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スカウト

 

 アーデル達はダンジョンを奥へと進んでいる。


 ギルドで聞いた話では、このダンジョンは五階層までで冒険者ギルドの話では難易度は低いとのこと。難易度が高い遺跡――ダンジョンはいまだに踏破されていないようなものもあり、五十階層以上あるとも言われている。


 クリムドアの話では巨大なダンジョンほど亜神の力も強く、このダンジョンはまだ出来たばかりなのだろうとのことだった。それでも百年程は経っているとも言っていた。


 そんな状況でアーデルやパペットが魔物相手に遅れを取るわけがない。なので探索中ではあるが、オフィーリアは女神サリファが亡くなっていると話したクリムドアにあれやこれやと話を聞いていた。


 オフィーリアは一度深呼吸をしてからクリムドアを相当な目力で見つめた。


「もう一度聞きます。発言には命を懸けてください」


「なんでだ?」


「女神サリファ様が亡くなっているというのはどういう意味ですか?」


「意味も何もそのままだ。女神サリファは亡くなっている――首を絞めないでくれ」


「女神様が死ぬわけないでしょうが! しかもよりによってサリファ様が亡くなったなんて!」


「俺もポロッと言ってしまったのは悪かったが、いまさら撤回しても意味はないだろう。フィーにとっては酷な話だとは思うが、間違いなく女神サリファは亡くなっている。とはいってもこれは竜の神である俺の育ての親から聞いた話だ」


「なら全部吐いてください! 知ってること全部!」


「待ちな。もうちょっと緊張感をもっておくれよ。さっきからパペット達ばかり戦ってるじゃないか」


 アーデルは呆れた顔で二人の会話に割り込んだ。


 近くではパペットが巨大なハンマーを振り回して昆虫型の魔物を倒している。他にも自律型の戦闘ゴーレムが三体ほどいて、それがアーデル達に近づく魔物を倒していた。


 周囲に魔物がいなくなってからパペットが親指を立ててアーデルに見せた。


「戦闘情報が取れていい感じです。戦闘は私達にお任せください。でも、もう少し固い相手の方がいいのでもっと奥へ行きましょう」


「まあ、それでいいならいいけど、フィーもクリムも話をするならダンジョンを出た後にしな。つまんないことだとは言わないけど、危険な場所だからね」


 オフィーリアは「うぐ」と言ってから頭を下げた。


「そうですよね……ちょっと頭に血が上っていたかも。ごめんなさい」


「いや、俺も悪かった。余計なことを言ってしまったな。帰ったら知ってることを全部話すからまずはやることをやろう」


 戦闘ということだけでいえば、オフィーリアもクリムドアも大した戦力にはならない。


 ただ、周囲を警戒しているかどうかは重要だ。奇襲をされても問題ないレベルではあるがダンジョンでは何が起きるか分からない。それは死に直結する場合もある。


 それを理解したのか、オフィーリアもクリムドアも先ほどまでとは違って周囲に気を配っている。


 アーデルはそれを見て頷いてから、パペットを先頭にダンジョンの奥へと進むのだった。




 ダンジョンの探索は順調に進んでいる。


 第一階層、第二階層では巨大なアリやハチ等の昆虫型モンスターが多い。ただ、それほど危険な魔物ではなく、大群で来ない限りは負けることはない。


 ダンジョンで発生する魔物は地上にいる魔物とは違って生態系というものがなく、お互いに戦うようなこともなく生きるための栄養も必要としていないと言われている。


 本来であれば強い魔物も、ダンジョンの低階層では脅威ではない場合が多い。逆に深い階層では弱い魔物も脅威となる。そのギャップに地上とダンジョンの両方で戦う冒険者達はかなり気を使うという。


