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作戦会議

 

 アーデル達が泊っている宿に魔族の警備兵がやってきた。


 その数は百。部屋にいた全員が足りないだろうと思ったが、警備兵たちの方も困惑しており、威圧的な態度はまったくなく、かなり恐縮した様子でアーデル達に議会場まで来てもらえないかと頼んでいる。


「申し訳ありません。ルベリー様も抵抗しているのですが、魔国という国の在り方として議会で決まったことは絶対的なことでして……」


「緊急議会に出ろって話かい?」


「はい。メフィール様がそのように要求しておりまして、多くの議員が賛同しております」


「それはルベリーにも聞いたけど、なんでメフィールの言葉を信じてるのか分からないね。それにルベリーにも言ったけど、アルデガロー王国に抗議するなら好きなだけしなよ。私は構わないから」


「メフィール様は駆け引きの一環だと」


「メフィールって奴は状況が分かってるのかい? 私はそんなどうでもいい会議に出たくないって言ってるのに、どこに駆け引きの要素があるんだい?」


 そもそもアルデガロー王国に抗議するという脅しをかけているのがメフィール。駆け引きをしようとしているのはメフィール側であり、アーデルからすれば相手になっていない。


 自分が間違っているのだろうかと、アーデルはコンスタンツの方を見る。貴族と言えば駆け引きだというイメージがあるので、アーデルは珍しくコンスタンツに助けを求めている。


「明らかに駆け引きをしようとしているのはメフィールさんの方ですわね。おそらくクリムさんを寄越せとかそんな風に言ってくるでしょう」


「そうなのかい?」


 コンスタンツは部屋にいる警備兵の方へ視線を向ける。


「部屋にいる者は全員――とくに幼竜は必ず連れて来いとか命令を受けておりませんか?」


「……理由は分かりませんが、受けております」


「一つ確認なのですが、メフィールさんというのはいつもこういう強引なことをする方なのですか?」


「……そういうわけではありませんが、多少浅慮なところがありますね」


「浅慮なのに議員になれるのですか?」


「強さで議員に選ばれるほどでもありませんので、投票によって選ばれました。魔国ではそこそこの名家の出身でして他の議員から推薦されて議員になった方です」


 魔国の議員と言うのがどういう立場なのかは不明だが、警備兵にもそう言われているのなら相当浅慮なのだろうと全員が思う。


 コンスタンツは扇子を取り出すと勢いよく開いて口元を隠した。


「これはもう行くしかありません。面倒事はとっとと片付けてしまいましょう。警備兵の方、用意しますので一度部屋の外へ。そうですね、一時間ほどお待ちください」


「い、一時間ですか?」


「これは最大の譲歩です。行かなくていい緊急会議とやらに参加するのですから。それにレディは支度に時間がかかるのです。淑女を招待するなら、一週間以上前には連絡を入れておくべきですわ!」


 それは無茶な話なのだが、警備兵は「承知しました」と言い、何度も謝りながら部屋の外へ出た。


 直後にコンスタンツが深いため息をつく。


「貴族の駆け引きとは無縁でいたいのですが、仕方ありませんわね。作戦会議をしますので、頭に叩き込んでおいてください」


「え? 何をする気だい?」


「言った通り作戦会議です。会議に出る前にどうするべきか決めておきましょう。まずは情報共有ですね。おそらくですが、メフィールは誰かにそそのかされている、もしくは捨て駒のような扱いを受けていると思います」


「そうなのかい?」


「たぶんですが。メフィールは浅慮ということもあって、扱いやすい人ということでわね。駒として優秀というわけでもなく、いくらでも替えがいるような、どうなってもいい人なのでしょう。使い捨てとしては優秀と言えるかもしれませんが」


 辛辣な言葉がつらつらと出てくるところが貴族なのだろうとアーデルは思う。


「さて、フィーさん」


「え? なんでしょう?」


「緊急会議とやらでメフィールが色々言ってきますが、全部突っぱねてください」


「アーデルさんじゃなくて私がやるんですか?」


「その通りです。アーデルさんにはやってもらうことがあるので、そちらに意識を集中してもらいます。まず説明しましょう。こちらがすべての条件を突っぱねることは相手も分かっています」


