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色々なゴーレムと面倒そうな奴

 

 アーデル達は馬車に乗って砦から南の方へと向かっていた。


 馬車に関してはブラッドの父親が用意してくれたもので、アーデルに譲渡したものとなっている。ゴーレムの亜空間から契約書を取り出した報酬の一つだ。


 町を出てから数日が経っているが馬車のおかげで旅は前よりも余裕がある。それに徒歩の時よりも遥かに早い。


 それもそのはずで、パペットが馬をゴーレムとして作ったのだ。パペットも馬も睡眠を必要とすることなく、夜通し移動できるので馬車に乗っているだけで目的地へ行ける。


 とはいえ、ずっと馬車に乗っているのも疲れるので、適当な場所で休憩を取っている。それにパペットは自分で魔力を作り出せるが馬はできない。アーデルが定期的に補充する必要があった。


 お昼も近いということで見晴らしのいい草原で休憩することになったのだが、魔力供給の仕組みをよく分かっていないオフィーリアはパペットに質問をしていた。


「パペットちゃんはなんで魔力切れにならないんです?」


「私の体内には周囲の魔力を集める魔道具がいくつか埋め込まれているので半永久的に動けます。とはいえ、メンテナンスは必要ですが」


「その魔道具とやらはお馬さんゴーレムにはないと?」


「残念ながらありません。私に使われている魔道具はご主人様が作ってくれた特別製で私には作れません。ご主人様を褒めてもいいですよ?」


「そうなんですか。パペットちゃんのご主人様はすごい人だったんですね」


「はい。ですが、私もいつか作れるように研究中です。そのために借りている魔道具を返さなかったので。実はこれを参考にしてご主人様が作ってくれたんです。作り方までは残っていませんでしたが」


「そういえば、そういう理由で返さなかったんでしたっけ」


 そばで馬型ゴーレムに魔力を注入しているアーデルはそれを聞いていたのか、振り向いて口を開いた。


「目的があって普通に使っているだけなら貸出期間を延長しても構わないさ。返しに来なかった理由もちゃんとあったからね。それにパペットとは一緒に行動するわけだし、ランプの魔道具はそこまで危険な物じゃないから問題もないだろうさ」


「村にあった水を作り出す魔道具は危険って言ってましたからね。代わりにもっと危険な水の精霊ちゃんが噴水で遊んでいるらしいですけど。そうそう、メイディー様を気に入ってくれたみたいですよ」


「ああ、手紙が来たのかい?」


「ええ、さっき来ました。パペットちゃんのおかげで手紙のやり取りが楽になって助かってますよ!」


「えっへん」


 パペットは誇らしげに胸を逸らす。


 パペットは小鳥型のゴーレムを作り、それに手紙を持たせてからオフィーリアのいた村へ飛ばしたのだ。


 手紙は専門の郵送人に頼むのが普通だが、この手段であればかなり早く、そして正確に届く。


 その返信が届いたようで、オフィーリアはメイディーの手紙から村の様子を知ったのだ。


「水の精霊ちゃんはメイディー様のクッキーの虜みたいですよ。クッキーが欲しいがために精霊ちゃんの方から教会を掃除したり、花壇に水をあげたりしているとか」


「精霊は気難しいんだけどね。でも、それなら村の方は安全だろう。フィーも気兼ねなく旅ができるってわけだ」


「そうですね。あ、そうだ、パペットちゃん、王都のお土産が欲しいってメイディー様が言ってるんですけど、物を送れるくらい大きな鳥って作れます?」


「そこは亜空間の魔法を付与すればいいと思います。出し入れをするために魔力の注入がかなり必要になりますが」


「おお、そんな手が!」


 オフィーリアとパペットは同時にアーデルの方を見る。


 アーデルは眉間にしわを寄せてから、「仕方ないね」と言い出した。


「分かったよ。それくらいの魔力ならちゃんと注いでやるから、しっかりした亜空間をゴーレムに付与しなよ」


「さっすがアーデルさん!」


「アーデルさんがいればもっと複雑なゴーレムを作っても動きますね。これからも期待します」


「私を魔力の注入係だと思ってないだろうね?」


 そんな三人の会話をクリムドアが呆れた目で見つめている。そして溜息をついた。


「なんだい、いきなり溜息なんかついて」


「軍事利用できることを簡単に思いつくな。それは数百年後に発明される画期的なゴーレムだぞ。魔力注入の都合で最前線への命令伝達でしか使えなかったが、アーデルとパペットがいればどんな物資も短時間で最前線へ送れるようになるぞ……」


 それを聞いた二人は少しだけ考えるような仕草をしたが、二人そろって首を横に振った。


「私がそんな面倒なことをするわけないだろう? 頼まれたって嫌だよ」


「私もゴーレムをそんなことに使いたくないです。最近のマイブームは料理を作れるゴーレムですので。今度はジャガイモの芽を自動で取るゴーレムです。毒素チェックも自動でやる高性能ゴーレムですよ」


