夫。でも、鳥ゴーレムさんでお手紙はたくさん寄越して。お返事いっぱい書くから」


「……まあ、忙しくても手紙くらいならちゃんと出すから安心しな」


 王都へ向かう日の朝、フロストは執事達と一緒に町の外までアーデル達を見送りに来ていた。


 昨日は町で買い出しという散策をして、フロスト曰く、夢のような一日だったとのことだ。そのせいか、一緒に王都へ行きたい等のわがままを言うことはなかった。


 とはいえ、色々と条件はある。


 パペットが用意した鳥ゴーレムを使って手紙のやり取りをすることになった。提案したのはパペットだ。


 アーデル達の空気を読んだということではなく、色々なゴーレムのテストデータが欲しいということでパペットが用意した。


 もともとあった熊ゴーレムを動けるように改良し、ほかに馬ゴーレムや護衛用の背が低い兵士型ゴーレムも三体準備してフロストの命令を聞くようにしてあった。


「私に寂しいという感情は分かりませんが、これだけあればにぎやかなのでは? ちなみに兵士型のゴーレムはラッパで演奏します。私共々褒めていいですよ?」


 必要かどうか分からない機能も付いているが、ゴーレム達の防衛力や乗り物としての性能からすると相当なものになっている。


 コンスタンツあたりは「一体くださいな!」と言っているほどだ。フロストもパペットも渡さなかったが。


 そのコンスタンツは、以前ダンジョンで逃げ出した魔法使いの老人を捕まえてあったようで、冒険者ギルドから報奨金を受け取った。


 だが、その報奨金を気前よくフロストの執事に全部渡したのだ。


「お世話になったお礼ですわ!」


「あの、コンスタンツ様、一文無しだったのでは? 旅費が必要になるかと――」


「アーデル達に世話になるから問題ありませんわ!」


 ここにいる全員が初耳だったが、否定したところでどうにもならないと早々に諦めた。なぜ連行しようとしている相手の面倒をみなければならないのか誰も答えられないが、謎の貴族理論で反撃されるのが目に見えているからだ。


 執事だけは渡された袋からせめて旅費だけで返そうと頑張っているが、誰も受け取らないので困っている。そして最終的には諦めた。


 そんなこともあったがようやく出発の時間になった。


 パペットが亜空間から取り出した馬車に全員が乗り込む。


 こちらも改良されていて、屋根付き、窓付き、扉付きの貴族が乗るような馬車となっていた。それを馬ゴーレムが引く形だ。


 全員が乗り込んだ後、アーデルは窓から顔を出してフロストに微笑んだ。


「それじゃ元気で。でも、フロスト、私の弟子を名乗るならちゃんと勉強しなよ?」


「うん。大丈夫、最強の魔女の弟子として世界デビューするまでにいっぱい勉強する」


「フロストさん! 貴方はこのわたくし、コンスタンツの弟子でもあるのだから最強の宮廷魔術師の弟子と――ちょ、押さないでくださいまし!」


 窓から強引に顔を出そうとしたコンスタンツの顔をアーデルが腕力で戻す。


「頑張んなよ。私も頑張るから――何すんだい、狭いんだから挨拶は順番に――」


 今度はアーデルのすぐ横からオフィーリア達が顔を出す。


「フロストちゃん! サリファ教はいつでも待ってますよ! いい教えがいっぱいありますからぜひ入信してくださいね!」


「ゴーレム達を大事にしてください。そうしないと攻撃しますから」


「何度も言っているが俺はトカゲじゃなくてドラゴンだぞ。尻尾を切ろうとするのはダメだ」


 アーデル達の言葉にフロストは笑顔で「うん」と頷いた。


 それを見計らったのか、馬ゴーレムが自動で動き出して馬車を前進させた。狭い窓からアーデル達が乗り出しフロスト達に手を振る。


 フロスト達やアーデル達はお互いが見えなくなるまで手を振り続けるのだった。




 その日の夜。


 野宿の準備が終わったアーデル達は今後のことを話し合っていた。


 最初はフロストと会えなくなって寂しいとか、かわいかったとか、オフィーリアが色々言っていたが、それもようやく終わり本題に入る。


 ただ、その前に、なぜ町の宿に泊まらないのかと文句を言っているコンスタンツをアーデルが結界の中に閉じ込め、音も遮断した。これでコンスタンツには何も聞こえない状態になる。


 オフィーリアが焚き火に枯れた小枝を入れながらアーデルの方を見た。


「コンスタンツさんが言うのももっともだと思いますけど、どうして野営を?」


 本来なら数時間前に通過した町に泊まる方が安全だったのだが、アーデルはすぐにでも王都へ行くと言って町には寄らずに移動した。距離的には半日ほど稼げたので、この調子で進めば、王都へ予定よりも早く着く。


「とっととやることをやってウォルスがいるという戦場へ行きたいんだよ」


「ウォルス様ですか……つまり殴りに行くと?」


「そのつもりだよ。アイツはばあさんを粗末に扱った。そして今は勝手に死のうとしている。まあ、私が殴るのも勝手な話ではあるんだけど、アイツの口から謝罪の言葉を聞くか、私がぶん殴らないと、ばあさんが成仏できないだろうからね」


「ということは、アーデルさんもとうとうサリファ教の信者になったという事ですね?」


「なってないよ。強くなってぶっ飛ばせというのは共感できるけどね」


「サリファ様は武闘派ですからね!」


「いつも思うんだけど本当に女神なんだろうね?」


 この世界には多くの神がいる。クリムドアが言うには本物の神は三柱だけで、残りは亜神で正確には神ではない。亜神であっても女神と言えば慈悲深いというイメージがあるが、サリファからはそれが感じられない。


