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優秀な先生

 

 村を出発してから五日、アーデル達はあと少しで目的の町に到着するという場所まで来ていた。


 普通ならもっとかかる距離なのだが、アーデルがいるので旅が楽なのだ。


 初日に行った砦跡には誰もおらず、ほとんど何も残っていなかった。


 ただ、急いで移動したのかまだ使える食器や家具などが少し残っており、アーデルが「もったいないね」と言いながら亜空間に入れていた。


 一番時間が掛かったのがその砦跡の探索くらいで、その後の旅は順調――というよりもオフィーリア曰く、「村にいるよりも快適」とのことだった。


 旅に必要な物はアーデルの亜空間に全部入っており、夜は朝まで持つ結界を張って見張りもいらない。疲れたらアーデル特製のスタミナドリンクを飲めば疲れが吹き飛ぶ。


 火を起こすのも水を飲むのもアーデルの魔法で簡単にできる。さらには魔物が出てもアーデルが瞬殺だった。オフィーリアがやったことといえば、料理を作るくらいだ。


「普通、旅って大変なんですけどね。これなら村長も来れましたよ」


「そうなのかい? 私はずっと森にいたからよく分からないけど」


「村に派遣されたときは馬車を使いましたけど倍の日数がかかりましたよ。夜も見張りとかあってあまり寝れないし、食べ物は固い干し肉だけとか……なんで焼き立てのクッキーが亜空間から出てくるんですか?」


「色々検証してみたけど、亜空間の中は時間が止まっているみたいだね。というよりも時間がない空間なんだろう。意識して使っていたわけじゃないが、面白い魔法だよ」


「そのあたりはよく分かりませんけど、いいなぁ、私もその魔法を覚えたい……」


「教えてやろうか?」


「本当ですか!?」


「オフィーリアからは料理を教えてもらっているからね。その代わりと言っちゃなんだけど教えることはできるよ。使えるようになるかは分からないけど」


「ぜひ! ぜひ、お願いします!」


「分かったから引っ付くんじゃないよ、暑苦しいね」


 そんな二人の会話をクリムドアはどことなく優し気な目で見ているのだった。




 夕方、アーデル達は目的の町へ着いた。


 砦ほどの高さではないが石でできた壁が町を覆っている。オフィーリアの話では結構大きな町で、この国でも三番目か四番目に大きい町とのことだった。


 当然の事ながら、町へ入るときにアーデル達はひと悶着あった。


 身分の証明ができないアーデルと魔物であるクリムドアを入れることができないと言われたのだ。


 ただ、そこは世界最大の規模を誇る女神サリファの信者であるオフィーリアが色々とやってくれた。自分の責任においてアーデルの身元は保証するし、クリムドアはアーデルのペットだと説得した。


 そんなこともあって、多少時間は掛かったが、普通の手続きで町に入れることになった。


「俺がアーデルのペット……」


「魔物を使役する人もいますから、それと同じに考えてくださいよ。たとえ竜でも使役されていない状態じゃ町に入れませんから」


「それは弁えているつもりだが……」


「まあ、いいじゃないか。私はそんな風に思っちゃいないから安心しな」


「……思っていなくても顔が笑っているだろうが。まあいい。せっかくオフィーリアが手続してくれたんだ。甘んじて受けようじゃないか」


「そうだね、オフィーリアがいてくれて助かったよ。クリムと私だけじゃ無理矢理町へ入った可能性があったからね」


「お役に立てて何よりです。それじゃまず今日の宿を見つけましょうか」


 オフィーリアの提案にアーデルとクリムドアは頷く。


 この町でやることは多いが、もうそろそろ日が落ちる。野宿でも快適ではあるが、久しぶりに屋根のある場所で寝たいというのもあるので、アーデル達は宿を探すのだった。




 宿が見つかり、宿泊手続きを終わらせて、アーデル達は一階の食堂で料理を待っていた。


 オフィーリアは慣れたものだったが、アーデルには色々と新鮮だったようで、宿帳に名前を書いたり、お金を払ったりするのを見るたびに「ほー」と感心していた。


「クリムだけ値段が違うのはなんでだい?」


「ペットとは言っても魔物ですからね。その分割増しになっちゃんですよ。でも、この宿はいい方ですよ。魔物は厩舎で寝泊まりしてもらうことが一般的で普通は部屋に入れてくれませんから」


「ほー、そういうもんか。でも、いいのかい? 私達の分までお金を払ってくれたんだろう?」


「大丈夫ですよ。村長さんから報酬とは別にお金を頂きましたから。贅沢はできませんけど、今日くらいは奮発して美味しいものを食べましょう!」


 そんな雑談をしながら待っていると、アーデル達よりも若そうな女性の店員が料理を運んで来た。


 アーデル達を見て少し驚いた顔をしたが、「おまちどうさまです!」と元気良く言って料理をテーブルに並べた。そしてペコリと頭を下げてから別のテーブルにも料理を運んでいた。


「この宿の娘さんですかね。働き者だなぁ」


「ああ、なるほど。でも、さっきはなんで驚いた顔をしたんだい? もしかして砦を壊滅させた魔女だと気づかれたかね?」


「それはないですよ。兵士さん達は王都方面の町へ向かってここには来ていませんから」


「なら、なんであの子は驚いたんだい?」


「たぶん、理由は二つあります」


「二つ?」


「はい、一つはクリムドアさんに驚いた。竜と思ったかどうかは分かりませんけど、珍しい魔物を連れているって思ったはずです」


「それはまあ、珍しいだろうな」


 クリムドアもそれは当然だと言わんばかりに頷いている。


 竜そのものも珍しいが、その幼体となればかなりの希少さだ。それはこの時代でなくとも同じだ。


「なら、もう一つは?」


「アーデルさんが美人で驚いた、ですね」


「……そんなお世辞はいらないよ」


 そう言いながらもアーデルはちょっと頬が赤い。


「えー、アーデルさんって美人ですよ? せっかく町に来たんですし、ちょっとおめかししません? いえ、しましょう」


「そんなことしなくていいんだよ。このローブだって魔道具の一つで結構いい物なんだよ?」


「でも、全身真っ黒って……決めました! アーデルさんをおめかしします! その背中まである黒い髪だってちゃんと櫛で梳かしましょう! 綺麗な黒髪なんだから、ぼさぼさじゃ駄目ですよ!」


「本人の意思を尊重して欲しいんだがね?」


「俺もオフィーリアに賛成だな」


 クリムドアは料理として出されたステーキを咥えながらそう言った。


「なんだい、クリムまで」


「まあ聞けって。俺も人のことは言えないが、アーデルは人間の事をあまり知らないだろう? 同世代の女性が普段何をしているのかくらい知っておくべきだと思うぞ。それで言えばオフィーリアは普通のことを良く知っている優秀な先生だと思うんだが」


 オフィーリアはコクコクと首を縦に振っている。


 アーデルも思うところがあるのか「むう」と唸った。


 魔道具を回収するためにその行為が必要なのかどうかは分からないが、それが役に立つときが来る可能性はある。なにより、ちょっと楽しそうと思ってしまった。


「あまり気は乗らないけど、そこまで言うならちょっとくらいおめかししてみようか。柄じゃないけど断る理由もないからね。オフィーリアに任せるからちゃんと頼むよ」


「もちろんです! 私のセンスに驚くといいですよ!」


「……いまいち不安だね」


 そう言いながらもアーデルは楽しそうに自分に出された料理を食べるのだった。


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