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黒い炎

 

 魔都に着いた翌日、アーデル達はルベリーの案内で小麦畑までやってきた。


 現在は種をまいた直後のようで見た目は寂しいが、刈り取る時はまさに黄金色と言えるほど実るとルベリーは自慢げに言っている。それも魔女アーデルが作ってくれた魔道具のおかげだとも言っているが。


 この世界の主食とも言うべきパンだが、それは魔族も例外ではなく、ここでとれた小麦からパンを作って食べることが多い。他にもパスタのような麺類などがあるとのことだった。


 アーデルも普通の人がどんな仕事をしているのかは知らないと言うこともあって、アーデル村にいた頃は色々見て回った。フロストと共に社会勉強という形で人間の畑を見学したこともある。


 それから見ればここの小麦畑は小規模と言える。少なくとも魔族全体に食事がいきわたるレベルではない。しかも、まともな小麦が作れるのはこの周辺だけであり、もっと地方に行くと食材として適するものはほんのわずかしかとれないとのことだった。


 アーデルは小麦畑の端に座り込み、土を手に取った。それを見つめてから、指でこする。ぽろぽろと土が砕かれたように地面に落ちると、アーデルは手に着いた土を払ってから立ち上がった。


「ここの土は魔力が少ないね」


 アーデルはそう言ってから、今度は亜空間から瓶を取り出す。そこには土が入っており、魔国でよく見られる畑以外の土だ。それを手のひらに乗せて感触を確かめてから、その土を地面に少しだけ撒いた。


 数分後、アーデルは撒いた土をジッと見つめる。すると、その土から魔力が吸い取られているのが分かった。


「すごいね。魔力を吸い取る魔道具なのだろうけど、ほんの数分で土から魔力を奪ったよ。さすがは、ばあさんが作った魔道具だ」


「嬉しそうですね?」


「そりゃあね。自分よりも上にいる人がいるってのは嬉しいもんさ。しかもそれが育ての親でもあるばあさんだ。私なんかまだまだってわけさ」


 オフィーリアの問いかけに満面の笑みで答えるアーデル。自分ならどう作るかと思案しているのだが、どれもしっくりこない。どういう物を作ったのかと想像するだけでも頬が緩む。


「では、こちらへどうぞ。魔女アーデル様が作ってくださった魔道具がありますので」


 魔女アーデルが作った魔道具は厳重に管理されている。この魔道具がなくなることは魔国の滅亡を意味すると言ってもよく、これに手を出す者は相当重い罪を背負うことになるとルベリーは言っている。


 さすがに魔王クリムドアを崇拝する組織もこれには手を出さないようで、ここが襲われたことはないという。ただ、情報によれば一部の過激派がこれを破壊しようと企んでもいるようだった。そうすることで、人間の国に攻め込むしかない状況を作ろうという考えらしい。


 アーデルとしても魔道具の破壊か回収を目論んでいるので、たいして変わりはないのだが、当然無理矢理ということは全く考えていない。だからこそ、どういう魔道具なのかを確認しに来ている。


 ルベリーの案内で小さな神殿のような場所へやってきた。小麦畑の中心というわけではなく、小麦畑を見下ろせるような高台にそれはある。


 木製の扉はあるが、厳重に鍵がかかっているらしく、よほどの理由がない限りは開けてはいけないとのことだ。ルベリーは鍵を亜空間から取り出すと、扉にある鍵穴に差し込んだ。


