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魔力の抽出

 

 アーデル達は洞窟を奥へと進む。


 人工的な造りが全く存在しない天然の洞窟。人が通るような道もなく、ただの穴。緩やかな場所もあれば、何も見えない闇の底へ降りるしかない場所もある。魔法による灯りや飛行を使って進んでいくが、そもそも底があるのか分からないほど深い。


「本当にここにクリムさんの魂があるんですかね?」


 沈黙に耐えられなかったのか、オフィーリアが誰に聞くでもなくそう言った。それに反応したのはアーデルだ。


「神が言うにはそうらしいよ。それにこの魔力を見なよ、気を抜いたら魔力に浸食されて怪我じゃすまない。すくなくとも何もないというのはあり得ないね」


 高濃度の魔力は触れるだけで身体を蝕み死に至る。明らかにこの場所の魔力量は異常であり、来るものを完全に拒んでいる。洞窟自体は天然のものだが、この魔力が天然とは考えにくい。


 クリムドアの知識でいえば、未来でダンジョンと呼ばれる遺跡とは亜神が創った罠のような物であり、人を呼びこんで魔力を吸い取るようなもの。ここは完全に逆であり、魔力を使って人を遠ざけている。


 亜神エイブリルの場合は魔国のある島全体がテリトリーなのでダンジョンに呼び込む必要はないが、魔力で守っているということは何かしら大事なものが存在すると言っているようなものだ。


 魔王だったクリムドアの魂がなぜ必要なのか。それはアーデルにも分からないが、すくなくとも亜神エイブリルにとっては大事なものということだけは分かる。


 アーデルはクリムドアを見る。


 このダンジョンにあるクリムドアの魂がいつかいつか竜として生まれ、未来から自分のところへとやってくる。それがきっかけでオフィーリアやパペット、ブラッドやコンスタンツ、それにメイディーやフロストなどの気の置けない友人ができる。


 アーデルとしてはそんな友人たちと出会わない世界を想像できないし、想像したくもない。一年にも満たない付き合いだが、アーデルにとっては掛け替えのない仲間。決して口には出さないがそう思っている。


 自分はクリムドアからその恩恵を受けた。ならば持っている竜王の卵にクリムドアの魂をいれてキュリアスに渡さなければならない。そうでなければ、他の世界のアーデルがつまらない人生を送る可能性がある。


 そこまで考えて、アーデルは、柄じゃないね、と思い首を横に振った。亜神エイブリルは魔女アーデルの人生を狂わせた敵。そいつを倒すためだと、アーデルは改めて気合を入れた。


「アーデルさん、さっきからどうしました?」


 オフィーリアの言葉にアーデルは何でもないように答える。


「なんでもないよ。しかし、これだけ魔力が濃いと、魔物を含めて生物なんていないようだね。そういう危険がないだけでもありがたいよ」


「そうですね。でも、この洞窟ってどこまで続くんでしょうか?」


「下へ行くほど魔力が濃くなっているから下へ行くのは間違いないと思うけど、たしかにどこまでって話はあるね。さすがに今日明日くらいには目的の場所まで行けるとは思うんだけど」


「そこはパペットにお任せです。先に褒めてもいいですよ」


 パペットはそう言うとダンジョン探索用の小型ゴーレムを何体か取り出した。なぜか子熊の形をしているが、パペットはどや顔で披露している。


「以前使ってからダンジョン探索用のゴーレムを何度か改造しましたが、ようやくお披露目できました。この子達に先行させましょう。ちなみにデザインはフロストさんと水の精霊です。外見の注文が多くて困りましたが完璧だとお墨付きをもらっています」


 そんなデザインの裏話はともかく、ダンジョン探索用のゴーレムは以前も使ったことがあり、その性能は素晴らしいものだったとアーデルは記憶している。


「それはありがたいね。なら私達はちょっと休憩にして、ゴーレム達に先行してもらおうか」


 子熊型のゴーレム達はびしっと敬礼をしてから、我先にと洞窟の奥へと進んだ。


 アーデル達はそれを見届けてから、休憩の準備をする。


 こんな魔力濃度が高い場所で休憩するのは危険極まりないのだが、アーデル達のクラスになるとそこまででもない。魔力を完全に遮断するような結界を張り、そこで食事の用意などを始めた。