 クリムドアはぽかんとしていたが、少しだけ笑ってから頷いた。


「そうだな、その方がいい。さて、料理と言えば、そろそろお昼だろう? 今日はなんだ?」


 オフィーリアが残念そうな目をした。


「クリムさんは色々と台無しですよね」


「なんでだ? 食事は大事だろう?」


「もしかして未来では美味しいものがなかったんですか?」


 クリムドアは少しだけ考えるそぶりをしてから口を開く。


「これくらいなら言ってもいいだろう。全くなかったわけではないが少なかった。料理ができる人も少なかったが、食材も少なくて美味い料理なんてほとんど記憶にない。味のついた食べ物なんて贅沢品だったな」


 それを聞いたオフィーリアは干し肉をクリムドアにそっと差し出した。


「好きなだけ食べてください……!」


「気持ちだけで十分だ。それに今はフィーの美味い料理を腹いっぱい食える。未来の皆に悪い気はするが、それは未来を変えることで許してもらうつもりだ」


「クリムも苦労してたんだね」


 アーデルが馬のゴーレムに魔力を注入しながらしみじみと言った。


「そうだな。そんなわけだからアーデルには世界を救ってもらう必要がある。よろしく頼むぞ」


「やめとくれ。世界を救うなんて恥ずかしいことを言うんじゃないよ。私はばあさんが残した魔道具を回収しているだけさ」


 アーデルはそう言ってから、なにかを思い出したようにオフィーリアの方を見た


「それはいいとして、今日はこの先にある町に行くのかい? ブラッドからそんな手紙が届いたんだろう?」


 鳥型ゴーレムはブラッドにも渡してあったのだが、それがつい先日戻ってきた。その町に寄る予定はなかったのだが、その町に行って欲しいとのことだった。


 オフィーリアがブラッドから送られてきた手紙を取り出してヒラヒラさせてから頷いた。


「そうですね。なんでも町長の娘さんが病気みたいで私やアーデルさんに診てもらいたいそうですよ。私の治癒魔法やアーデルさんの薬でなんとかしてほしいとか」


 ブラッドはアーデル達と違って商人としても行動している。どんな理由があってその町へ寄ったのかは書かれていないが、町長の娘が病気でなんらかの事情からアーデルが作った薬を飲んだとのことだった。


 完治したわけではないが、改善が見られたのでぜひ町へ寄って娘を診て欲しいと町長にお願いされたと手紙には書いてあった。


 その手紙を見て、複雑そうな顔をしているのがアーデルだ。


「こういう人助けって普通はするものなのかい? 嫌だってわけじゃないんだけど、見ず知らずの奴を助けるなんてお人好しすぎると思うんだが。それにちょっと遠回りになったし」


 オフィーリアが頭を軽く横に振った。


「普通はしませんね。ただ、ブラッドさんもタダでやって欲しいなんて言ってませんから。上手く行ったら成功報酬を貰えるみたいなので、やるだけやってみましょうよ。それに――」


「それに、なんだい?」


「私のことは助けてくれたじゃないですかぁ」


 オフィーリアはそう言ってニヤニヤしながらアーデルを見る。


 以前森の中でオフィーリアは狼に襲われていたがそれをアーデルが助けた。それを言っているのだ。


 アーデルはバツが悪そうな顔をしつつ、横を向いた。


「あれはクリムが助けた方がいいって言ったからさ。私一人だったら助けなかったよ」


「またまたぁ、照れ隠しにそんなこと言わなくても――え? 本当?」


 クリムが視線を外しながら頷く。


「た、たぶん、それが別の未来でアーデルを村の仇と思った理由だ。アーデルが助けなかったからフィーは狼に追われて魔の森を彷徨い歩いたんだ。そして村に戻った時は大変なことになってた――という流れだと思う……」


「……なんで助けないんですか!?」


「それは私じゃなくて別の未来にいる私に言っておくれよ。私は助けたじゃないか」


「分かりました。そういうことならアーデルさんはこれから積極的に人助けをしていきましょう」


「……一応聞くけど、なんでだい?」


「私みたいに変なことになる可能性を減らすためです! 困っている人を見かけたら有無を言わさずに助けちゃってください!」


「やだよ、面倒くさい」


「私も手伝いますから! 女神サリファ様だって言ってますよ! 人を助ければお礼が貰えるから進んで助けましょうって!」


「打算的な女神だね――ん?」


 アーデルとパペット、そしてクリムドアは同時に同じ方向へ顔を向けた。


 視線の先は空。青い空が広がっている方角を凝視している。


「え? どうしたんです?」


 オフィーリアだけは何が起きたか分かっていないようで、同じ方向を見つつも首を傾げた。


「魔力が大きい奴がこっちに向かって来ているね」


 アーデルの言った通り、一分も経たないうちに空に小さな点が見え、それが徐々に近づいてきた。


「鳥……じゃなさそうですね?」


 オフィーリアがそう呟く。


 ようやくその姿が分かると、それは人だった。人が空を飛んでこちらに向かってくるのだ。


 数秒後、かなりの勢いで地面に着地する。軽く衝撃があり、周囲に砂煙が舞った。


 煙が収まると、その人物は服の埃を手で払い、金髪の縦ロールを両手でそれぞれ後ろに払った。その後、腕を組み、胸を逸らして仰け反ったポーズを取る。


「そこの庶民、答えなさい。この辺に砦があったと思うのだけど、もう過ぎてしまったかしら?」


 なんか面倒そうな奴が来た。アーデル達は全員がそう思うのだった。


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