 小気味良い音が響くと扉が開錠された。そしてルベリーを先頭にその神殿へと足を踏み入れる。


 中は質素な造りで、一メートルくらいの高さしかない台座があった。その上にスイカほどの大きさがある水晶玉が置かれているのだが、それを見たアーデルは顔をしかめた。


「ルベリーがこれを最後に見たのはいつだい?」


「そうですね……一年ほど前でしょうか。これは魔国の生命線ともいえるものですので、定期的にチェックをしています。ですが、それがなにか?」


「一年前もこんなに黒かったのかい?」


 台座の上にある水晶は黒く濁っている。その黒い何かは炎のようにうごめいていた。


「そうですね、前からこの状態ですが……?」


「これを最初に持ってきた奴もそう言ってたかい?」


「いえ、どうでしょうか。これを魔女アーデル様から借りてきた者はすでに亡くなっていますので……」


 明らかに異質な黒い炎。その黒い光を見ていると徐々に気持ちが悪くなる。アーデルはクリムドアの方を見た。クリムドアはアーデルが何が言いたいのか分かったのか、頷くだけで返事をした。


「皆、ここから外に出な。この光に当たってると体の調子を悪くするよ」


 クリムドア以外は不思議そうな顔をしたが、アーデルの言うことは間違いないと全員が素直に外へ出た。ルベリーにすぐ鍵をかけるように依頼してからアーデルは大きく息を吸った。


 外の空気も魔力だらけで爽快感はないが、あの神殿の中よりはましだと、さらに大きく息を吸う。


「アーデル様、あの魔道具がどんなものか分かりましたか? 量産はできます?」


「まあ、だいたいね。簡単にいえば周辺の大地から魔力を吸い取る魔道具さ。規模は馬鹿でかいけど、やってることはそれだけだね」


「あの一瞬でそこまで……ではアーデル様にも作れますか?」


「悪いけどアレは作れない。というか、あれを作ったらヤバいから駄目だよ」


「え? どういうことでしょう?」


「吸い取った魔力をどうしているのかという話さ。魔力は消えてなくなるわけじゃない。吸い取った魔力をどうにかしないといけないんだが、あれは吸い取った魔力で黒い炎を作っているんだよ」


「ああ、あの黒いものですか。アーデル様はあの黒い炎は作れないと?」


「確かに作れないというのはあるけど、作りたくないね」


「ええ?」


「コニー、悪いけど、ルベリーに説明してやっておくれよ。私は魔道具のことを考えてるから」


「全部説明してよろしいのですか?」


「いいよ」


 アーデルはそう言うと腕を組んで考え始めた。


 そしてコンスタンツは目を輝かせながら、ルベリーの方を見る。


「先ほどの黒い炎は生きている物を殺す厄介なものなのです。まだ完全ではありませんし、神殿の中で管理していたから被害らしいものはないでしょうが」


「え? え?」


「あれは最終的に黒い太陽になります。そしてあらゆる生物を殺すのです。すぐにでも使用をやめるか破壊した方がいいですわね」


 ルベリーはコンスタンツが言っていることが理解できないのか、この場にいる全員に視線を向けて、どういうこと、と目で訴えている。


「これは内緒でお願いしますが、魔女アーデル様は亜神に思考を誘導されていて、世界を滅亡させる魔道具を作っていたのです。その一つがこの魔道具であり、このまま魔力を吸い取るのは危険だということです」


「はぁ……」


 言っていることは理解できるが、何を言っているか分からない。そんな顔をしているルベリー。そんなルベリーにコンスタンツは優しく微笑みかける。


「まあ、安心なさいな。アーデルさんが代わりの魔道具を作ってくれるでしょうから。ただ、あの魔道具は回収させていただきます」


「それなら安心ですが……え? 嘘なんですよね?」


「本当です。色々と秘密裏にやりたかったのですが、状況が変わったので事情を説明させていただきました。詳しく知りたいと言うなら宿に戻ってから説明しましょう。アーデルさん、それでいいですわよね?」


「え? ああ、そうだね。あれに代わる魔道具を作らなくちゃいけないし、そのあたりはコニーに任せるよ。さて、どうしたものかね……」


 あの魔道具に代わるものをどう作るか悩むアーデル。吸い取った魔力をどう消費させるべきか、それに頭を悩ませながら、オフィーリアとパペットに手を引かれて宿の方へと戻るのだった。


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