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村の復興

 

「アーデルさん! なんでそんなに砂糖を入れちゃうんですか!」


「ケチケチするんじゃないよ。クッキーは砂糖が多い方が美味しいに決まってるだろ?」


 それを聞いたオフィーリアはアーデルに向かって両手を軽く広げ、やれやれというポーズを取る。


 アーデルは少しイラっとした。


「いいですか、アーデルさん。砂糖とは悪魔が作った調味料なんです」


「熱でもあんのかい?」


「元気です。砂糖は甘くて食べれば食べるほど幸せになれる調味料であることは間違いありませんよね?」


「確かにそうだね」


「でも、それは後日、確実に悪魔となって体に現れるんです! お腹まわりとか二の腕に! 一時の欲求のために取り返しのつかない事態に……! あの時の自分を叱ってやりたい!」


「ああ、太るのか。私は太ったことがないから分からないけど――なんで親の仇みたいに私を見るんだい?」


「世界の半分を敵に回して何を言ってるんですか。闇討ちされても文句は言えませんよ。それはともかく、アーデルさんは薬の調合をするじゃないですか。ちゃんとレシピ通りに作らないと大変なことになるでしょう? 料理も同じです」


「それは確かに言えてるね。何事もまずは基本からか。じゃあ、これは失敗かい?」


「いえ、これはこれで作りましょう。食べ物を粗末にするくらいなら太りなさいという女神様の教えがあります。悪魔も覚悟して受け入れれば大丈夫です」


「女神はそんなこと言ってないって怒ってると思うけどね」


「大丈夫ですよ、女神様ですから怒りません。それじゃ、かき混ぜる前にこっちの下準備もしておきましょう。先に言っておきますけど、塩を入れすぎたらだめですからね!」


 アーデルとオフィーリアはそんな会話をしながら料理を作っている。


 砦を壊滅させてから一週間、村の広場では毎日のようにこんな光景が続いていた。


 村の家や教会はほとんど燃えてしまったが、教会の地下に貯蔵してあった食料は焼けずに済んだ。それを調理して村の皆に配っているのだ。


 それだけではなく、アーデルが魔の森で魔物を狩り、その肉を持って来ていた。普段の食事よりも豪華すぎて村人達は恐縮するほどだ。


 そんなアーデルを見て、クリムドアが「人嫌いなんじゃなかったか?」とニヤニヤしながら聞くと、アーデルは「フン」と鼻で笑った。


「ヒュドラを倒して湖を浄化し、焼ける教会から救ってやったのに、家や食い物が無くて死んじまったとなったら働き損じゃないか。色々と助けてやったんだから最後まで面倒見てやってるだけだよ」


 アーデルはこの一週間「まったく面倒だね」とブツブツ言いながらも、魔法で魔の森の木を伐採して村に囲いを作ったり、家を建てたりと誰よりも貢献している。そしてオフィーリアに料理を教わる名目で村人のために料理を作っていた。


 そんな状況にオフィーリアも村人達もアーデルに感謝してもしきれないほどだった。


 ただ、問題がないわけではない。


 砦が壊滅してしまったせいなのか、村に来るはずの行商人が来ないのだ。


 村ですべてが揃うならともかく、砂糖や塩、それに胡椒など、村では絶対に作れない物もある。


 この辺りは魔の森が近くにある影響か、採れる薬草に需要があり、それと交換でそういったものを手に入れていたのだが、ここまで運んでくれる人がいなければ薬草がいくらあっても意味がない。


 そこで村長が一番近い町まで行って買ってくる、もしくは行商人と話をつけるという話になった。


 だが、それをオフィーリアが却下する。


 村長はそれなりに高齢で、一番近い町でもかなりの距離があり、長旅は危険だという理由だ。


「私が村長さんの代わりに行ってきますよ。それに教会が焼けたのでその説明をしに行かないといけないので」


 村長達は色々と悩んだ結果、オフィーリアに頼み、アーデルには護衛を頼んだ。


 村のことを色々やってもらった上に、こんなことまで頼むのは気が引けるが、ぜひお願いしたいと頭を下げて頼んだのだ。


 護衛を頼まれたアーデルだが、オフィーリアと町へ行くのは悪くないと思っていた。


 自分には世間一般の知識が足らないがオフィーリアと一緒ならなんとかなる。クリムドアもいるが、この時代に生きているオフィーリアの方がより良い結果になるのではと考えた。