「もう、当たり前じゃないですか。クリムさんも言ってくださいよ」


 いきなり話を振られたクリムドアは焚き火で熱せられている鍋を見ていたが「うん?」と言ってオフィーリアへ視線を向けた。


「サリファが女神かどうか? ああ、間違いなく女性の神だな。慈愛とかそういうイメージはないが」


「それは宣戦布告ですか! 今日の夕飯がどうなってもいいってことですね! 具を野菜だけにしますよ!」


「いや、それは困るが。それに他の神にサリファのことを聞くと、苦笑いするくらいの女神だったらしいぞ。ただ――」


 オフィーリアが鍋をかき混ぜる調理器具を持ったままクリムドアを凝視している。


 変なことを言ったらかなりヤバいことになりそうだと思いつつもクリムドアは続けた。


「女神サリファを悪く言う奴はいなかったらしい。慈愛というイメージがないだけで良い神だったんだろうな」


「……まあいいでしょう。でも、過去形で言うのはどうかと思いますけどね!」


「たとえ亡くなっていたとしてもサリファは多くの言葉を残して人に道を示した。それで十分じゃないか」


「そうかもしれませんけどー。一度でいいからサリファ様にお会いしたかったなぁ――あれ、もしかしてサリファ様からの信託って嘘ってことですか? 聖都では聖女様達がそういう儀式をやってるんですけど?」


 サリファ教の総本山である聖都では年に一度、信託の儀という儀式が行われる。


 信者の中でも聖女と呼ばれる者達だけが、その信託を受けることができる。そういうこともあり、聖女になるというのは大変名誉なことであった。


「サリファの言葉というのは嘘だな」


「そんなぁ。私、別の世界では聖女だったのに……!」


「いや、フィーの場合はアーデルと戦いを繰り広げた武闘派聖女だったから信託の儀はやっていないはずだぞ。それはともかく、サリファ以外にも二柱の創造神がいる。一柱は堕天して今は行方不明だが、一柱はいまでも神の座でこの世界を見守っているはずだ。サリファの代わりに信託を与えている可能性はある」


「そういうのもあるんですか」


「神はこの世界に手を出せない。だが、言葉を伝えるくらいならなんとかなるからな。サリファに代わって世界が悪い方へ行かないように言葉を送っている可能性はある」


 クリムドアの言葉にオフィーリアは首を傾げた。そしてすぐに右手で左の手のひらをポンと叩く。


「ああ、それ、ダンジョンでも言ってましたよね? 神や亜神は強すぎるからこの世界に手を出せないとかなんとか」


「覚えていたか。まあ、その通りだ」


「それはどういうことなんだい?」


 黙ってやり取りを聞いていたアーデルもこの話だけには食いついた。


 クリムドアは皆を見渡してから頷く。


「簡単な話だ。神や亜神は我々とは比べ物にならない力を持っている。この世界に直接手を出せば、天変地異が起きるほどなんだ」


 アーデルとオフィーリアは目を見開いている。パペットは首を傾げており、コンスタンツはいまだに結界を解こうと魔法陣を解析している。


「神が昔、直接この世界に手を出した結果、大きな問題が起きた。歴史に名前を残すような大規模な自然災害、あれは神の仕業だ」


 最近とはいっても数百年単位だが、霊峰の大噴火や魔族領の大地震、クリムドアの話では神の仕業だという。


 アーデルやパペットはその二つを知らなかったが、オフィーリアは知っていたようでかなり驚いていた。


「で、でも、神様なんですからそこまでしなくても良かったのでは……?」


「別段やりたくてやったわけじゃない。そうだな……フィーは花壇に水を上げることがあるか?」


「もちろんありますけど、なんの話です?」


「フィーにとっては大したことがない作業だろうが、その花壇に巣を作っていた蟻達にとってはどうだろう?」


「え? 蟻ですか?」


「花壇への水やりが、蟻にとっては大雨、そして大洪水だ。神と人にはそれくらいの差がある。神がくしゃみをすれば暴風雨、寝返りをうてば大地震、怒れば雷が大地に降り注ぐ、そんな感じだと思って欲しい」


 なので神や亜神はこの世界に直接的に干渉することはできない。


 手を出してしまえば世界を破壊しかねないからだ。そして人が滅んでしまえば信仰や畏怖がなくなり、亜神は存在できなくなる。たとえ空いた神の座を狙っていたとしても世界を滅ぼしてしまっては意味がない。


「なるほど。そういうことだったんですね」


「だから亜神達はダンジョンや魔物を使って魔力を集める地道な活動をしているんだ。いきなりダンジョンを大きくするとか形を変えるのは世界への影響が大きいからやらないようにしているわけだな。そして魔力を溜めて、いつかは神の座と至る」


「なかなか面白い話ですね。スケールが大きすぎてちょっと分からないところもありますけど。あ、どうやらシチューが出来たみたいですよ。ちょうどいいのでご飯にしましょう!」


 オフィーリアはそう言いながらシチューを皿によそっている。


 ようやくできた食事にクリムドアは嬉しそうな顔になり、コンスタンツは自力で結界を抜け出した。パペットは「全自動かき混ぜゴーレム」と呟いている。


 そして話を聞くだけだったアーデルはあまり神とは関わりたくないなと思いながらシチューを食べるのだった。


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