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亜神の模倣

 

 時の守護者――亜神エイブリルの分体を倒した日の翌日、議員たちを代表したルベリーが謝罪をしに来た。


 魔道具を作って欲しい、魔国で食べ物を作る方法を考えて欲しいなどの無茶な要求をしているところに、勢力争いに巻き込み、しかも魔王崇拝の組織と繋がっていた議員がアーデル達の命を狙ったと言うことで、ルベリーは自ら命を絶つくらいの勢いだった。


 当然それは止めたのだが、ルベリーは床に正座したまま、頭を上げようとしない。もういいと言っているのにそれを十分以上されると、むしろそれにアーデルは怒りが湧いた。


「ルベリーは私を怒らせたいのかい? そんなところに座られていても迷惑なんだよ。謝罪はもういいって言ってるんだから、いい加減、立ちな」


 アーデルが本気で怒っているのが分かったのか、ルベリーはそれにも申し訳なさそうにしつつ、のろのろと立ち上がった。


「もう、本当に、なんて、お詫びをしていいか……」


「だからもういいよ。全部終わったことだろう。それにばあさんが作った魔道具が壊れちまったんだ。早く新しい物を作らないと食べるものがなくなっちまうよ」


「……え? あ、あの、まだ作っていただけるのですか……?」


「そういう約束じゃないか。それにそっちには誰にも知られていないダンジョンの入り口を探すってお願いしたろ。魔道具はこっちでやっておくから、それをちゃんと調べておくれよ」


 アーデルの言葉にルベリーは涙目になるが、思い切り深く頭を下げると「お任せください!」とかなり気合の入った声を出した。


「頼んだよ。大体あのとき出てきた奴は私達の敵でもあるんだ。どちらかというと私達の事情に魔族を巻き込んでるようなものなんだから謝らなくていいんだよ」


「そ、そうなのですか……? いえ、それはまた後にします。今はダンジョンの入り口を見つけるのが先決ですね。すぐに探してまいります!」


 ルベリーはそう言うと、すぐに部屋の外へ出た。そして大きな声で魔族の兵士たちに色々と命令を出している。


 ようやく静かになったとアーデルは魔道具の作成に取り掛かることにした。一つ作って上手く動けば後は量産が可能だ。その最初の一個を作るのに時間がかかる。数値での調整は済んでいるが、実際に魔道具にしてからも調整しなければ土地の魔力を吸い上げるのは難しいのだ。


 育ての親である魔女アーデルはそんなことをせずとも完璧に調整された魔道具で土地の魔力を吸い上げていた。悔しいと思う反面、魔女アーデルが偉大であることが再確認できてアーデルは結構ご機嫌だ。


 そしてご機嫌な人物がもう一人いる。


 亜神エイブリルの分体を一撃で仕留めたコンスタンツだ。しかもあの魔法を使われたらアーデル自身も防げるか分からないと言うほどの賛辞を贈ったので、コンスタンツは絶好調だった。


「なんだか今日は素敵な日ですわね! すべてが輝いて見えますわ!」


「コニーさんは浮かれ過ぎですよ。でも、確かにすごい魔法でしたね。私なんか何をしたのかも分かりませんでした。いきなり相手に穴が開いて膝をつくし」


 あの高速魔法が見えたのはアーデルのみ。オフィーリアを始め、あの場にいたメンバーは位置の関係もあるが、コンスタンツの魔法を見ることはできなかった。


 オフィーリアはもちろん、パペットやブラッド、それにクリムドアも全く見えておらず、何が起きたのかを理解するまでかなりの時間がかかったほどだ。


 ただ、それは亜神エイブリルの分体以外にも効果的だったようで、ルベリーや今回のことを仕組んでいたキルフィアもコンスタンツの強さを認識した。


 ルベリーの話だと、キルフィアやメフィールたちは牢に入れられており、魔王崇拝の組織に関して尋問を受けているとのことだった。そして、あの場で色々なことを知ったキルフィアは亜神に騙されていたことを理解したようで、抵抗することなく尋問に答えていると言う。


