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良い奴と悪い奴

 

 町に着いた翌日。アーデル達はまずは何をしようかと計画を立てた。


 簡単、そして重要そうなところから始めようと、教会への報告、商人への依頼、魔道具の回収、そしてアーデルのおめかしという流れで進めようと決まった。


 そして今は教会へ向かって歩いている。


 アーデルは見るものすべてが新鮮なようで、色々とオフィーリアに説明を求めていた。


「ずいぶん活気があるけどここはなんだい? 皆が食べ物を並べているみたいだけど?」


「ここは露天街ですね。この辺りは土地がいいのか、食べ物を作りやすいんですよ。この国の半分以上の食料はここで作ってるとも言われてます。意外と安く売ってるんですよ」


 オフィーリアもアーデルの質問に対して嫌がることなく教えている。


 クリムドアも似たようなものだが、その視点はアーデルとは異なり、思った疑問をフィーリアに尋ねていた。


「それにしても、活気がありすぎじゃないか? 戦争をしている国とは思えないんだが」


 戦争となれば物資や人を国が徴収する。もっと寂れているはずだが、ここはそんなことがない。予備知識がなければ、戦争をしている国の町とは気づかない程だ。


「さっきも言いましたけど、この辺りは食糧生産の拠点みたいなものですからね。あまり締め付けて食べ物が王都の方へ行かなくなったら困るとかそんな理由だと思いますよ」


「食料を生産することで色々と免除されているということか……アーデルはどこ行った?」


「あ、またはぐれましたか。どこかのお店を覗いているのかと――いましたね」


 アーデルは肉類を扱っている露天でジッと見つめていた。肉を売っているだけではなく、調理したものも売っている店だ。


 店主である五十代くらいの男性がニコニコしながらアーデルに接客している。


「買うなら銅貨二枚だよ」


「これは鳥の肉かい?」


 アーデルは串にささって焼かれている肉を指しながら訊ねた。


「そうだね。ちょっと辛めの香辛料を振って焼くと美味しいんだ。たくさん買ってくれたらおまけしてもいいよ」


「銀貨一枚なら何本買える?」


「今焼いている肉を全部買えてお釣りが来るよ。でも、こういうお店で銀貨を出されてもお釣りはないよ?」


「そういうものなのかい?」


「ちょっと、アーデルさん、フラフラしちゃだめですよ!」


「ああ、悪かったね。なんとなくおいしそうな匂いに釣られて近寄っちまったよ。買ってくれないか?」


「朝食を食べたばかりなのになぁ……」


「私は太らないから安心していいよ」


「そんな心配はしてません」


 オフィーリアはぶつぶつ言いながらも三人分の串焼きを購入。それを全員で食べた。


「うん、美味いね。ピリ辛がいい感じだ。この香辛料をどこかで買いたいもんだが――ん?」


「なんです? これはあげませんよ? 女はたとえ後悔するのが分かっていても勝負をしなければいけないときが――」


「それは初耳だけど、そうじゃなくてね――アイツか」


 アーデルは右手に串焼きを持ちながら、左手を広げ人がいる方へ向けた。そして手を握りこんでから引き寄せるようにする。


 すると男が道を引きずられるようにやって来た。男の周囲には何もないが、見えないロープで首を引っ張られているような動きで引きずられており、それを見ている人達は何事だと驚いていた。


「く、くそ! 離せ!」


 そう叫んでいる男はアーデルの足元までくると、怯えた目つきになる。アーデルの目がそれほど冷酷なのだ。


「そのお金を入れた袋はオフィーリアのもんだ。返してもらうよ」


 アーデルは串焼きを咥え、空いた右手を何もない場所へ伸ばす。すると手首が消えた。


 それは亜空間に手を入れるのと同じだが、始めて見る人には何が起きたわからず、周囲から驚きの声が上がった。


 アーデルは手を引き抜くと、その空間からいくつもの袋が溢れるように地面へ落ちた。


「あ! 私の財布!」


 アーデルの視点では何が描かれているのか分からない動物の刺繍がされているオフィーリアの財布。それがいきなり現れたのだ。


 そして周囲の人も一緒に落ちた袋を見て、驚きの声をあげてから自分の腰回りを触った。そして「俺の財布だ!」とか「私の!」と声をあげている。


「どうやら空間魔法を使うスリだったようだな」


 クリムドアがそう言うと、地面に転がっている男が青ざめた顔になる。そして逃げようとするが、見えない力が男を押さえていて動けないようだった。


「スリって人の物を盗む奴のことかい? そういう奴がいるのは知ってたけど、そんなことに亜空間を使うなんて面白ことをするね」


「普通、空間魔法を使えたらもっとすごいことに使うんですけどね。商人さんなら引く手あまたですよ。将来安泰です」


「で、どうすんだい、この男は?」


「誰かが警備隊の人を呼んでくれたみたいですね。引き渡しましょう」


 その後、男を引き渡し、その場で簡単な事情聴取をされたが、アーデルにはそれも新鮮だったようで普通に答えていた。ただ、財布を取り戻せた人達から感謝されて少々困った感じではあった。


 串焼きを買ったお店の店主からスリを捕まえたお礼ということでもう一本串焼きを貰ったのだが、その時もアーデルは困った顔になっていた。


 アーデル達は目立ちすぎたので逃げるようにその場を去る。


 そして目的地の教会を目指したのだが、アーデルは腕を組んで首を少し傾けながら歩いていた。


 オフィーリアがそんなアーデルを見て不思議そうにする。


「どうかしました?」


「ああ、いや、何でもないよ。ほら、教会へ行こうじゃないか」


「はい、こっちですよ、今度はフラフラしないでちゃんと付いてきてくださいね」


 そう言ってオフィーリアはずんずんと歩いていく。


 アーデルとクリムドアはその後ろについて行くが、アーデルはまた首を傾けた。


「人を嫌いだったはずなのにってところか?」


 クリムドアがそう言うと、アーデルはバツが悪そうな顔をした。


「心を読むんじゃないよ。でも、まあ、その通りさ。どうも最近は調子が狂うね」


 人を嫌いだと言っておきながら普通に接することが多い。それに砦にいた隊長やスリのような悪い奴もいれば、財布を取り戻したら感謝してくれたり、串焼きをおまけしてくれたりする人もいる。


 アーデルの人に対する気持ちが色々と揺らぐ。それは今のアーデルにとって少し気持ちが悪い。


「別に悪い事じゃないと思うぞ。今までは先代のアーデル以外と接する機会はほとんどなかったんだろう? 多くの人と接するようになってちょっと混乱しているんだよ」


「そういうもんかね? まあ、いいさ。悪い奴もいれば良い奴もいる。今のところはばあさんの言う通りだったってだけさ」


「二人ともなにしてるんですかー? こっちですよー!」


 少し離れた場所からオフィーリアの呼ぶ声がする。


「あー、すぐ行くよ。ほら、クリム。急がないと怒られるよ。クッキーを貰えなくなっちまう」


「確かに料理番を怒らせるのは得策じゃないな。よし、急ごう」


 アーデルとクリムドアそう言いながらオフィーリアの方へ向かうのだった。


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