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共闘

 

 時の守護者。


 それがこの時代に出るという変な言い方をしたが、クリムドアはそう言った。


 なぜ作りかけのゴーレムに対してそう言ったのかは分からない。それに守護者なら倒したはずだとアーデルは思ったが、それは未来の話。この時代にはまだいるのかと思い直す。


 そしてすぐさま立ち上がり、両手を前に突き出して全員を覆うような結界を張った。


 ゴーレムが右腕を後ろに引いて殴る前のような動作をしたのだ。


 その予測は正しく、未来で見た骸骨よりも速い動きでゴーレムが殴りかかってきた。


 攻撃は結界によって阻まれる。


 だが、ピシリと音を立てて、その結界にヒビが入った。


 アーデルは心の中で舌打ちしてから、そのヒビを直すために魔力を込める。


 未来の時とは異なり、今は全員を守るために大きな結界を張ったので強度が落ちたのだ。


「皆、外に出な! 巻き込まれるよ!」


 アーデルがそう叫ぶが、事情をよく分かっていないオフィーリア達はオロオロしているだけで動けないようだった。


「ダメだ、アーデル! 守護者はこの工房内を閉鎖空間にしている! 外に出られん!」


 その中でも少しは冷静なクリムドアが入口の扉に体当たりをしながらそんなことを言った。


 アーデルは心の中ではなく、実際に舌打ちをする。


 数週間前の自分ならあの程度の敵など瞬殺できた。自分だけが無傷で勝つなら今だって問題はない。


 だが、咄嗟とはいえ、結界で全員を守った。オフィーリア達に怪我をしてほしくないと思ってしまったのだ。


(皆を守りながら倒せるかね……?)


 全員を守る大きな結界を維持しながら相手を倒すだけの魔法を使う。アーデルの魔力ならそれも可能だが、前回と同じように一撃で倒せるかどうかといえば分からない。もし倒せずに魔力切れを起こしたら一巻の終わりだ。


 今も結界に殴りかかっているゴーレムは何度も結界にヒビを入れ、そのたびに魔力を供給して結界を維持している。時間が経てば経つほど不利になるだろう。


 結界を小さくすれば強度は上がるが、アーデル以外が無防備になる。守護者が攻撃する相手が自分だけなら危険はないだろうが、それを信じて結界を解くことは危険すぎる。


 結界越しに見るゴーレムの目は未来で見た骸骨のように青い炎が揺らいでいた。アーデルの気のせいかもしれないが、その目と顔の表情が笑っているように見える。


「気に入らないね……!」


 そうは言っても何もできない。せめて結界を張らなくてもいい状況になれば、余力を残して魔力の塊をぶつけることができる。ただ、一瞬でも結界を解けば誰かが怪我をするか、最悪死ぬ。


「よく分かりませんが、あの子を操っている何かがいるのですね?」


 パペットがそんなことを言いながらアーデルの横に立った。


 あの子とは作りかけのゴーレムの事だろう。アーデルはパペットの方をちらりと見てから頷く。


「隙を作ったら倒せますか?」


「なんだって?」


「あの子を攻撃して隙を作ります。そうしたらアーデルさんがとどめを」


「……できるのかい?」


「たぶん」


「たぶんかい……分かった。できたら褒めてやるからやってくれないか」


「大丈夫です。パペットはやればできる子。ご主人様もそう言ってました。では戦闘形態で戦います」


「……なんだって?」


 パペットはそれに答えることなかったが、首にかけていたゴーグルを目に装着して、亜空間から巨大なハンマーを取り出した。見た目、百キロ近くありそうなハンマーを軽々しく振るってから肩に担ぐ。


 そして両手両足から魔力が異常なほど放出された。


「五分しか持ちませんので。それ以上は過剰発熱によって倒れますから、よろしくお願いします」


 アーデルは結界を解いてもいいのか心配になったが、このままでは相手を倒せない。ならば賭けに出るしかないと心に決める。


「アーデルさん! こっちも大丈夫だ! クリムさんとオフィーリアさんの方は任せろ!」


 ブラッドの声が聞こえ、アーデルはちらりと後ろへ視線を向ける。


 どこにあったのか、いつの間にか剣を持ったブラッドがクリムドアとオフィーリアを守る様にしている。


 冒険者を引退したんじゃないのかと思ったが、その構えはなかなか様になっており、意外と強そうに見えた。


「け、怪我しても治しますから安心ですよ! 腕の二本や三本、たとえ切れても生やして見せますからやっちゃってください!」


 オフィーリアの本気か冗談か分からない声援にアーデルは少しだけ笑った。


 戦いに自分以外の人がいるのは足手まといだ。その考えは今でも変わらない。だが、いてくれることで負けられない気持ちは普段よりもある。


 結界越しにゴーレムに見てニヤリと笑った。


「悪いね。戦いで絶対に勝ちたいと思ったのは初めてだよ。つまり、アンタの負けさ」


 アーデルは結界を解き、魔力を両手に込めた。


 それと同時にパペットが飛び出した。そして高速で巨大な鉄のハンマーを横に振るう。その威力はすさまじく、時の守護者である巨体なゴーレムは工房の奥まで吹っ飛び、壁に激突した。


 本来であればその壁すら吹き飛ばすほどの威力だったが、何かしらの力が働いているのかゴーレムが壁を突き破ることはなかった。そして壁に激突してもダメージなどないという動きでアーデルへ接近する。


 パペットがゴーレムの前に飛び出したが、邪魔だと言わんばかりに雑に手で払われて、今度は逆にパペットが吹き飛ばされた。


 結界を張るしかない、そう思った瞬間にブラッドがアーデルの前に立つ。


 ゴーレムはそれも邪魔だと払い除けブラッドも壁に激突するほど吹き飛んだ。


 そのわずかな時間が決め手になった。ほんの数秒だが、それで最大出力まで魔力を溜められたのだ。


 アーデルはゴーレムを睨みつけると両手を開いて突き出す。


「消し飛びな!」


 そう言って巨大な魔力の塊をゴーレムに叩きつけた。


 パペットがハンマーで攻撃した時の比ではない威力の魔法がゴーレムを襲い、轟音と共に工房の壁を突き破って吹き飛ばした。


 手ごたえはあった。だが、ここで油断はできない。アーデルはすぐにゴーレムを吹き飛ばした穴から飛行の魔法を使って外に出る。


 そして原型をとどめていないゴーレムに近づいた。


 すでに体の大部分は破壊され、残っているのは胴体と右腕、そして頭だけのゴーレムが地面に仰向けに倒れている。そして目となっている青い炎は消えかかっていた。


 アーデルはとどめを刺そうと両手に魔力を込めた。


「貴様は何者だ?」


 ゴーレムが言葉を発した。


「アンタに名乗る名前はないね」


 アーデルはそう言ってゴーレムの頭を吹き飛ばした。すると、未来の骸骨と同じ様にゴーレムの身体が一瞬で砂に変わり、それが風に吹かれて消えた。


 アーデルはゴーレムがいた場所を少しだけ見つめていたが、大きく息を吐いて力を抜くと、工房の方へ戻るのだった。


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