 そこでアーデルはさっき思った疑問を皆にぶつける。


「ところで亜神の奴はなんでクリムドアの魂をこんなところに閉じ込めているか分かるかい?」


 オフィーリア、パペット、コンスタンツの三人は全く想像も付かないようで首を横に振った。そこで首を横に振らなかったクリムドアに視線が集まる。


「憶測だが――魔力の形は魂の形と言われているのは知っているな。なら、その逆もあり得る。もしかすると魂から魔力を奪っているのかもしれない」


「魂から魔力を奪う……?」


「本来、魂とは身体を失えば霧散する。そもそも魔力を供給しているのが肉体であり、食事などにより魔力を作るからな。だが、人によって魔力量が違うように、魂そのものが魔力を作っているという説もある。もしかすると魂をそのまま存在させ、そこから魔力を搾り取ることができるのかもしれない」


「そんなことができるなんて聞いたことないけどね」


「人間、それにドワーフやエルフにも無理だろう。だが、相手は亜神だ。しかも創造神を出し抜くほどのな。それくらいできそうな気がする」


「まあ、確かにその通りだね」


 なぜここにクリムドアの魂があるのかはアーデルも知らない。キュリアスに聞けばすぐにわかることだろうが、聞いたところでやることは変わらないと思っていたからだ。それに、どんな理由であれ、クリムドアの魂は亜神から開放してやりたいと思っていたというのもある。


「でも、亜神はどうやってクリムさんの魂を捕まえたんでしょう?」


 オフィーリアの質問にクリムドアは少し唸る。そして「これも憶測だが」と言った。


「魔王であった俺――クリムドアの魂は最終的に亜神の魔力で完全に浸食されていた。それが魂をこの世界に固定して魔力を取り出すための条件なのではないかと思う」


「完全に浸食ですか……つまり、魔女アーデルさんの魂は囚われることはなかったと?」


 オフィーリアの言葉にアーデルもハッとする。ばあさんと慕った魔女アーデルも亜神に魂を侵食されていた。ならばここに囚われていてもおかしい話ではない。


「魔女アーデルの場合は大丈夫だろう。少なくともこの世界の魔女アーデルはアーデルのおかげで完全に浸食される前に亡くなったと思う。アーデルも近くに魔女アーデルの魂や魔力を感じないだろう?」


「確かに近くには感じないよ。それによく考えたら、ばあさんの魂が穏やかに消えていったのは見たから大丈夫だと思うね」


 魔力の形が見えるアーデルは魔女アーデルが亡くなった時に魔力が消えていったのを見た。それは間違いない。


 やや話題が暗くなったことを危惧したのか、オフィーリアが普段よりも明るい声を出した。


「ところで魔女アーデルさんはかなり強かったんですよね? 魔族の王であったクリムドアさんを倒しちゃうほどなんですから」


「そうだね。とはいっても私はばあさんの強さを良く知らないよ。戦っているところを見たことなんてないからね。それに普段から魔力を抑えていたし、強いのは分かるけど、その強さを目で見たことはないね」


「そうなんですか?」


「魔法も見よう見まねで覚えただけだし、教えてもらったのは魔王を殺す魔法くらいだからね。完全に相手を消滅させる魔法だから亜神にも効くと思う。魔力の消費が激しいからあまり使いたくはないけど」


「フロストちゃんの家の庭でドラゴンゾンビ相手に使ってましたっけ? そういえば、あれだけの巨体が何も残らなかったとか……」


「そういう魔法だからね。コニーの高速魔法のように使えたら神だって殺せそうだけど、さすがに複雑な上に魔力の消費が激しいから無理だろうね」


「わたくしの高速魔法はあらゆる無駄を省いておりますし、魔力消費も限界まで減らしましたからそういう派手な魔法とは真逆ですわ……ですが、いつか私も魔王を殺す魔法を使えるようになります!」


「まあ、頑張りな。コニーなら多分使えるから」


 そんな会話をしているとパペットに先行していた子熊ゴーレムが一体だけ戻ってきた。壁が邪魔をしていて先に進めないという。


 アーデル達は片づけを終えると、さらに洞窟の奥へと進むのだった。


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