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死の森の洞窟

 

 亜神エイブリルの分体を倒してから二週間が経過した。


 その間に魔国では大きな改革が行われた。


 魔王崇拝の組織に関してはルベリーが率いる部隊が各地の拠点を強襲、そのほとんどを壊滅させた。ルベリー自身が元々武闘派の議員ということもあって、その戦果はすさまじく、毎日のように拠点を潰したという連絡があったほどだ。


 また、ブラッドが農家の魔族と色々と検証し、土地の魔力が多くとも栽培が可能な食料を確認できた。すぐに収穫できるものではないが、今のところ順調に育っており、三ヶ月から半年で最終的な判断ができるだろうとブラッドが楽しそうに言っている。


 コンスタンツはアルデガロー王国の外交官的な役割もあったようで、その仕事のために魔族の議員と交流を図っている。国としての交流も考えているようで、議員の魔族を何人か連れて行ってもいいかという内容の手紙を鳥ゴーレムを使って送りつけた。駄目ならジーベイン王国に話を持っていくという脅しに近い文言も入っているのでおそらく認められるだろうとのことだ。


 そんなことがありつつも、ようやくアーデルが作っていた魔道具が完成した。問題が無いか確認しながら運用するということで、現在は畑の方で試運転がされている。今のところ問題はないようで、魔女アーデルが作った方の魔道具の代わりをしっかりと果たしていた。


 これ以外にもオフィーリアが料理教室を開いたり、パペットがゴーレムの売り込みをしたり、コンスタンツが術式の勉強会を開いたりと、たった二週間で魔族の生活も大きく変化した。主に質が向上したという。


「基本的に魔族は大雑把ですわ」


 そう言ったのはコンスタンツだ。魔族はそもそも持っている魔力の保有量が人間とは違うので、術式に無駄が多く、人間には扱いづらい物ばかりだと言う。そういうのは料理などにも影響しているようで、そういうことを踏まえて色々教えた結果だ。


「そんなことを教えたら、また魔族が脅威になるんじゃないか?」


 ブラッドがそう言うと、コンスタンツが首を横に振る。


「そんな恩知らずの魔族なら潰してしまえばいいのです」


 力をつけた魔族でも倒すことができるとコンスタンツは言っているわけだが、その自信がどこから来ているのかは全く分からない。ただ、ちょうど報告に来たルベリーがその話を聞いていて、慌てた感じに否定した。


「アーデルさん達にここまでしてもらって前のようなことがあったら、私が魔族を滅ぼします!」


「いや、そこまでは必要ないが……頼むから落ち着け」


 ルベリーの気迫に押されるブラッド。気が高ぶっているのかルベリーは本気でそのようなことを口走っており、肩で息をしている。


「そうだよ、落ち着きな。それに何か報告があるんじゃないかい?」


「あ、し、失礼しました。実は依頼があった洞窟が見つかりました」


「本当かい?」


「はい。かなり厳重に結界が張られていたのですが、逆にそれが怪しいということで調査したところ、色々な形で偽装された入り口が発見されました」


 多重結界や認識阻害、方向感覚を狂わせるなど、多くの術式が使われており、これまで誰も発見できなかったとのこと。今回見つかったのも偶然が重なっただけらしい。現在、多くの魔族がその場所で術式の解除を行っているとルベリーが報告する。


「それじゃ早速向かおうか」


「あの、先ほども言いましたが、まだ結界が張られていて中に入ることができません。もう二、三日待っていただけたら結界が解けるのですが――」


「いや、私が何とかするよ。できるだけ早めに行きたいからね」


「ですが――」


「恩を返そうとしてくれるのはありがたいけど、気にしなくていいよ。魔国はまだ食料で苦しいのに食事に気を使っていい物を出してくれているんだろう。あれで十分さ」


 宿から提供される料理のグレードが二週間前から上がっている。魔国で採れる食材はかなり少なく、感謝のために無理をしているのが分かっているのでアーデルはそう言った。


 そう言われてしまうとルベリーとしても何も言えず、すぐに洞窟まで案内しますと準備を始めるのだった。




 アーデル達が到着したのは、お昼を少し過ぎた頃だった。


 洞窟があるのは魔の森を彷彿とさせる巨大な森の中。森は明らかに他と魔力の濃度が違い、下手をしたら近づいただけで命を落とす可能性があるような場所。奥は全く見えず、動物の鳴き声すら聞こえないようなところだった。


