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最強の宮廷魔術師

 

 アーデル達はキルフィアの屋敷へ到着する。


 多くの使用人と共にキルフィア自身がアーデル達を出迎えた。その姿はなにか裏があるような感じには見えないが、コンスタンツは疑ったままだ。


 アーデル達としてはコンスタンツを信じてはいるが、ここまで表情やら感情を隠せるものなのかと少々困惑気味だ。それくらいキルフィアはアーデル達をもてなしている。


 晩餐の準備が整うまでまだしばらく時間がかかると言うことで、貴賓室らしき場所へと案内された。高級そうな家具が置かれているが、贅を尽くしたと言う感じではなく、シンプルな上で高級感があるものばかりだ。


 そのことから考えてもキルフィアが魔王崇拝の組織に絡んでいるとは思えないのだが、そこでもコンスタンツは黒幕説を変えていない。


 アーデルは本当に大丈夫かと思っていると、部屋に案内された人がいた。


「ルベリーじゃないか。どうしたんだい?」


「いえ、それがキルフィア殿から私も一緒に晩餐をどうかと誘われまして」


 ルベリーはコンスタンツに言われて信頼できる仲間に連絡を取っていたのだが、その際にキルフィアの使いがやってきたとのことだった。


 やるべきことはあるが、ここで断るとキルフィアから警戒されると考え、こちらに来ることにしたとのことだった。ただ、信頼できる仲間に連絡は済んでいて、屋敷の周辺に待機してもらっているとのことらしく、問題はないと言っている。


「こうなってくると、ルベリーさんが黒幕っぽいですよね」


「オ、オフィーリア様! わ、私はそんなことしませんよ!」


「あの、冗談ですから。でも、その驚きっぷりは本当にそう思えてしまいますよ?」


 オフィーリアは笑いながらそう言って、備え付けの茶菓子を食べる。ここの食べ物や飲み物に毒などが入っていないのは分かっており、変な魔力の流れも感じない。盗聴などもされていないので、そんな軽口が出るくらいにはのんびりしている。


「ちなみにコンスタンツさんの考えだとルベリーさんは黒幕ではないと?」


「ルベリーさんですか? あり得ませんね。クリムさんをさらう機会も何度かあったはずですし、ここまでして信頼を得ようとする理由がありません。それに貴族はなんとなく相手の匂いが分かるのです」


 匂いという言葉がでたので、ルベリーを含めた全員が自分の匂いを嗅ぐ。それをコンスタンツが呆れた顔で見ていた。


「本当の匂いというわけではありません。何と言いますか、勘みたいなものです」


「最終的に勘なのかい?」


「アーデルさん、勘を馬鹿にしてはいけませんわ。勘というのは経験から打ち出される説明できない答えのようなもの。これでもわたくしは貴族として多くの人を見てきました。信頼できる方、できない方、取るに足らない方、そんな方たちのわずかな動き、表情、視線、それらを意識して見ております。それらを総合してルベリーさんは信頼でき、キルフィアさんを信用できないと言っています」


「それはちょっと驚いたね。貴族ってのはそういうものなのかい?」


「力なき貴族はそうしなければ生き残れません。物理的な強さを持たずとも相手を破滅させることができる者、それが貴族なのですわ」


 それはどうなんだい、とアーデルは思ったが、そこまで言い切るならコンスタンツの人を見る目は確かなのかと信じることにした。


 その直後、ドアをノックする音が聞こえ、晩餐の準備が整ったとのことだった。


 アーデルは皆を見渡してから頷き、ドアを開けて部屋を出た。


 広いホールのような場所に案内されたアーデル達だが、部屋の広さと合っていない長テーブルの上には多くの料理が並べられていた。コース料理のように順番に出てくるわけではなく、好きな物を自由に食べるようなビュッフェ形式になっている。


 そしてその場にはキルフィアだけでなく、何人かの議員もいて、メフィールもいた。


 議会場で着ていたような黒いローブではなく、今はきちんと仕立てた紳士服で、自身の髪の色に合わせるのが魔国風なのか、メフィールは白、キルフィアは黒だった。


 アーデルが顔をしかめると、キルフィアが笑顔で近づいてきた。


「謝罪のための晩餐だからね、私だけでなく問題を起こした本人達も呼ばせてもらったよ。もちろん、それだけでは不意打ちみたいに思うだろうからルベリー殿も呼ばせてもらった。他にもルベリー殿の派閥から誘ったのだが忙しくて断られてしまったよ」


 ルベリー自身はメフィールたちがいることを聞いてはいなかったが、自身の派閥にも声がかかっていたことは知っていたという。この場では言っていないが、現在は屋敷を包囲しているのだろうとアーデルは想像する。


 そんな中、不満そうな顔をしているメフィールや他の議員たちはキルフィアに促されて謝罪し、頭を下げた。形だけの謝罪とはいえ、そうされてこちらが文句をいえば、こちらが悪者になるということで、謝罪を受け入れた。


「さあ、まずは食事にしよう。そうそう、魔国ではなんでも自分でやるのが主義なので給仕はいないのだ。すまないが、食べたいものは自分で取り分けて欲しい」


 ビュッフェ形式だとしても皿を片付けたり、飲み物を運んだりする給仕はいるが、それもいないようで、基本的に全部自分でやる形は珍しい。それが魔国式なのかとアーデル達は普通に飲み食いを始めた。


