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冒険者ギルド

 

 アーデル達は朝食後、準備をしてから町の冒険者ギルドへとやってきた。


 ダンジョンを管理しているのが冒険者ギルドである以上、入るためにはそこで許可を貰う必要があるためだ。


 本来であれば冒険者ギルドに所属する冒険者にしか許可は下りないが、どんなことにも例外はある。


 冒険者ギルドにいるギルドマスターに許可を貰えば冒険者ギルドに所属しなくとも中に入ることができる。判断はギルドマスターにゆだねられるが、推薦状があれば問題ないとのことだった。


 本来なら領主や町長が用意するものだが、領主がいる場所は遠く、町長は不在。そこである程度の裁量権がある執事が推薦状を用意してくれたのだった。


「これが冒険者ギルドの建物か」


「結構立派な造りですね」


 アーデルが建物を見上げながらそう聞くと、オフィーリアが肯定した。パペットやクリムドアも建物を見上げながらそれなりに驚いている風であった。


 ブラッドの実家がある町でも冒険者ギルドはあったが、アーデルは見ていない。そもそも行く理由がなかったからだ。


 町の中心とも言うべき大広場に面した冒険者ギルドは町で最も大きい建物だった。


 この町へはダンジョン探索を目的にした冒険者が多く来るため、それなりに大きな建物になっていると執事が説明していた。


 冒険者達がダンジョンで得た利益、これが巡り巡って町の主な収入源となっているのなら町長の家よりも大きいのは仕方のないことだろうとアーデルは勝手に納得した。


「さて、それじゃ行こうかい。面倒なことはとっとと終わらせないとね」


 アーデルはそう言って建物へと向かった。


 木製のスイングドアを押し開けながら足を踏み入れる。


 中は酒場と併設しているようで、左手には食事を提供するカウンターがあり、テーブルと椅子がいくつも置かれている。


 そして正面には冒険者用のカウンターがあった。


 受付は複数あるが、ずいぶんと人数が偏っているようで、人が全く並んでいない場所もある。


「あそこの受付は仕事が遅いってことかい?」


「いえ、私も詳しくは知らないんですけど冒険者の人達は強いほど偉いわけで、そういう強い人は色々と優遇されるんですよ。あの受付は冒険者でもかなりの強さを持ってないと使えないのでは?」


「面白い仕組みだね。強いほど偉いのか。でも、私達は冒険者じゃない。そういう人はどこで手続するんだろうね?」


「とりあえず人がいっぱいいるところに並びましょうか」


「仕方ないね。意外と進みは早いようだからそこまで待たないか」


 そう言ってアーデル達は一番長い列の後ろに並んだ。


 アーデルもそうだが、パペットもこういうところは初めてらしく、物珍しそうに周囲を見ている。


「冒険者さん達はどういう理由で並んでいるんですか?」


 それはアーデルも分からないので、オフィーリアに視線を向ける。


「冒険者は色々な依頼をこなすことでお金が貰えるんですよ。ほら、あそこの掲示板に紙がたくさん貼られてますよね? あれも持って受付で仕事を受けるって手続きをしないといけないとか。それか依頼が終わった報告ですね。たぶんですけど」


「あんなに仕事があるとは驚きです」


 掲示板には多くの依頼票が張られている。ざっと見ただけでも百は超えていた。


「色々あるんですよ。モンスターの討伐がメインらしいですけど、素材集めとか薬草集めとかもありますから」


「面白いですね」


「薬草ならたくさん持ってるよ?」


 アーデルがそういうと、オフィーリアは首を横に振った。


「冒険者じゃない場合は依頼を受けられませんし、安く買い叩かれてしまいますから他のギルドで売った方がいいですよ。大体、私達の場合はブラッドさんがやってくれますから、そっちに任せましょう」


「それはそうだね。お、もう順番が回ってきた――」


 アーデルが受付のカウンターに近寄ったところで、大きな男が割り込んだ。


「おい、清算してくれ」


 商人ギルドでブラッドが割り込んだときのように、またもアーデル達の前に誰かが割り込んだ。そして勝手にカウンターの上に依頼票と大きい袋を置く。


 かなり厳つい男性で、見た目だけで言えば盗賊と言ってもおかしくない風貌だ。しかもそれが五人。


「なんだい、アンタら。次は私達の番なんだから列の最後に並びな」


「ああ? それは俺達に言ってんのか?」


「アンタら以外にいないだろう?」


「ハッ、冒険者は強さが全てだ。気に入らないなら力で排除しな。できなければ黙ってろ」


 リーダーらしき男がそう言うと、仲間と思われる男達はニヤニヤしながらアーデル達を見た。そして周囲にいた冒険者達は関わりたくないのか少しだけ距離を取る。


 受付の女性も困った顔をしたが、男が出した依頼票の対応を始めようとした。


 ブラッドが冒険者ギルドでは荒くれ者が多く、横入りなど日常茶飯事と言っていた。だが、それがルールというなら黙っている理由はない。


「なんだい、それを早く言いなよ。大人しく並んじまったじゃないか」


「……あ?」


 リーダーの男がそう言ってアーデルを見た次の瞬間にはその巨体が吹き飛ばされた。目視できない魔力の塊が割り込んだ男を襲い、仲間だった他のメンバーも巻き込んでカウンターの近くから弾き飛ばした。