 そして難易度が低いと言われている場所でも、奥へ行くほど危険度は上がる。


 低階層では多くいた冒険者達も第三階層へと入ると激減した。


 階層は人工的な石の階段で区切られているが、第三階層の階段周辺でたむろしている冒険者が二パーティいるくらいで、その冒険者達も奥へ行こうとはしていなかった。


 パペットのダンジョン探索用ゴーレムが地図を作っている間、社交的なオフィーリアはクッキーを手土産に階段周辺にいる冒険者達へと近づいた。


 話を聞いたところによると、第三階層からは魔物も強くなるので念入りな準備をしているとのことだった。


「ここからが本番ということかい。ならもっと警戒しないとね」


 アーデルがそう言ったところでダンジョン探索用のゴーレム達が戻ってきた。パペットは情報を魔法で確認すると、アーデル達の方を見て頷いた。


「ワイバーンを発見しました。第四階層への階段付近にいるようです」


「意外と早かったね。それならサクッと倒そうか」


「ワイバーンはサクッと倒せないはずなんですけどね……」


 オフィーリアはやや呆れた顔でアーデルを見る。


「地上にいるのとダンジョンにいるのとじゃ違うかもしれないから強いかもしれないね。まあ、手を抜いたりはしないから安心しなよ。それじゃパペット、案内を頼むよ」


「了解です。では付いてきてください」


 アーデル達はパペットを先頭にワイバーンがいる場所へ向かった。


 第三階層からは魔物が変わった。昆虫型なのは変わらないが大きさが変わり、通路を塞ぐような大きさになっている。三メートル近いカマキリなどは壮観だ。


 アーデルは初めて見る魔物にやや興奮気味だった。


「ほー、デカいじゃないか。何かの薬に使えるといいんだけどね。帰ってフロストの薬を作ったらちょいと研究してみようかね」


「個人的に薬の原料ってあまり見たくないですね。薬草とかならいいんですけど。私にカマキリを原料とした薬は使わないでくださいね?」


「まだ使えるかどうかは分からないよ。ま、フィーには無理に使わないと約束してあげるさ」


 アーデル達がそんな話をしている間にパペットが巨大なカマキリを倒す。そして倒した瞬間にパペットは自分の亜空間にカマキリの死体を入れた。


「カマキリの鎌は何かの武器になるかもしれません。薬に使わないのなら私にください」


「どちらかと言うとパペットの物を私が貰う感じなんだけどね。ほとんど倒してくれてるし」


「なら貰います。これもいい物ですが、その辺にミスリルとかオリハルコンとかの鉱石は落ちてませんかね? ボディのバージョンアップに使いたいんですけど」


「いや、鉱石が落ちているわけ――ん?」


 アーデルが今通ってきた通路を振り返る。そして睨むように見つめた。


 オフィーリアが「どうしました?」と聞くと、アーデルは溜息をつく。


「ちょっと厄介なことになりそうだね。パペット、近くに広そうな部屋はないかい?」


「この少し先に広い場所があります」


「ならそこで待ち構えようか」


 アーデルはそう言うと、さっさと歩きだした。オフィーリア達は首を傾げながらもアーデルの後に付いていく。


 パペットの言う通り、少し先には大きなドーム型の部屋があった。


 第一階層の最初の部屋の様に巨大ではないが直径三十メートルほどの円型でこのダンジョンにある部屋としてそこそこ広い。


「アーデルさん、厄介なことってなんですか?」


「すぐに分かるよ――ほら来た」


 アーデル達が入ってきた入口から冒険者達が入ってきた。


 それは冒険者ギルドで絡んできた相手。ニヤニヤと下衆な笑い方でアーデル達を見ている。


「よお、偶然だな」


 リーダーらしき男がそう言うと、アーデルは皆を庇うように一歩前に出た。


「偶然なわけあるかい。後を付けて来たんだろう?」


「分かってるなら話が早いな――待て待て。別に仕返しに来たわけじゃねぇんだ。お前らにいい話を持って来たんだよ」


「聞かなくてもいい話じゃないってことは分かるよ。だから言わずに帰りな」


「まあ、聞けって。俺はアンタみたいな強い奴を探してたんだ。俺らに勝てるくらいくらいなら合格だ」


 冒険者の男はアーデル達が嫌そうな顔をしていることも構わずに話を続ける。


 簡単に言えば、男達は隣国のスカウト。強い相手を見つけてはこの国から離れて隣国へと移住させている。了承するだけでかなりの金貨を貰えるようで移住後の生活も保障されるとのことだった。