 たとえ毒が入っていたとしても、アーデルが作った魔道具によって効果はない。それにアーデルが料理や飲み物を魔法で確認したが、特に何もなかった。


 コンスタンツによれば、何か仕掛けてくるタイミングがあるので注意だけは怠らないようにと警告しているが、そういうことも全くなく時間だけが過ぎていく。


 キルフィアの方は色々とアーデル達に話しかけているが、メフィールをはじめとした議員たちは特に何も話さずに料理を食べているだけだ。


 クリムドアに誰かが近づくこともなく、部屋の広さに合わない静けさ。このまま晩餐が終わるのかとアーデルが思ったとき、キルフィアが「さて」と言い出した。


「ずいぶんと時間が経ってしまったようだ。そろそろお開きにしようか」


 かなり拍子抜けの状態だが、主催者にそう言われては仕方ない。


「そうかい。なら謝罪は受けたってことだ。お互いに手打ちってことでいいんだね?」


「もちろんだ。だが、待って欲しい。謝罪の品を渡そうと思っている。亜空間から取り出すから、少々待って欲しい」


 キルフィアがそう言って亜空間から高級そうな金の装飾が施された箱を取り出した。


「どうか謝罪の証としてこれを受け取ってもらえないだろうか?」


 片手で持てる程度の大きさである箱。何かしらの罠があるかもしれないと思ったが、箱からは魔力の流れを感じない。なのでアーデルは普通に手に取った。


「ぜひ開けて欲しい。気に入るといいのだが」


 アーデルはここで拒否するわけにもいかないと普通に箱を空ける。すると何らかの仕掛けがあったのか、中にあった物が飛び出し、アーデルに軽くぶつかった。


 いわゆるびっくり箱のようなもので殺傷力はない。だが、ぶつかって床に落ちた物を見てアーデルは目を見開く。直後に耳が痛いほどの甲高い音が響いた。


「コンスタンツの勘は当たっていたわけだ。謝罪と言いつつ、このタイミングを待っていたわけだね?」


「……我らの神は貴方を脅威と見ているようだ。どうにかしてそれを貴方に触らせろという命令だったのでそうさせてもらったよ。他にも色々と仕込んでいたのだが、どうやらこういう単純なものが効果的だったようだ」


「アンタ、馬鹿だろう?」


「……はて? どのあたりが馬鹿なのかね?」


「アンタらの神は、神なんかじゃない。世界を滅ぼそうとしているだけの亜神だよ。アンタらも滅ぼそうとしている対象さ。騙されたね」


「何を馬鹿な――」


「魔王であったクリムドアをおかしくしたのもその亜神さ。二度も騙されるなんて魔族ってのは本当に大丈夫なのかい?」


 アーデルはそう言って、床に落ちた黒い破片を手に取る。


「畑にあった魔力を吸い取る魔道具の欠片だね。アレを壊してまで私に触れさせたかったとは驚きだ」


 その言葉を聞いたルベリーが怒りの形相でキルフィアを見る。


「キルフィア! 貴方は一体何をしている!」


「黙れ。魔族最強とも言える力を持ちながら他種族にしっぽを振るとは、魔族の誇りはどうした?」


「誇りよりも守るべきものが――」


「二人ともそんなことしている場合じゃないよ。身を守らないと死んじまうから結界でも張っておきな」


「え? アーデルさん?」


「何を言っている……?」


「キルフィアが言う神が来るよ……たぶん、アンタごと殺そうってことだと思うけど、つまらない奴に与したから結果だからちゃんと受け入れな」


「ぐ、ぐぇ……」


 いきなりメフィールが苦しみだした。そして体から黒い液体があふれ出し、周囲の議員たちを飲み込む。


「な、なんだ、アレは――」


「アンタが言う神だよ。祈ったらどうだい?」


 アーデルはそう言いつつ、ルベリーを含む全員に結界を張った。当然キルフィアだけは結界の外だが、そちらは自分で結界を張る。


 不気味にうごめく黒い液体。それが徐々に人の形になっていく。


「……まさかとは思いますが、今度はわたくしですの?」


 黒い液体はコンスタンツの姿になる。ただ、その姿は満身創痍という状態であり、赤いドレスはボロボロで本人は全身が血で汚れている。自慢の縦ロールも形を維持できていないようで、ぼさぼさの状態だ。


 そんな偽物のコンスタンツがニヤリと笑うと口を開いた。


「別の世界に存在した最強の宮廷魔術師を模倣した。その強さはアーデルに匹敵する。今度こそお前らを殺そう」


 直後に部屋の壁と扉が燃えた。偽物のコンスタンツが一瞬で魔法陣を構築し、炎の魔法を放ったのだ。そして、アーデルに匹敵する、それは嘘ではないと言えるような魔力が偽物のコンスタンツからは溢れていた。


「素晴らしいですわ!」


 本物のコンスタンツが扇子で口元を隠しながらアーデルが張った結界の外へ出る。


「コニー! 危険――」


「ここはわたくしにやらせていただきます。あの偽物を倒せればアーデルさんよりも強いということ……ここは譲れませんわ!」


「何言ってんだい」


「まあまあ。先ほどの事は冗談ですが、アーデルさんは皆さんの保護に専念を。私も戦いに専念しますので」


 コンスタンツの真剣な目を見てアーデルはため息をつく。確かに皆を守りながらあのコンスタンツの偽物に勝つのは難しい。それほどの魔力を感じる。


 正直なところを言えば、今のコンスタンツに勝てるかどうかは分からない。だが、その自信のある目にアーデルは折れた。


「早く終わらせなよ?」


「当然ですわ。夜更かしはお肌に悪いので、速攻で片付けます。さあ、偽物さん。私がお相手ですわ」


 コンスタンツは扇子を閉じながらそう言い、閉じた扇子の先を偽物のコンスタンツに突きつけるのだった。


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