 アーデルとしても魔道具の回収があるし、目的の町にも魔道具を貸した人物がいるので断る理由はない。護衛を引き受けることにした。


 無償で良かったのだが、村長達が「こんなものしかありませんが」と村人が集めた薬草を報酬として渡してきた。


 オフィーリアも「教会からのお給金がありますので」と銀貨を五枚、アーデルに渡した。


 護衛を雇うには全く足りないらしいが、もともと報酬がいらなかったアーデルは「なら貰っておくよ」と貰った。


 とはいえ、村はまだ荒れた状態。アーデル達がしばらくいなくともやっていける状況にしてから出発するという事に決まった。




 さらに一週間ほどが過ぎ、村は以前通り――よりも遥かに立派な状態になった。


 家や教会は綺麗になり、しばらくは持つほどの食糧も確保した。


 さらにアーデルは村の噴水に水の精霊を召喚した。毎日噴水に川の水を汲み入れて綺麗にする、そういう条件で村を守ってくれと頼んだのだ。よほどの軍隊でもなければ村を襲うことができない程になった。


 またアーデルは村に菜園を作り「植えときな」と言って種や苗木を渡した。それと簡単な薬の調合まで教えるほどだった。


「アーデル様、ここまでしてもらっても私達には返せるものが――」


「そんなことは期待しちゃいないよ。それにこれはばあさんが村長達を怯えさせちまった詫びみたいなもんだ。詫びとは言っても、ばあさんが悪いなんてこれっぽっちも思っちゃいないけどね」


 先代のアーデルは魔の森に閉じこもっていた。


 何をしているのか分からないから不気味に思われ、恐れられていたのだろうとクリムドアが言った。もっと周囲の人と話をしてどんな人物なのかを分かって貰えていたら評価も変わっただろうとのことだ。


 先代のアーデルが魔の森にいたのは理由があるが、アーデルも思うところはあった。なので積極的に貢献し、怖がる必要はないと示していたのだ。


「色々やったけど、私は気まぐれで魔法をぶっ放すような怖い奴じゃないっていうアピールをしているだけだから気にしなくていいよ」


「あの……湖でヒュドラを倒し、教会の扉を開けて助けてくださった上に、オフィーリアを助けに単独で砦へ向かったアーデル様に感謝することはあっても、怖がってはいないのですが……」


「……それでもだよ。でも、おんぶに抱っこの状態じゃ困るからね。あとは村長達がやりな。精霊も菜園も準備はしてやったが、それだけじゃ意味がないからね」


 精霊のために噴水の掃除は欠かせない、菜園で育てる物にはこまめな手入れが必要になる。薬草はそのままでは効果が低いが、調合できれば効果の高い薬になる。


 アーデルが用意したものは、あるだけで生活が楽になるものではないのだ。


 村長は深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。この村でアーデル様のことをずっと称えていきますので」


「そんなことはしなくていいから、ばあさんを称えな……いや、私を称えるってことはばあさんを称えることと一緒なのかね……?」


 そんな話をしていると、オフィーリアが教会から出て来て、手に持ったフライパンをレードルで叩いた。


「はーい、食事の時間ですよー。明日は出発なので今日は奮発しました! 早くしないとクリムドアさんが食べちゃいますよ!」


「クリム! 私の分まで食べたら丸焼きにして食っちまうよ!」


「そんなことするわけないだろう。オフィーリアも俺を食いしん坊みたいに言わないでくれ」


「つまみ食いをした子は十分に食いしん坊です」


「そ、それは内緒にしてくれと言っただろう!?」


 そんな騒がしくも楽しい食事が今日も始まるのだった。


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