表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/160

亜神

 

 アーデル達はダンジョンへと足を踏み入れた。


 ダンジョンに入ったのが初めての三人は物珍しそうに周囲を見渡している。


 自然にできた洞窟とは違い、人の手が入ったような通路になっており、その通路を少し歩くと巨大な広間に出た。ドーム型になっている広間では、これから奥へ行こうとする冒険者達がたむろしている。


 地図を買わないかと言っている人もいれば、ポーションなどを販売している商人などもいた。町よりも賑わっているといっても間違いではないだろう。


「なんだい。商人がいるなら私達が入ったって構わないだろうに」


 アーデル達はダンジョンに入る前、入り口にいる冒険者ギルドの職員に「危険だから」と言われて止められた。許可証となるネックレスを見せたが、それでもなかなか信じてもらえず、ようやく中へ入れたという経緯がある。


 オフィーリアが「まあまあ」とアーデルをなだめている。


「こういう遺跡は危険なんですよ。いやがらせじゃなくて心配から来る行為なんですってば」


「それはそうなんだろうけどね」


「こういうところでお金を稼げるのは一部の冒険者だけで、なったばかりの人なんかすぐに死んじゃうって聞きますからね。それに私達って見た目は弱そうじゃないですか。女性ばっかりな上に冒険用の道具とか何も持ってませんから」


 遺跡が危険な場所というのは子供でも知っている常識だ。そんな場所へ準備もなく向かうのは自殺行為と言われている。


 アーデル達は旅の道具などを亜空間に入れているためバッグすら持っていない。オフィーリアだけは小物を入れるバッグを腰のあたりにつけているが、財布を兼ねている小さな物で、ほぼ手ぶらと言っていい。


「冒険者っていうのは大変だね」


「そうですね。だらからこそ、アーデルさんも注意していきましょう」


「一人じゃないし注意はするさ」


 アーデルはそう言ったあと、パペットを見た。


「パペットはダンジョンを安全に進める機能があるのかい? 来るときにそんなことを言ってたと思うんだが?」


 パペットは胸を張る。無表情ではあるが、もっと感情を出せればドヤ顔だっただろう。


「よくぞ聞いてくれました。遺跡探索用のゴーレムを作ったことがありますよ。私自身にもいろいろ機能がありますのでお役に立つこと間違いなしです。これはもう超ゴーレムと名乗っていいかもしれません」


 パペットはそう言いながら小型のゴーレムを取り出す。掌に乗るくらいの小さなゴーレムで、それが五体。


 地面に置くとそのゴーレム達は横一列に並んだ。


 パペットが「マッピングで」というと、小型のゴーレム達は敬礼をしてから奥へと走っていった。


「なんだい、ありゃ?」


「遺跡探索用のゴーレムです。マッピングを依頼しましたから数分もすれば地図を作ってくれます。その地図は私の頭にインストールされますのでなんでも聞いてください。とはいってもこの階層だけで次の階層になったらまたマッピングしてもらわないとダメですが」


「よく分からないけど地図ができるならありがたいね。ところでワイバーンがいる場所も分かるのかい?」


「調べた階層にいるなら分かりますよ。罠の位置とか宝箱の位置とか情報収集はお任せください。褒めても――」


「宝箱!」


 パペットの言葉をオフィーリアが食い気味に遮った。目がキラキラと輝いているようにアーデルには見える。


「宝箱と言ったら宝物ですよ!」


「そんなことは知ってるよ」


「見つけたら開けましょう。遺跡で見つかるお宝は結構なお金になるんですよ。それにいろいろな魔道具もあるとか。売ればお金ががっぽり!」


「へぇ、売るかどうかはともかく見てみたいね。でも、そういうのはすでに取られているんじゃないかい?」


 オフィーリアは右手の人差し指だけを立てて「ちっちっち」と言いながら口の近くで左右に振った。


 アーデルはイラっとした。


「遺跡のお宝は復活するんですよ」


「復活?」


「はい。宝箱を開けて中身をとると宝箱は消えちゃうんですけど、また遺跡のどこかに宝箱が出現するとか」


「なんでだい?」


「……さぁ? それに魔物をいくら倒してもいつの間にかまた出現するんです。そのおかげで冒険者さんたちも遺跡で稼げるんです。理由は分かりませんけど、別にいいんじゃないですかね?」


