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仲間

 

 顔を見合わせた三人だったが、オフィーリアが元気よく手をあげた。


「正直なところ、世界を救うとかはあまりピンとこないんですけど、私はアーデルさん達と一緒に旅をするつもりなので縁を切るなんてないですよ!」


「いいのかい? 今後もあの時の守護者が出てくる可能性が高いよ?」


「アーデルさんがいればどんな敵でもちょちょいのちょいですよ。それに私、治癒魔法は得意ですし役に立ちますよ?」


 オフィーリアの言葉にブラッドは何かを言いたげな顔をしている。


 それに気づかないオフィーリアはさらに続けた。


「大体、アーデルさん達は常識がないですからね。私がちゃんと助けないと。それに私はアーデルさんの料理の先生でもありますからね!」


「それはまあ、そうなんだけどね」


 そもそも町では金銭価値がよく分かっていない。アーデル達だけでは宿も取れない可能性が高く、料理の先生というのも間違いではない。


「それにメイディー様からもついて行くように言われましたから。先代のアーデル様とメイディー様の友情は私達に引き継がれましたので、たとえ地獄でもついて行きますよ!」


「そこまで言われると嘘っぽいんだが、まあ、なんだい、ありがとうよ」


 アーデルが笑顔で応えると、オフィーリアも笑顔になる。


 話が終わったのを見計らったのか、今度はブラッドが口を開いた。


「俺も縁を切ろうなんて思ってない。そもそも俺の初めての取引相手でもあるんだ。今後もぜひお付き合い願いたいところだ」


「無理しなくていいんだよ?」


「無理なんかしていない。それに商人としては見習いだが、アーデルさんからはお金の匂いがするんだよ」


 アーデルはそう言われて、右腕を鼻に近づけ匂いを嗅いだ。そして首を傾げる。


「いやいや、たとえだよ、たとえ。実際に匂いがするわけじゃない。今後も付き合いがあれば俺がお金を稼げるんじゃないかって話だ。もちろん何もしないわけじゃない。たとえばだが、俺が魔道具の情報を集めるから、それをアーデルさんが買ってくれるとかはどうだ?」


「魔道具がある場所は分かっているんだよ。調べる必要は――」


「だが、ここの主人が亡くなっているのは知らなかったんだろう? そういうことを事前に調べておくという話だ。その情報を買ってくれればいい」


「なるほどねぇ」


「俺が先に魔道具がある場所へ行って色々と情報を集める。アーデルさんがそれを買う。そういう契約を結ばないか? そこが町だっていうなら、宿などの準備もしておくぞ。それに以前は冒険者だった。そこそこ顔は広いと思ってるんだが」