「もうこの国は駄目さ。貴族はともかく平民はそこまで悲惨な目に合うわけじゃないが戦後はしばらく苦しい生活になる。なら少しでもいい目に合うのは間違っちゃいないだろう?」


「確かに間違っちゃいないね」


「だろう? それでどうだい? アンタくらいの強さなら遺跡なんかに潜らなくても、ちょっと国の所属を変えるだけでしばらくは豪華な生活ができるくらいの金を貰えると思うぜ?」


「断るよ」


 全く迷いなく答えたアーデルに気を悪くしたのか、男達は少しだけ目を細める。だが、それは一瞬ですぐに笑う。


「おいおい、ギルドでの対応で俺達に不満があるのは分かるが、よく考えてくれ。こんな機会はそう何度もあるわけじゃない」


「ギルドで見なかった奴が後ろで魔法陣を構築しておきながら良く言うよ。安心したところに一撃をぶち込もうって話かい?」


 アーデルがそう言うと「カカカカ」とややしわがれた笑い声が部屋に響いた。


「儂の魔力を探知できるのか。強いというのは間違いなさそうじゃな」


 そう言いながら、長い白髭を生やした老人が男達の前に出てきた。


 まさに魔法使いという出で立ちで深緑のローブに同じ色のつばの広い帽子をかぶっている。そして手には使い込まれた木製の杖を持っていた。


 アーデルはその老人を見てから「ふん」と鼻で笑う。


「アンタは強そうじゃないね。まあ、アンタらの中じゃ一番だろうけど」


「儂の強さが分からないのは悲しいのう。その目は節穴か?」


「節穴かどうか試してみるかい?」


 部屋に緊張感が漂う。だが、魔法使いの老人はまた「カカカカ」と笑い出した。


「若い時はそれくらい強がったほうがいいじゃろう。それにその姿、若い頃の魔女じゃな? 会ったことはないが、そんな恰好をしていたと聞いたことがある。なかなか豪胆じゃな」


「そうかい。で、どうするんだい。こっちは断っているんだがね?」


「まあ、仕方ないじゃろうな。なら、死んでもらおうかの」


「理由を聞いていいかい?」


「儂らが冒険者の権利を利用してこんなことをしているなんてバレたら困るのでな。それに戦争に参加されても困る。運がなかったと諦めよ」


「運が悪いから諦めろ、ね。その通りではあるけど、アンタは運が良かったね」


「ほう? 儂の運がいいと? 理由を聞いてもいいかの?」


「殺しはしないようにしているんだ。ボコボコにはなるけど命は助かる。戦いが終わったら老い先短い人生を大事にするんだね」


「老人を労わってくれるとはありがたい話じゃな。だが、こんな歳まで何十年も魔導を研究してきた儂に勝てるかのう、小娘よ?」


「へぇ、アンタの魔法は年齢で威力が変わるのかい? そいつは見てみたいね」


 次の瞬間、老人の魔法が発動し、いくつもの火の玉がアーデル達を襲った。


 だが、瞬時にアーデルも魔法陣を構築して魔法を発動。


 その火の玉はすべて氷の玉で迎撃、相殺された。


「なんじゃと!?」


「確かに私はアンタに比べたら若いけどね、ばあさんと一緒に研究した魔導の質はその辺の奴に負けないよ」


 そう言ってアーデルは体から膨大な魔力を溢れさせた。


「最初から全力で来な。どっちの目が節穴なのか教えてやろうじゃないか」


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