 魔王崇拝の組織は根が深いと言われているが、キルフィアはその組織の大幹部ということもあり、組織がなくなるのも時間の問題ではないかとルベリーが言っていた。


「まあ、わたくしに掛かればこんなものですわ!」


「偶然っぽいですけど、確かにコニーさんのおかげですね」


「偶然でも何でも上手くいけばいいんです。これで魔国にコンスタンツという名前を売ることができました。ジーベイン王国ではいまいちでしたので、今回は最高の結果になりましたわ!」


 そしてコンスタンツは高笑いをする。それを呆れたような、微笑ましいような複雑な目で皆が見ているが、クリムドアが「それにしても」と声を出した。


「あれは別の世界のコニーだと言っていたか?」


 その言葉に皆が真面目な顔になる。


 亜神の分体は別の世界にいたコンスタンツを模倣したと言っていた。ジーベイン王国がアルデガロー王国に攻め込み、それにコンスタンツが抵抗したときだという。


「俺がいた世界では確かにジーベイン王国がアルデガロー王国を滅ぼした歴史になっている。その時に奮戦した貴族がいたという話も聞いた気がするが、コニーの名前かどうかは分からないな」


「それは別に構いませんわ。ただ、別の世界の私が貴族の名に恥じることのない行動をしたということが分かっただけで十分です」


「いきなり亜神の分体に話しかけるから驚いたが、意思の疎通ができるとはな」


「世界樹で出てきたフィーさんの時も似たような感じでしたから。あれも別の世界にいたフィーさんを模倣したといってましたね。たしか魔女殺しの聖女とか名乗っていたとか?」


「ちょ、コニーさん! それは私が名乗ったわけじゃないですよ!」


 ギャーギャーと騒ぐコンスタンツとオフィーリアだが、クリムドアが大きな咳をするようにして二人を止めた。


「魔女殺しの聖女は俺の世界でのフィーの二つ名だった。まあ、確かに自分で名乗っていたわけじゃないな。アーデルを殺したと言われているが、今考えるとそんなことはしていないのだろう。フィーはアーデルのことについて何も語らなかったという話が残っているし」


「たとえ別の世界の私でもアーデルさんを倒すわけがないですよ!」


 何の根拠もないはずだが、オフィーリアはそう言って胸を張った。


 そこでパペットが右手を上げた。


「私の模倣体もドワーフの鉱山で出てきましたが、あれもクリムさんの世界にいた私ですか?」


「いや、パペットの方は知らないな。何千体ものゴーレムを操ったゴーレムがいたと言う話はあるが、後の人が作った創作とも言われているから」


「それは私ですね。最強のゴーレム軍団を作ろうと思ってましたから。夢がかなって何より。褒めてもいいですよ?」


「褒めていいのかどうか分からんが、今はそんなことを考えていないんだよな?」


「考えてません。今はどうやってアーデル村にいる子供たちを楽しませるゴーレムを作るかを考えています。最近は水の精霊にも受けがいいです」


 皆が感心していると、今度はブラッドに視線が集まった。


「言っておくが、俺はどの世界でも皆のような感じにはならないと思うぞ。次に亜神と戦うことになったとしても、体を壊した冒険者なんかになったところで戦いにはなるまい」


「ブラッドさんが冒険者として活躍している世界だってきっとありますよ?」


 フォローのつもりなのか、オフィーリアがそういうと、ブラッドは首を横に振った。


「そうだといいとは思うが、これまでの亜神で考えたら次はアーデルだろう?」


「私がなんだって?」


 会話に入らず魔道具を作っていたアーデルだが、名前がでたことでブラッドたちの方を見た。少々ばつが悪いような顔になったが、ブラッドは口を開く。


「次に亜神と戦うことになったら、おそらく別の世界のアーデルを模倣するんじゃないかって話だ」


「ああ、そういう話かい。まあ、安心しな。どんな世界の私だって今の私は負けやしないよ」


 アーデルはそれだけ言うとまた魔道具の作成に戻る。


 その場にいる全員がどの世界にいるアーデルも同じように思うんだろうなと想像するのだった。


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