 激しい音と共に壁に激突した男達をちらっと見てからアーデルはカウンターに近づく。


「さて、これで私達の番だね?」


 静まり返ったギルド内で受付の女性は目を見開いてアーデルを見てから、ゆっくりと先ほどの男達の方へと視線を向ける。男達は建物の壁にぶつかり、重なる様に倒れていた。


 それを見て口をパクパクさせたが、声が出ていないので何を言っているのか分からない。


 そんなことはお構いなしとアーデルは受付の女性に話しかける。


「ギルドマスターとやらに会いたいんだけど、どうすればいいんだい? そうそう、これが推薦状だよ」


 そこまで言っても受付の女性は状況を理解できない感じになっている。


「ちょ、アーデルさん! やりすぎですって!」


 同じように放心状態だったオフィーリアが我に返り、そんなことを言い出したがアーデルは首をかしげるだけだ。


「力で排除しろって言ったのは向こうだよ? それがルールなんだろう?」


「それはそうなんですけどぉ」


「それにこっちを馬鹿にするような目で見ていたんだ。アンタのところの女神様は気に入らない奴はぶん殴っていいんだろ?」


「……よく考えたらそうですね」


「やってくれるじゃねぇか! 死んだぞ、てめぇら!」


 いつの間にか男達が立ち上がってそれぞれ武器を構えていた。そしてアーデル達を睨む。


 オフィーリアとクリムドアはすぐにパペットの後ろに隠れたが、アーデルとパペットは何を怒っているのか分からないという表情だ。


「何怒ってんだい。力で排除しろって言ったのはアンタだろう?」


「てめぇ……!」


「まだ力の差が分からないのなら掛かって来なよ。次は壁にぶつかる程度じゃすまないけどね」


 アーデルがそう言って睨むと男達は怯んだ。


「何をしている!」


 いきなり建物内に大きな声が響き、カウンターの内側にある扉からこれまた厳つい男が現れた。そして割り込んだ男達を見て呆れたような目を向ける。


「またお前らか……」


 男達のリーダーは舌打ちをしてから、アーデルを睨み、建物を出て行った。


 我に返った受付の女性はその男性に小声で話しかけている。


 カウンターに置かれた推薦状を見た男性は一度だけ頷き、「こっちに来てくれ」とアーデル達を部屋へ案内した。


 男はこの冒険者ギルドのギルドマスターだといい、アーデル達が部屋に入るとソファに座るよう促した。


「まずは座ってくれないか――不愉快な思いをしただろう。管理が行き届いてなくて申し訳ない」


 アーデル達がソファに座ったところでギルドマスターが頭を下げた。


「別に不愉快じゃないよ。そういうルールなんだろう? 強い方が偉いなんてシンプルでいいじゃないか」


「そういうルールというわけじゃないのだが……それにあいつ等は少々特殊でな。隣国出身の冒険者で嫌がらせに近いことを毎回やっている。取り締まりたいとは思っているんだが冒険者の権利を盾にやりたい放題でな」


「冒険者の権利?」


「基本的に冒険者は国を持たない流浪の民という扱いなんだ。そして冒険者同士の諍いは当事者同士が対応するというのが基本方針で、俺が介入できないようなギリギリの嫌がらせをしているということだな。たとえば、強者用の受付があるのを知っているか? それがあってもわざわざ人が多い受付で問題を起こしている」


「暇だね、としか言いようがないんだけど」


「個人でやっているならな。だが組織的にこの国の多くの場所でやるなら効果的とも言える。この町、しいては国から冒険者を遠ざけて戦争を有利にしようとしているのだろう。冒険者も希望するなら戦いに参加できるからな」


「ああ、なるほど。そういえばこの国は戦争中だったね。事情は分かったよ。それでダンジョン――遺跡へ入る許可が欲しいんだけどね?」


「遺跡への許可か……」


「推薦状があっても駄目なのかい?」


「いや、基本的に遺跡の中は無法地帯だ。モンスターが危険なのは当然だが、逆恨みであいつらに襲われるかもしれないぞ?」


「その時は返り討ちさ。それに次は手加減しないよ。殺したりはしないが、しばらくはポーションが水代わりになるだろうね」


 そう言うとアーデルは凶悪そうに笑う。


 オフィーリア達もその発言にはドン引きだ。


 ギルドマスターも顔を引きつらせているが、しばらく眉間にしわをよせてから頷いた。


「分かった、なら許可証になるネックレスを渡そう。だが、くれぐれも注意してくれ。ギルドで護衛を頼んだ方がいい」


「いらないよ。守る奴が増えちまうからね。それじゃ行こうか」


 そう言ってアーデルは立ち上がり、皆と部屋を出ていった。


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