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珍しい魔道具

 

 ブラッドに案内された場所は町の中でも相当な大きさを誇る店だった。


 四階建ての店で、一階、二階が商品を販売するフロア、三階がVIP用のフロアとなっており、四階が住宅扱いになっている。


 そんな建物を見たオフィーリアはがっくりと肩を落とした。「これならもっとふんだくれました……」とさっきの交渉に負けた感じになっている。その背中をクリムドアが慰めるようにポンポンと叩いた。


「あ、いや、私が好きにできる金はそんなにないんだ。上手くやってくれれば親父も金を出してくれるかもしれないから……」


 ブラッドはそんな風に自虐なのか慰めなのか分からない言葉をオフィーリアにかけている。


 そしてアーデル達が店に入ると、何人もいる店員達が一斉にお辞儀をした。


 アーデル達へのお辞儀もあるだろうが、どちらかと言えばブラッドに対するお辞儀だろう。


「いつもご苦労様。父上は四階か?」


 ブラッドがそう尋ねると、初老の男性が「はい」と答えた。そしてアーデル達に視線を向ける。


「ブラッド様、こちらの皆様は……?」


「ああ、祖父の魔道具をなんとかしてくれる人を探してきた」


「ブラッド様がお連れする人なので疑いたくはないのですが……」


 初老の男性が言うには、ブラッドの兄達も同じような人を何回か連れてきたが、結局ダメだった。それに詐欺まがいのことをする者もいたらしい。


「旦那様はもう契約を諦めるとも言っております。余計なことをしてしまえばブラッド様が危ない立場になるかもしれませんが……」


「危ない立場なのは昔からだから気にしなくていい。ただ、可能性があるなら試したいんだ。心配してくれてありがとう。仕事に戻ってくれ」


 男性は複雑そうな顔をするが、ブラッドとアーデル達に頭を下げてからその場を離れた。


「気を悪くされてしまったなら申し訳ない。アーデルさんと同じようにできると言いつつできない人が結構いたんだ。全員が駄目だったが」


「別に気にしちゃいないよ。私だって、できると思うとしか言ってないからね。絶対にできるとは言ってないよ」


「だからこそ信用できる。今までの人達は絶対にできると豪語したが、結局理由を付けてやらなかった。それにもかかわらず、出張料やら見積料を請求してきた。商人が詐欺師に騙されたら終わり――そう思っていたが、どんなに優秀でも追いつめられると正常な判断ができなくなるということなのだろう」


「そういうもんかい」


「そういうものだと思う……さて、こっちだ。お茶も出さずに悪いんだがまずは見てもらいたい」


 アーデル達は頷くとブラッドの後について行った。


 結構な階段を登り四階に到着する。


 四階の廊下はゴミ一つなく綺麗なもので、何やら高そうな像などが置かれていた。


 こんなところに像を置いて誰が見るのだろうと不思議に思うアーデルだが、色々と新鮮で周囲を見渡す。


 赤い絨毯が敷かれた廊下は五人くらいが横になってもまだ余裕があるほどの幅で、壁には等間隔で扉が付いている。そして廊下の一番奥にはかなり豪華な装飾がある両開きの扉があった。


 ブラッドは迷うことなくそこへと向かい、ノックをしてから「ブラッドです」と名乗った。


 そして扉からは「入れ」と声があった。


 ブラッドが扉を押し開けて中に入ったので、アーデル達もそれに続く。


 部屋は執務室のようで正面の立派な机でブラッドの父親らしき人物がなにかの書類を書いている最中のようだった。


「父上、祖父の魔道具から契約書を取り出せる人を見つけてきました!」


「またか……いや、ブラッドが連れてくるのは初めてだな。だが、聞いているだろう? あれは誰にも無理だ。それこそ魔の森にいたという魔女様でも連れてこなければ無理だぞ?」


「へぇ、そいつは聞き捨てならないね。ばあさんにできて私にできないのならぜひ見せてくれないか?」


 アーデルがそう言うと、ブラッドと父親が驚いた顔になった。


「ばあさんって、名前が一緒なだけじゃなくて、知っていたのか?」


「ああ、言ってなかったか。私は魔女アーデルの弟子みたいなもんだよ。ばあさんが亡くなってから名前を貰ったんだ」


 ブラッドはさらに驚いたが、父親の方は呆れた顔になっていた。


「魔女様の弟子か。最近は稀だがそう言っている詐欺師は結構いたよ……ちょっと魔法が使える奴はすぐにそう言うんだ。全員が捕まったが、そんな奴らを何人も見て来たよ」


「確かに証明できることじゃないからね。ならどうする? やめとくかい?」


 アーデルがそう言うと、ブラッドが慌てた。


「ま、待ってくれ。魔女様の弟子かどうかは関係ない。貴方は昨日、スリの亜空間から財布を取り出したんだ。それを理由に連れてきたのであって魔女様の弟子だから連れて来たわけじゃない」


 ブラッドの言葉に父親の方も少し興味を示した。そしてジッとアーデルを見つめる。そしてオフィーリアやクリムドアの方にも視線を向けた。


「確かに昨日、そんな話があったとは聞いた。スリが失敗しただけの話が変に伝わったと思っていたが、その時にいたのは黒髪の女性と若い神官、それに翼のあるトカゲだったとか」


 トカゲという言葉にアーデルは顔を背けて笑い、クリムドアは少しむくれた。そしてオフィーリアはクリムドアの背中を慰めるようにポンポンと叩く。


 ブラッドの父親はすぐに立ち上がった。そしてアーデルに頭を下げる。


「失礼した。昔、魔女様の弟子を語る者がいたとしても貴方がそうだとは限らない。それにブラッドが言うように魔女様の弟子かどうかは関係ない。力を貸してもらえないだろうか?」


「そんなに畏まらなくていいよ。別にタダでやるって話じゃないんだ。報酬はブラッドから貰うことになってるんだからね。ウチの神官が交渉したから結構ぼったくったが」


 オフィーリアは自慢げな顔をするが、父親の方は驚いた顔でブラッドを見る。


「お前が交渉したのか?」


「いえ、まあ、私も商人の端くれなので」


「そうか……では、魔道具がある部屋へ案内しよう。付いてきて欲しい」


 全員がその後をついて行く。とはいっても、すぐ近くの部屋だった。厳重に管理されているのか、扉には三つも鍵があり、それを一つ一つ開けていく。


 最後の鍵を開けて、扉を開けると、そこは昼間なのに薄暗い部屋だった。窓はあるようだが、光を遮る厚手のカーテンが掛けられていてほとんど光は入らない。


 薄暗くて最初は分からなかったが、部屋の中心に誰かがいた。


 部屋には家具も何もないが、椅子が一つだけあり、そこに誰かが座っているのだ。


 アーデル達は驚くが、ブラッドは特に驚くこともなく、その人物に近寄った。


「彼が魔道具なんだ。もしできるなら彼の亜空間から契約書を取り出してほしい。そして彼をその仕事から解放してあげて欲しいんだ」


 アーデルはそこでようやく気付く。座ってる人物は人間じゃない。もちろん、魔族やエルフ、ドワーフでもない。


 それは魔法で作られた人形だった。


「珍しい魔道具だね、ゴーレムに魔法が付与されてるのか」


 アーデルはそう言って、椅子に座っているゴーレムを見つめるのだった。


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