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危うい魔族

 

 畑の調査をした翌日、宿で朝食をとっていたアーデルたちの部屋にルベリーがやってきた。


 かなり慌てていたようで、最初、何を言っているのか分からないほどだった。オフィーリアがコップに水を用意してゆっくり飲ませたあと、ようやく事情が判明する。


 昨日襲ってきた魔族のメフィールがアーデル達に謝罪を求めるための緊急議会を招集し、アーデル達をそれに参加させるという話だった。


 アーデル側からすれば、あれは正当防衛。謝罪と言うならメフィール側からするべきだが、なぜこちらが謝罪をする必要があるのか全く分からない。


 ルベリーの話ではメフィールがアーデルのことについて、一方的に襲ってきたとか、畑に変なことをしているとか、嘘を振りまいているとのことで、多くの議員がそれに賛同したとのことだった。


「その場にルベリーもいたのになんでそんな話になってんだい? それに因縁を吹っかけられないように負けたって話を広めてくれたんだろう?」


「すみません……恥ずかしい話ですが、私が所属している派閥から何人かが寝返りまして、多数決で負けてしまいました……」


 戦闘力で言えばルベリーの方が強い。それは間違いないのだが、強いだけですべての決定権があるわけではない。あくまでも多数決により魔国の運営が決まる。


 今回の件も、ルベリーを信じるか、メフィールを信じるかという話になったとき、メフィールを支持する魔族が多かったと言うだけの話だ。


「事情は分かったけど、私がそれに従う理由があるのかい?」


 アーデルは根本的な問いかけをする。魔国にいる以上、魔国の法律に従うべきだろうが、そんな理不尽を言われたところで従う理由はない。


「命令に従わないときは、アルデガロー王国へ抗議文を送ると……」


「送っていいよ」


「それはアーデルさんも困りますよね……え?」


「抗議文でもなんでも送りな。私はかまわないよ」


「いやいや、何を言っているんですか! 国に抗議文を送るとなったら、アーデルさんにアルデガロー王国から逮捕状が出たり、投獄されてしまうかもしれませんよ!?」


 この会話を聞いていた全員がそれはないと思ったが、コンスタンツが代表して口を開く。


「悲しいことですが、アーデルさんを捕まえられるだけの戦力が我が国にはありません」


「本当に悲しいことをいうんじゃないよ。それにコンスタンツならいい線いくとおもうんだけどね?」


「いい線いくという評価がいいのか悪いのか微妙ですが、自分の実力くらい分かっています。アーデルさんは一国の戦力と同等かそれ以上なのです。国でどうこうできるレベルではありません。それは魔国も同様です」


 その言葉にアーデルとルベリー以外の全員が頷く。


「それにアーデルさんはアルデガロー王国になくてはならない存在。魔国と戦争になってもアーデルさんの機嫌を取ろうとするでしょう。つまり、抗議文を送るという行為は脅しにならないということです。どちらかといえば、アルデガロー王国はアーデルさんに国にいてくれと頼んでいる立場なのですから」


「は、はぁ……」


「おそらく昨日の魔族はもっと上の魔族にちょっかいをかけろと言われたのでしょう。そしてなんらかの因縁をつけて、こちらに対して優位に立とうとしている。人間の貴族でも良くやる手ではありますが、そういうのは同等以下の相手にしか通用しません。圧倒的な力を持つアーデルさんにそれをしたところで意味はないのです」


「で、では、緊急議会には参加しないと……?」


「はい。アーデルさんも言っていましたが、好きにすればいいでしょう。アーデルさんは魔道具の作成に忙しいので、そんなことに構っている暇はないと言えばいいと思います。ただ――」


「ただ、なんでしょう?」


「これは忠告ですが、怒りに任せてアーデルさんを捕まえようとか武力的な行為は控えた方がいいと思います。昨日程度の話ではなくなりますので」


 ルベリーは思考が止まったような顔をしていたが、理由が分かったのか大きくうなずいた。


「分かりました。では、私の方から伝えておきます……毎日のように迷惑をかけて申し訳ありません」


「魔国も大変ですわね。我が国も色々やらかしていましたが、こういうのはなかなか直りま――よく考えたら、我が国が危なくなったのは魔族のせいでしたわよね……?」


「うぐ、も、申し訳ないです。ですが、誓ってあれは魔国の総意ではないのです。一部の魔族が暴走した結果でして……」


「分かっています。おそらくですが、メフィールという魔族が所属している派閥がそれをやったのでしょう。今回の件でアーデルさんだけでなく、アルデガロー王国に対して優位に立とうとかそんなところでしょうね。おそらく魔族の現状を大きく変えたいという派閥――魔王崇拝の派閥なのかもしれませんね」


 アーデル達は朝食をとりながら「ふーん」くらいの感想しかない。そもそも政治は王族や貴族がやることであり、アーデル達に何かの決定権はないので興味もないのだ。


 ルベリーは何度も頭をさげてから、部屋を出て行った。


 それを見送った後、コンスタンツは紅茶を一口飲んでから、大きく息を吐く。


「それでどうします?」


「どうするって何が?」


「間違いなく今度は大量の魔族を引き連れてやってきます。全部叩きのめしますか?」


「そうなのかい?」


「当然です。政治的なことでも個人の実力でも勝てないなら今度は集団による武力というのは基本ですから。昨日の相手はもう少し恐怖を与えていた方が良かったですわね。いきなり気絶したので、アーデルさんの強さを実感できなかったのでしょう。そうそう、フィーさんやクリムさんは人質にならないように気を付けてくださいまし」


 可能性があるならこの二人。パペットやブラッドなら武力的に何とかなる。ブラッドは身体的な理由から少々心配だが、男性ということもあって狙われる可能性は低い。


「私を心配してくれるんですね! ありがとうございます!」


「いえ、どちらかというと魔族の方が心配です。とくにフィーさんが人質になったら、アーデルさんがキレますので。もしかしたらこの魔都が無くなってしまうかもしれません」


「何言ってんだい。誰が人質になろうともキレる自信があるよ。コニーは別に平気だけど」


「それは聞き捨てなりませんわ!」


「コニーが人質になるわけないじゃないか。何かしら理由があって人質になると思ったからだよ。そういう点ではパペットもそうだね」


「いえ、遠慮なくキレてください。むしろ人質になってもいいです」


 そんなどうでもいい話題で盛り上がる女性陣。それを横目に見ているクリムドアとブラッドは、ゆっくりと食事をしている。


 ブラッドが食べていた物を飲み込んだ。


「なんだか面倒なことになっているな。しかもアーデルに対して脅しをかけるとは、魔族は何を考えているんだろうか」


「相手に言うことを聞かせるのに手っ取り早いのは信頼じゃなく武力だからな。ただ、武力で言うことを聞かせたとしても、本当に言うことを聞いてくれるのか分からないし、より大きな武力で裏切られる可能性もある。魔族はそれを分かっていないような気がする」


「商人でも似たような話はあるな。武力によって手に入れた利益は武力によって失うとか」


「アーデルほどの力があれば奪われることなんかないだろうが、国に匹敵する戦力を持つアーデルに何をするのか。ちょっと魔族が心配だな。状況を理解していないというか、情報を得られていない。魔族はずいぶんと危ういな」


「魔国との取引は続けたいが、ちょっと考えないといけないか……?」


 なぜかアーデルよりも魔国の心配をするクリムドアとブラッド。話を聞いていたアーデルは、まずは私の心配をしなよと心の中でつぶやくのだった。


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