「いい案だとは思うが、私はお金なんてほとんど持ってないんだよ。全財産は銀貨五枚さ。あとはオフィーリアの財布に入っているお金だけだね。それで足りるのかい?」


 オフィーリアが真面目な顔で「財布の中身は私のお金です」と言っている。


「お金じゃなくなっていい。魔物の皮とか牙とかを持っていないか? そういうものでもいいし、なんだったら俺がなんでも金に換える仕事を請け負うぞ?」


「そういえばお金になるとか聞いたね……なら一緒に来るってことかい?」


「別行動が多いだろうが、まあ、そういうことだ。どうだろうか? 大商人というほどじゃないが俺の将来性を買わないか?」


「……分かったよ。今日会ったばかりだし、最初は列に割り込まれたりもしたけど、さっき庇ってくれたのでチャラだ。私が怖くないっていうならよろしく頼むよ」


「そうこなくてはな。クリムさんもオフィーリアさんもよろしく頼む」


 クリムドアは「うむ」と頷き。オフィーリアは「こちらこそ」と言って喜んでいる。


 そして全員の目が、ずっと無表情のパペットに注がれた。


 ブラッドもそうだが、パペットも今日会ったばかりの上にゴーレムだ。自律型の思考を持つゴーレムではあるが、関係を絶つとか絶たないとか考えていそうにもない。


 とはいえ、アーデルはパペットを人と同じ様に扱うつもりだ。


「パペットはどうする? 関係がどうこうというよりもさっきの魔道具を持っているのは危険だと思うね。それを私に返して二度と会わないほうが安全だと思うがどうだい?」


「それよりも言っておきたいことがあるのですが」


「なんだい?」


「壊した人形やゴーレム、それと工房の弁償をしてください。アーデルさんとクリムさんのせいなんですよね?」


 全員が工房の中を見る。


 中はめちゃくちゃ、壁には時の守護者を吹き飛ばした巨大な穴があり、無事なのは今座っている椅子と囲んでいるテーブル、それに紅茶が入ったカップくらいだ。


「銀貨五枚で足りるかい?」


「足りません。金貨三百枚くらいは渡してください」


 アーデルはブラッドの方を見るが、ブラッドは顔を横に振った。


「そんな金があるわけないだろ。俺が自由にできる金は少ないんだ。報酬として渡す十五枚が限度だ。親父なら払えるだろうが、追加の報酬でもそこまではいかないだろうな」


 亜空間が付与されたゴーレムから契約書を取り出した。その報酬として金貨十五枚はブラッドから出るが、ブラッドの父親が追加で報酬を出すという話をしていた。それを当てにはできないということだ。


 アーデルはパペットに頭を下げた。


「すまないね。そんなお金は持ってないんだよ」


「分かりました。つまり、アーデルさんは私に金貨三百枚の借金があります」


「借金……つまり、お金の借りがあるってことか」


「はい。なので回収するまで付きまといます」


「えぇ? 私に付きまとうのかい?」


「はい。世界を救うとか未来がどうこうとかは関係ないのですが、私には最高のゴーレムになれというご主人様の命令があります。それをするためには工房がどうしても必要なので弁償してくれるまで付きまといいます」


「へぇ、最高のゴーレムね。いい夢じゃないか。私も最高の魔女の名前に恥じない強さを手に入れたいと思っているよ」


 アーデルがそう言うと、パペットの目が怖いくらい瞬きを始めた。


「大丈夫かい? 壊れていないだろうね?」


「いえ、大丈夫です。でも、夢? おお、そうですね、夢です、夢。最高のゴーレムになるのが私の夢です」


「よく分からないけど、嬉しいなら何よりだね」


「……嬉しいですか? 私が?」


「よく見たら表情は変わってないね。でも、嬉しそうに見えたよ」


「そうですか。褒めてもいいですよ? むしろ褒め称えてください」


「なんでだい? まあいいや、それじゃパペットも私達についてくるってことでいいんだね?」


 パペットはこくんと頷いた。


「工房はしばらく使えそうにないですし、逃げられたら困るのでついて行きます。借金返済のためにキリキリ働いてください。それと私の改良のために色々手伝ってください。私が最高のゴーレムになれたら魔道具を返しますので」


「……さっきと条件が変わってるじゃないか。ばあさんの墓を見たら魔道具は返してくれるんだろ?」


「いえ、条件を変えました。私の夢のために利用するつもりです。臨機応変な対応も可能なゴーレム。褒めてもいいですよ?」


 全員が「思ったとしても言っちゃダメだろ」と思ったが、ゴーレムなので仕方ないと思い直した。


 クリムドアがワザとらしい咳をしてから、皆を見渡した。


「なら決まりだな。目的はそれぞれ違うだろうが、これからは皆、仲間だ。これからよろしく頼む」


 全員が頷く前に、オフィーリアがまた手を挙げた。


「あのー、ポジション的にクリムさんがリーダーなんですか?」


「リーダーじゃないな。どちらかといえば頭脳で補佐する軍師的な立場がしっくりくるかもしれん」


 クリムドアはそう言ってキメ顔を作る。


「さっきの戦いで一番役に立たなかったくせに良く言うよ」


 アーデルがニヤニヤしながらそう言うと、クリムドアはたじろぐ。


「お、俺だって本来の力を取り戻せばなんとか戦えるように……」


「どれくらいで本来の力を取り戻せるんだい?」


「……数十年先だな」


「クリムは今日からペット枠に決まりだ」


「ぐぬぬ……!」


 そんなわけでリーダーは当然アーデルになった。本人は柄じゃないと言ったが、アーデル以外に考えられないだろう。


 ただ、そもそもアーデルは世界を救いたいわけでもなく、目的は魔道具の回収。それがたまたま世界を救うことになるだけだ。


 魔女、神官、商人、ゴーレム、そして小竜。


 アーデルはそんな仲間達を見て、これから楽しくなりそうだと、なんの根拠もなくそう思うのだった。


ここまでで毎日更新は終わりとなります。

以降は不定期で更新していく予定ですが、週一くらいの更新はしていきたいと思っています。

まだまだ続く予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。

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