 アーデルとオフィーリアの二人は首を傾げ、パペットは反応せず、クリムドアとブラッドはコンスタンツの言葉を興味深そうに聞いている。


「おそらくですが、その会議でこちらとメフィールの仲裁をする者が出てきます。それがおそらくメフィールに色々やらせている黒幕でしょう。もちろん、メフィールも操られているとは思っていないでしょうが」


「あの、すみません、コニーさんが言っていることがよく分からないのですが。仲裁した人が黒幕?」


「個人の力、政治的な駆け引き、この二つが通用しないのなら、集団の武力に訴えるが基本です。ですが、それも無理だと理解しているのでしょう。そもそも集団の武力は最初から頭になかったかもしれません。なら考えられるのは、恩を売る、という可能性ですね」


 コンスタンツにそう言われて、オフィーリアもようやく理解する。


「つまりメフィールさんに無茶をさせて、言い争いになったら、仲裁に入ると?」


「そうです。そうやってこちらに恩を売る――貴族の駆け引きの中では初歩の初歩ですが、こういうのは貴族が領地の商会などに使うと効果的ですね。揉めている二つの商会を仲裁して恩を売る。でも一方はそもそも貴族に誘導されて揉め事を起こしていた。よくある話です」


「コニーの領地で店を出している俺の前で言わないでくれ」


 コンスタンツの領地で店を出しているブラッドとしては聞き捨てならない話なのか、少し呆れた顔でブラッドはそう言った。


「私はそんな策略を使いません。いつだって正面突破です。そして必ず城を落としますわ!」


「それは説得の話なんだよな?」


 いつの間にか城を落とす話になっているが、説得のたとえ話だ。とはいえ、コンスタンツならいつの間にか本当に城を落とす話になっているかもしれないとアーデルはちょっと疑っている。


 ブラッドも納得したのか、それ以上口を挟むことはない。


「なのでフィーさんは少し感情的にメフィールの要望を否定してください。基本的にわたくしが会議の受け答えをしますが、最初に否定するのがフィーさんの役目です。つまり突撃隊長」


「責任重大ですね! ですが、安心してください。女神サリファ様は言いました『女は常に名女優』と! ならばサリファ教の聖女にお任せですよ!」


「……サリファ様がどんな意味で言ったのか大変興味深いお言葉ですが、それはまあいいです。それでパペットさんにもお願いしたいことが」


「私ですか。なんでしょう? 仲裁者をボコボコにしますか?」


 パペットはそう言ってパンチを繰り出す。


「いえ、パペットさんは会議場にいる議員全員をしっかり見ていてください」


「しっかり見る?」


「これまで説明してきたのはあくまでも予測。メフィールが本当にお馬鹿さんだったという可能性も否定はできませんし、仲裁した方が、本当に善意で動いてくれた可能性もあります――ですが、物事がうまくいったとき、どんなに頑張っても表情に出てしまうものなのです。パペットさんなら私達よりもはっきりと表情の変化が分かると思います」


「なるほど。仲裁が終わった後、悪い笑みをした奴が黒幕ということですか。了解しました。穴が開くくらい議員の顔を見ておきます」


「よろしくお願いします。そしてアーデルさん」


「私は何をするんだい?」


「議員たちに変な魔法が掛かっていないか、怪しげな魔道具を持っていないか、そのあたりを注意して見ていてもらえますか。どうもメフィールに賛同する議員が多いというのが引っかかりますので」


「思考誘導の魔法とかそういうことか。それなら私の分野だね」


「はい、では、作戦会議はここまで。さあ、皆さん、戦場に殴り込みをかけますわ。今日一日で片付けますから敵を素早く殲滅しましょう」


 アーデルを除く女性陣が「おー」と気合を入れたのだが、特にすることを言われなかったクリムドアとブラッドだけは少しだけ残念がり、アーデルは呆れた顔をしつつも、少しだけ笑みを浮かべたのだった。


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