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黒幕

 

 魔国の議会場はざわついている。


 コンスタンツの「つまらない相手に与したところで、つまらない結果を共有するだけ」という言葉が、ここにいる議員に多くの影響を与えているのだ。


 先ほどのやり取りからして明らかにコンスタンツが正しい。現時点では本人の証言だけでしかなく、第三者の証人がいない。いると言っているが、アレに騙される者はいないだろう。


 武力で勝てないなら策で勝つ、それは正しいのだが、その策がポンコツでは何の意味もない。


 コンスタンツの予想では反論を許さないほどの証言、証拠を出してきて、こちらに謝罪を要求、そしてクリムドアを渡すようにいい、その上でその場で仲裁をするような人物が現れる、それが黒幕だという考えだ。


 だが、最初の一歩で間違っているというか、現時点でただの言いがかりでしかないという状況に、コンスタンツは誰が見ても分かるほどイライラしている。


「なんでそんなにイライラしてんだい?」


 先ほど我慢しなと言ったアーデルだが、コンスタンツがあまりにも怒っているようなのでまた話しかける。


 奥歯をギリギリと鳴らしているのはさすがに淑女らしからぬ行為。それを見かねた声掛けだったのだが、コンスタンツは大きく息を吐きだして怒りを鎮めたようだった。


「議員と貴族、外交をするというなら同じ立場だといえるでしょう。だからこそ他国の相手にいちゃもんをつけるときには細心の注意を払うべきです。国を代表しているとまではいいませんが、言葉一つで国を滅ぼす可能性がありますから責任は重大です。他国と大きな問題を起こしたとなれば、国はあらゆることを天秤にかけ、間違いなく失言した者やその一族をトカゲのしっぽ切りのように扱うでしょう」


 アーデルの方は小声で話しかけたのだが、コンスタンツは議会全体に聞こえるくらいの大きさでそう言った。そのおかげで議会のざわつきが収まる。


「今回のことはあまりにも雑。こちらが言い返せないほどの証拠を揃えているかと思えば、本人の証言のみで緊急会議を開き、ちょっと言い返されたら明らかに嘘と分かる状況になっています。貴族の中にも迂闊な人は当然います。ですが、今、魔国は大変な時でしょう。それなのにこの程度の議員しかいないとは、魔国の将来は暗いですわね」


「ちょ、ちょ、コニーさん! 言い過ぎですよ!」


 オフィーリアが慌ててそう言うが、コンスタンツは扇子で口元を隠しながらもふてぶてしく笑う。


「言い足りないくらいですわ。あのメフィールさんという方でこちらの威力偵察をしていたとしても、実力も策もこちらを馬鹿にしていると言っていいです。これは私達を――アルデガロー王国を侮辱しているのと同じですわ」


 アーデルは思う。コンスタンツの言動は貴族としてみると色々と怪しいが、貴族としての矜持を持っており、アルデガロー王国の貴族としての誇りも持っている。魔国側のお粗末な対応に怒っているのだ。


「メフィールさん!」


「な、なんだ……?」


 いきなり名指しされたメフィールは驚いたように反応する。


「貴方はいいように使われているのです!」


「な、何を言って……」


「誰が貴方をそそのかしたのか言いなさい! 貴方自身の考えではないでしょう! その人物は貴方を捨て駒のように使うつもりですわ! 別にいてもいなくても構わない考えが浅い議員なのですから、ことが終われば切り捨てられますわよ!」


「お、俺が切り捨てられるだと――」


 そこでパペットが手を上げた。そして一人の議員を指さす。


「メフィールさんとその他多くの方の視線があそこにいる議員へ向きました」


 コンスタンツの依頼で議員全員の表情を見ていたパペットだが、コンスタンツとメフィールの言葉から誰に視線を向けるのかを確認し、それを報告した。


 そしてアーデルも手を上げる。


「パペットがさした議員から他の何人かの議員に細い魔力が流れているね。思考誘導とかそんな類だと思うけど」


 コンスタンツは素早く扇子を閉じると、その扇子でパペットがさした議員の方へ向ける。


「同じ議員の思考を操って都合の良い状況を作ろうとするのはどうかと思いますわ。魔法で従えるなど、貴方に国の方針を決めていくだけの力量がないと言っているようなものです」


 そう言った直後、コンスタンツの扇子から炎の蛇のような物が飛び出し、その議員に巻き付いた。そして一瞬でアーデル達の前に引きずり下ろす。


 そのあまりにも早い対応に議員たちは全く動けないほど。同じ魔族で議員である一人が、アーデル達の前に拘束された状態で床に転がされているが、誰も助けられないほど早かった。


「ぐ! な、なにを……!」


「貴方も切り捨てられるだけのつまらない方ですか? それとも色々と画策している優秀な方? どちらにしても私達にちょっかいをかける相手としてメフィールさんを選んでいるようでは賢くなさそうですわね」


 コンスタンツは冷たい目で拘束されている相手を見る。あくまでも演技だが、すぐにでも首をはねそうな、そんなプレッシャーをコンスタンツは見せていた。


「待ちたまえ」


 別の議員が手を上げてコンスタンツの行動を止める。


「どうやら議員たちが君たちに失礼をしたようだ。怒りはもっともだろうが、どうか矛を収めてくれないか」


 アーデル達は少しだけほっとする。コンスタンツの怒りのせいで色々と作戦が台無しになっていたが、ようやく軌道修正されたのだ。


 コンスタンツの話によれば、この魔族が黒幕。もしくは仲裁が上手くいって悪い笑みを浮かべた相手が本当の黒幕だ。


「ここまでコケにされて謝罪もなく矛を収めろと?」


「謝罪なら私がしよう。同じ議員の軽率な振る舞いが大変な迷惑をかけてしまった。本人達にも改めて謝罪はさせるが、今日のところはこの辺りで許してもらえないだろうか」


 男性議員はそう言って頭を下げた。


 見た限りは真剣に謝っているように思える。それが善意からくるものなのか、それとも演技か。それを見極めようとしているが、それが簡単に分かるなら苦労はない。


 とはいえ、何もせずにいるのも問題なので、コンスタンツはまず目の前にいる床に倒れた議員の拘束を解いた。そして仲裁者の方を見る。


「ここで発言した以上、責任のある発言だと思いますが、間違いないですわね?」


「間違いない。こちらの問題とはいえ、このような状況になったのは私も心を痛めている。謝罪を兼ねて、ぜひとも食事を振舞わせてほしい」


 こんな状況で相手が用意した食事を食べる人がいるのかとアーデル達は思ったが、コンスタンツは少し考えただけで「そういうことでしたら、ぜひ」と承諾した。


 だが、コンスタンツは周囲に気付かれないようにパペットへ視線を送る。そのパペットは首を小さく横に振った。つまり悪い笑みをした人物はいない。


 アーデルもその首を少しだけ横に振るパペットを見て、この男がいまのところ最も怪しい黒幕なんだなと思うのだった。


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