「それはここが亜神の領域だからだ」


 クリムドアが急にそんなことを言い出した。


 アーデル達は首を傾げてクリムドアを見る。


「クリムは何か知っているのかい?」


「すべてを知っているわけじゃないがある程度は知っている。さっきも言ったがここは亜神が作り出した領域だ。魔力を使って魔物や宝を作り出しているんだよ」


「ええと、まず亜神ってなんですか?」


 オフィーリアがそう尋ねる。


「そこからか。ダンジョンと同じようにこの時代では知られていないんだな。亜神とは意思をもった魔力の集合体だ。強大な力を持っているがゆえに人間達には神として信仰されている――いや、信仰されたから意思を持ったという説もある。亜神を簡単に言えば神っぽい何か、だな」


「ちょ、ちょっと待ってください! サリファ教の信者としてその発言は許せませんよ!」


 オフィーリアは女神サリファを信仰している。信仰している神が神ではなく「神っぽい何か」と言われたらオフィーリアだけでなく信者全員が怒るだろう。


「うん? ああ、そうか。いや、サリファは間違いなく神だ。創造神の一柱だから亜神なわけがない。たしかこの時代だと信仰されている神はサリファを含めた創造神の三柱だけだ。それ以外は全部亜神だな」


「えぇ……? サリファ様が神なのは分かりましたけど、信仰されている神様っていっぱいいますよ?」


 この世界で信仰されている神は多い。


 それは人間だけではなく、エルフやドワーフ、それに魔族や獣人も同じで多くの神が信仰されている。


「そうだな」


「そうだなって。それじゃ、ほとんどの宗教は亜神――神っぽい何かを信仰しているってことですか?」


「その通りだ」


「……ほかで言わないほうがいいですよ? 過激な宗教とかもありますから、そんなことを言ったら異端審問にかけられちゃいます」


「だろうな。未来ではそういう戦いもあったほどだし。もちろん、お前達の前以外では言わないから安心してくれ」


 オフィーリアは複雑そうな顔をしながら腕を組んでうなっている。


 それ以上質問をしないようなのでアーデルが代わりに口を開いた。


「それで亜神の領域っていうのはなんだい? このダンジョンがそうなんだろう?」


「ここはその亜神が作り出した場所――亜神そのものと言っていいかもしれないな。ダンジョンを作り、宝や魔物を作って人間達を呼び込んでいるんだよ。そしてさらに多くの魔力を蓄える」


「魔力を蓄える……?」


「亜神達の目的、それは多くの魔力を得て神になることだ。もちろんそんなことを考えずに人間のために魔力を使っている亜神もいるが、ダンジョンを作り出した亜神はまず間違いなく神になろうとしている」


「魔力を蓄えると神になれるのかい?」


「神になるというよりは神の座を奪おうとしているのだろう。神を倒し自分が新たな神になるために魔力を蓄えているといったほうがいいか」


「それじゃサリファ様の敵じゃないですか!」


 唸っていたオフィーリアが声を荒げる。近くにいた冒険者達が何事だとアーデル達の方を見るが、オフィーリアが「すみません」と何度も頭を下げたので、冒険者達は不思議そうにしながらも視線を戻した。


 そしてオフィーリアはクリムドアにジト目を向ける。


「それって本当なんですか? ちょっと信じがたい話なんですけど?」


「本当だ。だが安心していい。亜神はサリファとは敵対しない」


「……なんでです?」


「サリファはすでに亡くなっているだろう? 今はその神の空座を亜神達が取り合っているんだ」


「……クリムさんを異端審問にかけます」


「なんでだ――く、首を絞めるな! 落ち着け!」


「これが落ち着いていられますか! この場でトカゲの丸焼きにしますよ! 塩とコショウ、どっちがいいですか!?」


「クリムさんはドラゴンなのでドラゴンの丸焼きでは?」


 パペットがそんなとぼけたことを言い、アーデルは呆れたようにオフィーリア達を見ている。


「その話は後にしなよ。これからダンジョンを探索をするんだからさ」


「後にできませんよ! さあ、吐いて! 知ってることを全部吐いて! そして謝って!」


 オフィーリアはそう言いながらクリムドアの首を両手で持って揺さぶっている。


 アーデルは先が思いやられるねと思いながら、地図を作っているゴーレム達が早く帰ってくることを願っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