 そんな森を見て、アーデルの頭に浮かんだのは「死の森」だ。


 ルベリーの話では、森から入って少し歩いた場所に巨大な岩があり、そこから地下へと続く洞窟があるという。


 今は魔族が何人かで交代しながら結界の解除をしている。というのも、この森の魔力量は異常で魔族ですら危険。ずっと魔力に触れていると命の危険があるとのことで、時間はかかるが安全重視で対応していた。


 アーデル達もそれに関しては全く問題ないと思っており、申し訳なさそうに謝るルベリーをなだめていた。


「場所を発見してくれただけで助かるよ。そうだね、ここから先は私とクリムだけで行こうか」


 アーデルのそれを聞いて反対したのがオフィーリアとコンスタンツだ。


「何言ってるんですか、皆で行きましょうよ!」


「フィーさんの言う通りですわ!」


「中に何があるのかは分かっているけど、危険かもしれないから二人はパペットと一緒にここで待ってておくれよ」


 クリムドアが一緒なのも危険ではあるが、この中にあるのはクリムドアの魂。その魂とクリムドアが会った場合どうなるのかは不明だが、逆にクリムドアがいない場合に魂をドラゴンの卵に入れられるか分からないためだ。


 クリムドアを守るだけならアーデルだけでできる。コンスタンツとパペットは自分の身を守れるだろうが、オフィーリアがやや厳しい。ブラッドに関してはそもそもこの場におらず、魔都に残って魔族とともに農業的な対応をしている。


「それに私に何かあった時のためにここで待機していてほしいんだ。ここは亜神の本拠地みたいなところだろうし、この辺りで待機するだけでも相当危険だろうからね」


「ダメですわ」


 アーデルが何を言おうともコンスタンツは折れない。もちろんオフィーリアやパペットもそうなのだが、コンスタンツにはちゃんとした理由があると言った。


「そもそもどれくらいの深さなのかも分かっていません。アーデルさん一人じゃ一日二日くらいしか潜れませんわ! それにクリムさんの食事はどうするのです!」


「……確かにそれはあるね」


「命の心配より俺の食事の心配をしてくれるのか……いや、こじつけか?」


「どうとっても構いません。そもそもアーデルさんは私達に過保護すぎます。フィーさんだって自分の身は自分で守れますわ!」


「そうですよ! メイディー様のところで血反吐吐くような修行したんですから自分の身くらい自分で守れます! それにサリファ様はいいました『どんな困難も友情で一発』と!」


 アーデルは眉間にしわを寄せる。女神の教えはどうでもいいが、過保護だといえば、自分ではなく周囲の皆の方だと思っているからだ。とはいえ、こうなるとアーデルに勝ち目はない。


「仕方ないね。なら、身の安全を第一に考えて行動するんだよ」


 アーデルがそう言うと、オフィーリア、パペット、コンスタンツの三人はハイタッチをしてから洞窟へ入るための準備を始めた。それを呆れた目で見つつ、ルベリーの方を見てここでの待機を依頼すると、ルベリーは快く引き受けた。


「ですが、アーデルさん、結界の方がまだ――」


「ああ、それならすぐに解くよ」


 アーデルはそう言って、結界の解除をしていた魔族たちに声をかけてから離れるように伝える。そしてしばらく周囲を見ていたアーデルは、何かしらの魔法を使った。


 すると魔法陣が出現し、そこに魔力が通ると、周囲の結界が全て破壊された。


 結界を作っていた魔力の粒子がキラキラと雪のように降ってくるが、アーデルは特に気にすることもなく「それじゃ行こうか」と驚くルベリーや魔族たちをよそに、洞窟へと入っていくのだった。


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